続・まねきTV事件高裁決定

先日簡単に紹介したまねきTV事件高裁決定*1


今回は、地裁決定としてアップされていたフジテレビの事案以外に、
複数の放送局の申し立て事案に対する決定内容がアップされているが、
ざっと見たところ内容はほとんど変わりがないようなので、
ここでは、地裁決定も掲載された「フジテレビ対永野商店」の決定文に
即してみていくことにする。

ベースステーション」等の「自動公衆送信装置」該当性について

抗告人側はまず、
被抗告人がサービスに供している多数のベースステーション、分配機、
ケーブル、ハブ、ルーター等の機器が
有機的に結合されて一つのサーバと同様の機能を果たすシステム」
を構築しており、
「全体としてみれば」一つの自動公衆送信装置として評価されるべき、
と主張した上で、
ルーターにおいて「ポートフォワーディング」*2を用いる設定を
行っており、「システム全体を一台のコンピュータとして認識できる」
ようにしていたこと等を論拠として挙げていたのだが、


裁判所は、

ベースステーションによって行われている送信は、個別の利用者の求めに応じて、当該利用者の所有するベースステーションから利用者があらかじめ指定したアドレス(通常は利用者自身)宛てにされているものであり、送信の実質がこのようなものである以上、本件サービスに関係する機器を一体としてみたとしても、「自動公衆送信装置」該当性の判断を左右するものではない。」(9頁)

「各端末が「1対1」の送信を行う機能しか有しないときは、この技術を用いたとしても、「1対1」の送信しかできないのであって、「1対多」の送信が可能になるものではない。したがって、「ポートフォワーディング」を用いる設定を行っていても、そのことから直ちにベースステーションを含む一連の機器が全体として、1台の「自動公衆送信装置」に該当することにはならない」(9-10頁)

として、「自動公衆送信装置」該当性を否定した。

送信可能化行為の主体について

続いて、抗告人は、
被抗告人がインターネット回線に接続されているベースステーション
アンテナを接続して放送波を入力していることは、
著作権法2条1項9号の5イに該当し、
既に放送波が入力されているベースステーション
インターネット回線に接続して、
利用者が当該放送を視聴しうる状態にしていることは
同5ロに該当する、と主張したが、


ここでも裁判所は、

ベースステーションは「1対1」の送信を行う機能のみを有するものであって、「自動公衆送信装置」に該当するものではないから、被控訴人がベースステーションにアンテナを接続したり、ベースステーションをインターネット回線に接続したりしても、その行為が送信可能化行為に該当しないことは明らかである」(10頁)

として、抗告人側の主張を全面的に退けた。


裁判所も指摘するとおり、
被抗告人の行為は個々の機器を接続するものに過ぎず、
個々の機器が「単独で他の機器に送信する機能を有するものではな」い
というのは明らかなので、
先の論点で抗告人が行った「全体として一つのシステムを構築している」
という主張が認められない限り、
その後の主張も苦しくなってしまうのは否めなかったのであり、
結果としてこのような判断に至るのは、当然予想されたことといえよう。

著作隣接権侵害の主張に対する判断(まとめ)

以上、裁判所は抗告人の主張を一つ一つ退けた後に、
「送信可能化行為」該当性に対する結論を以下のようにまとめた。

(ア)ベースステーションの機能
「本件サービスにおいて用いられるベースステーションは、あらかじめ設定された単一のアドレス宛てに送信する機能しかなく、1台のベースステーションについてみれば、「1対1」の送受信が行われるもので、「1対多」の送受信を行う機能を有しない」
(イ)本件サービスにおけるベースステーションの利用形態
「各ベースステーションからの送信の宛先は、これを所有する利用者が別途設置している専用モニター又はパソコンに設定されており、被抗告人がこの設定を任意に変更することはできない」
(ウ)送信の契機等
「各ベースステーションからの送信は、これを所有する利用者の発する指令により開始され、当該利用者の選択する放送について行われるものに限られており、被抗告人がこれに関与することはない。」(11頁)

「本件において、ベースステーションの機能、利用形態及び送信の契機等の上記の各事情を総合考慮すれば、ベースステーションないしこれを含む一連の機器が「自動公衆送信装置」に該当するということはできず、ベースステーションから行われる送信も「公衆送信」に該当するものではない。被抗告人の行為は、単に各利用者からその所有に係るベースステーションの寄託を受けて、電源とアンテナの接続環境を供給するだけであって、著作権法99条の2所定の送信可能化行為に該当するものではない。」(11頁)

個々の利用者がベースステーションを一人一台所有せねばならず、
サービス提供者のサービスへの関与が限定される
本件のようなスキームは、純粋にサービスとしての側面からみれば、
“効率性に乏しく迂遠なもの”というべきなのかもしれない。


だが、サービスとしての効率性を犠牲にしても、
権利者による追及を免れうる方法を模索した(?)
抗告人側のスキームが、かくして一定の戦果を収めているのも
また事実である。


いずれにせよ、システム構成と、サービス提供者の関与の程度から、
著作隣接権侵害を否定した本件高裁決定には、
この種の紛争リスクに晒される事業者に一定のヒントを与えた、
という点で大きな意義があるのは間違いないところである。

申立ての趣旨の変更の適法性について

以上見てきたような著作隣接権侵害に対する判断は、
原決定とほとんど同じアプローチで結論が出されているものであり、
ある意味順当なもの、ということができる。


一方、抗告人側が抗告審で追加することを試みた
著作権侵害に基づく請求に対する判断は、
これまであまり見かけなかった決定要旨であり、
それゆえの面白さがある。


すなわち、裁判所は、

「放送等に係る番組等の内容、著作権の帰属のいかんを問わず発生する権利」

である送信可能化権著作隣接権)と、

「当該著作物が放送されているか否か、どの事業者に放送されているか」

を問わない公衆送信権著作権)の違いを踏まえ、

「両社がその性質において異なる権利であり、被保全権利の存在を認めるための審理の対象となる事実関係も全く異なるものであることに照らせば、抗告人において権利侵害行為として主張する被抗告人の事実行為が同一のものであるとしても、当審における追加申立てに係る本件申立て2が原審における本件申立て1と請求の基礎を同一とすると解することはできない」(12頁)

として、申立ての趣旨の変更(選択的併合)を認めなかったのである。


この事案に関して言えば、
ここで却下されても本訴であらためて著作権侵害を争うという途が
残されてはいるのだが、一般的には、請求の特定の困難さなどから、
本訴の途中で著作権著作隣接権)侵害の主張を追加することも
十分に考えられるのであり、上記のような判断の影響は
案外大きいのかもしれない、というのが素朴な感想である。

なお、付言するに・・・(笑)

ここまで抗告人側の主張をことごとく退けてきた三村コートが、
最後の最後でもトドメを差した、というのが、
以下の判断である。

「なお、付言するに、本件申立て2は、被抗告人が「アンテナ端子から各ベースステーションへ放送番組を送信する行為が有線放送行為」に当たるとするものであるが、前記1(2)において説示したとおり、アンテナが単独で他の機器に送信する機能を有するものではなく、受信機に接続して受信設備の一環をなすものであること(分配機を介した場合も同様である。)は、技術常識であるから、被抗告人の行為が、本件著作物の公衆送信行為に該当することはないというべきである。」(13頁)

抗告人にしてみれば、
著作隣接権侵害に関する主張で、原決定を“追認”された上に、
追加した著作権侵害の主張でも、形式面・実質面ともに排斥、と
踏んだり蹴ったり状態になっているといえるが、
著作隣接権非侵害」を導いた論旨からすれば、
このあたりの説示は十分に予想できたことで、
筆者としては、
抗告審において「公衆送信権侵害」をあえて持ち出してきた
抗告人側の意図をイマイチ図りかねている。


単に「言えることは全部言っておこう」という発想から
出てきた話なのか、
それとも「著作権侵害をベースに戦えば原決定と異なる判断になりうる」
と、何らかの勝算をもって追加しようとしたのか、
真相は知る由もないのであるが、
少なくとも「公衆送信」という行為態様に関して言えば、
上記主張を追加したことで、
かえって被抗告人のサービス(及び同種のサービス)に
お墨付きを与えてしまったのではないか、と
(老婆心ながら)心配したくもなる(笑)。


この先、本訴で再び両当事者があいまみえることになるか否かは
良く分からないところであるが、仮に争いを継続するのであれば、
権利者側としては、
本件サービスにおける被抗告人側の関与の度合いなど、
事実関係について仮処分事案の認定を覆すような丁寧な立証を
することで争うしかないように思われる。


いずれにせよ、現時点で「まねきTV」は守られた。


今後、同種のサービスが世に次々と登場するのか、
それともまた違う展開になるのか、今は到底予測できないが、
今回の決定は、著作権訴訟の歴史を後で振り返ったときに、
一つの転換点として語られるものになるのではないか、
という予感がしている。
(あくまで「勘」の世界の話に過ぎないが・・・。)

*1:知財高決平成18年12月22日・H18(ラ)第10009号ほか。http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20061222/1166810188

*2:一個のグローバルIPアドレスだけで複数の端末がインターネットにアクセスすることができるようにする技術、らしい。