大きすぎるギャップ。

日常があまりに慌ただしすぎて、この1週間くらいずっと話題になっている「尖閣沖漁船衝突ビデオYouTube流出事件」にもコメントできずにいたのだが、これまでの議論を小耳に挟む中で一番気になっているのは、

「何でみんな国家公務員法違反(機密漏洩)ばかり話題にするの?」

ということ。

確かに、政府が“主観的に”なるべく秘密にして穏便に済ませよう、という思惑を抱いていたところでの“爆弾投稿”だけに、政府筋からその手の“制裁”を仄めかすコメントが出てくるのは分かるのだが*1、既にメディアで議論されているように、本件が「職務上知ることのできた秘密」にあたるかどうかは、一つの争点になりうるところだし、そこが真正面から争われることになれば、政府にとってより深い傷につながる可能性があるのは否めない*2

そして何より、国家公務員法100条1項、109条12号による制裁が、「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金」というレベルのものに過ぎない、ということを考えると、決して小さくない代償を払ってまでこれを立件する意義があるのか、疑わしいと言わざるを得ないだろう。


その一方で、(本ブログの読者の皆様であれば当然お気づきかと思うが)今、様々な思惑の渦中にある件の方がした行為が、著作権法違反罪*3の構成要件に該当する可能性が極めて高い行為である、という現実、そして、著作権法違反罪が、度重なる罰則強化によって、(国家公務員法違反に比べれば)極めて重い犯罪(10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金著作権法119条1項)だ、という現実も存在している*4

本件がどのような形で立件されるのか(そもそも立件されるのかどうなのか)ということが、現時点では分からない以上軽々しいことは言えないのだが、もし本件で、件の方に対して見せしめ的な制裁を加えようと当局が考えるのであれば、「著作権法」を根拠に責任追及を図ることになったとしても決して不思議ではないわけで、そこまで含めて議論しないと、本件をめぐる状況を的確に理解することは難しいのではないかと思う。

今回の事件をめぐる世の中の関心の軽重と、今回の行為に対する刑罰法規上の制裁の軽重とのギャップの大きさに、様々な問題が凝縮されているような気がして、いろいろと考えさせられるところが多い話題である。

*1:そうしないと、第二、第三の“歓迎されざる投稿”を誘発してしまうことにもなりかねないから・・・。

*2:そうでなくても「知る権利」と緊張関係に立つ罰則規定だけに、世論やメディアが反発することは避けられないし、争う過程で情報管理体制の不備等が指摘されることになれば、より政府の立場は苦しくなる。

*3:教材用に編集されたビデオ映像が著作物にあたることに疑いはないだろうし、それを権利者の許諾なくしてYouTubeに投稿した以上、少なくとも公衆送信権侵害は成立する(最初から投稿する目的で自分のパソコンなりUSBなりに取り込んだのであれば、複製権侵害が成立する可能性すらある)のは疑う余地がないところだと思う。

*4:この“差異”をどう捉えるか、人によって様々な思いはあるだろうが、一応ここでは法定刑の違いを指摘するにとどめておくことにする。

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