ニッポンは広かった〜郵政公社の誤算

完全民営化に向け、あの手この手で攻勢を仕掛けている郵政公社が、公取委の餌食となった事例。

日本郵政公社が北海道で配布した郵便小包ゆうパック」のパンフレットに、全国の大部分の地域に翌日配達できるかのように誇大な表示をしたのは景品表示法違反(優良誤認)として、公正取引委員会は25日、同公社に再発防止を求める排除命令を出した」(日経新聞2007年1月26日付朝刊・第38面)

処分の内容は↓に掲載されているが、
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/07.january/070125.pdf
要するに、本件は、実際には翌日に配達できない地域で「ゆうパックは翌日配達」とうたってしまったことが、景表法4条1項1号に違反するとされたものである。


日経紙によれば、東京から発送する場合の人口カバー率は90%を超えているということだから、本社で宣伝を担当している人は、こんなことになるとは夢にも思わずにキャッチコピーを考え、全国の支社に“自慢のキャッチコピーとあやや”をコピペ(笑)するよう指示したのかもしれない。


だが、景表法4条1項1号にいう「一般消費者」とは、「当該商品役務を購入する人たちという意味で、限定された層の一般消費者」であるとされている*1。そして、需要者の範囲を「北海道内で小荷物を発送しようとする者」と限定して考えれば、「北海道内で引き受けたゆうパックを翌日に配達できる地域はごくわずかな地域に限られる(人口カバー率8%程度と認定されている)」以上、当該表示はやはり優良誤認といわざるを得ないだろう。


これが全国共通の宣伝物で「ゆうパックは翌日配達」というキャッチコピーの下に、「地域によっては・・・」等の打ち消し表示でも付されていれば、まだ抵抗する余地はあったのかもしれないが、今回問題とされたリーフレットは「北海道版」で、しかも丁寧に「北海道からの配達料金マップ」まで記載されている。


これを見れば、当該リーフレットが「北海道内で小荷物を発送しようとする者」を想定して作られているものであることは明らかといえ、郵政公社としてももはや言い逃れの余地はない、ということになろう*2


ニッポンは広い。


ゆえに全国に支店網を張り巡らせている事業者は、常に“本店の頭”で考えた宣伝文句が、特定の地域で“ウソ”にならないか、神経を尖らせる必要がある。特に、一箇所で作ってしまえばどこで売っても中身が変わらない“商品”と違い、ヒトや環境といった地域特性によって品質が異なっている“サービス”の場合はなおさらだ。


完全民営化を控え、一般的なサービス業の世界では、もはや常識となっている景表法リスクに気付かされた、という点において、今回の事例は郵政公社にとっても良いクスリになるのではないかと思う*3

*1:白石忠志『独占禁止法』172頁(有斐閣、2006年)

*2:いつものことで、公取委の発表資料から「表示内容のどの部分が決定的な要素となって処分が下されたのか」正確に見極めるのは難しいのであるが、リーフレットが「北海道版」であったことが「表示内容」として挙げられている辺りを見ると、本件でもそれが一つのポイントになっていたように思われる。

*3:この手のリスクには人一倍敏感な携帯電話会社でも、番号継続制度のような会社の命運を左右するような場面では、ギリギリの線まで突っ込んで宣伝合戦を繰り広げるわけで、民間企業としては、過度にリスクを意識しすぎるのもそれはそれで問題なのであるが・・・。

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