キャノンの“こだわり”

東京地裁がキャノンに発明対価として3352万円の支払を命じた、というニュースが今日の専らの話題であったが、そんな中、日経紙に興味深いコメントが掲載されていた。

「今回の訴訟経過では裁判所が和解を勧める場面もあった。関係者によると、東京地裁は昨秋、訴訟対象の特許一件だけでなく原告が発明者である全特許数十件を対象に、同社が三千万−四千万円を払う和解案を提示した。しかしこの和解案はキャノン側が拒んだ。」
「キャノンは利益とは連動しない独自の計算方式を採用している。発明者への報奨実績は一人あたり最大で年間数百万円程度とみられる。「対価が巨額になりやすい比例方式の和解案を受け入れれば自社の報奨体系が揺らぐ」との懸念があったようだ。」
日経新聞2007年1月31日付朝刊・第11面)

まだ判決文に目を通せていないのであくまで憶測なのだが、本件で争われたレーザープリンターのように市場規模が大きい製品に含まれる特許の場合、会社側がどんなに価値が乏しい、と強弁したところで、包括的クロスライセンスの対象特許の一つに挙げられている限りは、ある程度まとまった金額の支払は避けられないのではないか、と思う。


これから取るべき対策としては、新特許法35条に基づく従業者との協議を徹底して自社の報奨体系の正統性の裏づけにするか、どの特許を包括的クロスライセンスの対象にするか、もっと厳密に査定するようにする、といった手が考えられるが、これからそんな努力を始めたところで、既に承継された特許の発明対価まで抑えられるわけではない。


だとすれば、原告の全特許を一挙に清算する和解案に乗る意義は十分にあったように思えるのだが*1、それでも判決にこだわったキャノン側の心境はいかなるものだったのだろうか・・・?


個人的な感想を言えば、報奨金額を押さえて、発明による富を公平に分割しようとする独自の経営思想がいかに立派なものだったとしても、開発に携わったすべての社員を満たすことなど困難なわけだから、それならいっそのことシンプルな利益比例方式によったほうが良いのではないか、と思ったりもしているのだが、まずはこの先、本件訴訟がどのような展開を見せるのか、注目してみていくことにしたい。

*1:記事によると、本件原告の箕浦一雄氏は、他にもキャノンを相手取った別件訴訟を提起しているらしいからなおさらである。

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