これは新たなビジネスモデル、なんだろうか?

一時のブームは去ったものの、最近でも時々判決がアップされる職務発明関係訴訟。


そんな中、業界を震撼させる(?)かもしれない一本の判決がアップされている。

東京地判平成21年12月25日(H19(ワ)31700号)*1


原告:A
被告:和光純薬工業株式会社*2


ビリルビンの測定方法」に関する発明が原告の職務発明にあたるか、そして、それを被告に譲渡したことによる相当の対価の請求が認められるか、が争点になった事件であり、争われている内容自体は、この種の訴訟としてはそんなに異彩を放っているわけではない。


そして、原告主張の発明の一部について、原告が,「本件発明の技術的思想の創作行為に現実に加担した」者であることを認めた上で、被告に対し、相当の対価の不足額として243万6624円の支払いを命じた点についても(一時期億単位の請求が認容される判決が相次いだことを考えると)、そんなに驚くような話ではない。


だが、興味深いのは、本件の原告代理人が、西田研志所長以下、「法律事務所MIRAIO」(旧・法律事務所ホームロイヤーズ)のメンバーで占められている、ということ。そして、このようなメンバーで、知財の分野では高名な竹田稔弁護士以下の被告代理人たちの主張を打ち破った、という結末である。


確かに「知財」は同事務所がかねてから看板に掲げている分野の一つで、事務所のHPを見ても、知財分野に関する華やかな宣伝文句が踊っている*3


しかし、専門性が強いと考えられている知財訴訟の分野において、これまでこの事務所の名前が表に出ることはあまりなかったのが実態だったわけで、それゆえ今回の判決の原告代理人の表示を見て、自分はかなりの驚きを感じたのである。




冷静に考えれば、職務発明訴訟は、「原告が発明者である」という点と、消滅時効のハードルさえクリアできていれば、あとは超過売上高、仮想実施料率なり、貢献度なりを裁判所がバッサリと算定して、(金額の多寡はあれど)既に支払われている額の支払いを命じる判決が出やすい*4類型の訴訟であるから、原告側の代理人としては比較的やりやすい(リターンを見こみやすい)面はあるのかもしれない。


本件のように、「共同発明者性」そのものが争われるようなことになると、主張立証が面倒なことになるのは事実だが、その場合でも、特許侵害訴訟(あるいは審決取消訴訟)のように、特許の技術的内容や解釈にどっぷりとつからなくても、開発や出願の経緯等に関する事実を積み重ねて丹念に主張していくことで裁判に勝つことは十分に可能なわけで*5、その意味でも、職務発明訴訟は、“(知財訴訟の中では)とっかかりやすい訴訟“の部類に入るのではなかろうか*6



ポスト「過払いバブル」に向けた法律事務所側での対策の必要性が叫ばれるようになってきている中で、その動きが出てきていることを早くも予感させる今回の判決。


この先、第二弾、第三弾が出てくるのかどうかは分からないけれど、しばらくの間はちょっとだけ関心を寄せて、ウォッチしておくことにしたい*7

*1:第46部・大鷹一郎裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100202115312.pdf

*2:ちなみに、この会社が職務発明訴訟の被告となって登場した事件としては、知財高判平成18年7月19日というのもある。

*3:http://www.miraio.com/corporate/category/keiei2.html

*4:平成17年の特許法改正以降はともかく、それ以前であれば、名目的に数千円レベルの支払いしか行っていないケースが多いだろうから、差額はほぼ確実に生じていることになる。

*5:本件も判決を見る限り、原告の側で相当頑張った様子がうかがえる。

*6:以前、西田弁護士が原告の代理人弁護士を務められた東京地判平成19年1月17日(H18(ワ)18196号)では、対価請求権の時効消滅という抗弁が認められてしまっており、そうなるとなかなか厄介なことになるのだが・・・。

*7:なお、個人的には本件での請求を「1億円」としたのはちょっとやり過ぎじゃないか、と思うのであるが・・・。

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