歴史は繰り返す

バブルの時代を彷彿させるようなニュースが1面に。

国土交通省が22日発表した2007年1月1日時点の公示地価は全国平均(全用途)で前年に比べ0.4%上昇し、1991年以来、16年ぶりにプラスに転じた。マンション・オフィス需要が堅調な東京、大阪、名古屋の三大都市圏がけん引役になった。地方圏全体ではなお地価は下落しているが、仙台や福岡など地方の中核都市では反転上昇した。バブル崩壊後、長らく続いた「土地デフレ」から脱却した。」(2007年3月23日付け朝刊・第1面)

再開発需要もあって、ここ数年地価上昇を続けていた都心の商業地の“プチ・バブル”ムードがここに来て一気に全国的に加速したようである。


金持ちのための経済誌*1日経新聞のことだから、当然ながら、こういった傾向に対してはとりあえず煽るわけで、1面には「「清算」超え経済に活力」とバラ色の見出しが躍る*2


だが、筆者としては心境は複雑だ。


自分自身は金額の大小にかかわらず借金は背負わない主義なので*3、自分の保有資産を超える額の不動産をここ数年の間に取得する可能性は、ほぼゼロだろうが*4、周囲の同世代の人間や上司が、悪しき“マイホーム”幻想に取り付かれて、定年まで払い続けなければ返せないような住宅ローンで縛り付けられているサマを見ると、なんだか悲しくなる。


日本の地価はそうでなくても高すぎるのだ。


バブルへGO!」では、不動産取引の総量規制が「諸悪の根源」のように描かれているが、あの施策を打ったことによって、狂ったように上昇を続けていた地価の高騰にストップがかかり、それに便乗していた醜悪な不動産屋や銀行屋も淘汰されることになった。


おかげで、所得の低い若者や高齢者でも、今でも東京近郊に住み続けることができるわけだし、普通のサラリーマンでもローンを組めば何とか不動産を手に入れることができる状況に留まっていたわけである。急激な反動によって社会に様々な軋轢が生まれたのは確かだとしても*5、上記のような観点からは、当時の施策も評価されて良い。


そして、バブル以後これまでの間の地価下落のプロセスは、(さらに進んで)土地を庶民の財布で簡単に買えるようにするための調整局面だったはずなのだ。なのに・・・。


1980年代の末期、世にはびこっていたのは不動産屋と紳士面した銀行屋が組んで行っていた“地上げ”という悪しき慣行であった。


筆者が通っていた下町の学校にも、長年住み続けていた土地を追われそうになって、必死で抵抗を続けていたい家族の子弟がいて、怖いもの見たさで遊びにいったものだ(怪しい車が玄関の前に止まっていたり、目付きの悪い男どもがうろついていたり、と物騒なことこの上なかった。嫌がらせの品々も見せてもらった・・・)。


筆者自身は、人は常に新しい土地を目指して行動すべき(笑)だと思っているから、そもそも“先祖代々の土地”に執着する発想自体、時代遅れと切り捨ててしまうのだが、“しがみつきたい”人々の心情はそれはそれで尊重すべきだし、金に目がくらんだ亡者によって、無理やりそういった人々を叩き出すことを正当化する論理はない。


いわゆる“地上げ”と騒がれた事例の中には、そういった素直な心情とは無縁の“権益争い”(立退き料目当ての居座りなど)的側面もあったのだろうが、そうでない純粋な“悲劇”があったのも確かだし、そもそも人をそれだけ醜くさせたのは、過度に高騰した「不動産価格」なのだから、やはり地価の上昇はそれ自体悪だと思っている。


多くの善良な人々が居住用資産しか持たない(持てない)現代において、地価が上がって得をする人は限られている。


土地を持たない(持つつもりがない)人々や中小テナントは、高騰する家賃相場に悲鳴を上げることになるし、持っている人間でも、相続した瞬間に税金の重荷を背負うことになる。


そんな中、結局得をするのは、キャッシュを投げ捨てできる大資本と、土地を転がしている不動産屋、それと組んで設ける金融屋だけなのだ。


“バブル再来”を思わせる過熱感の中、

「公示地価の評価を担当した土地鑑定委員会の鎌田薫委員長は「上昇の著しい地域では、利便性や収益性で合理的に説明できない事例も散見された」と述べ、一部の取引過熱に警戒感を示した」(2007年3月23日付朝刊・第1面)

と、警句を発するムキもあるようだが*6、本音を言えばまだまだ手ぬるいと思う。


このまま野放図に過熱が続けば、いつかバブルははじけ、15年前と同じような“悲劇”が再びこの世にもたらされることになるはずだ。それで苦しむのが不動産屋や金融屋だけなら、高見の見物をするのも悪くない。


だが、20世紀バブル最大の「戦犯」とも言える巨大銀行や不動産会社、そして日経新聞(笑)が、新世紀のバブルの渦中でも堂々と主役を演じていることからも分かるように、真の悪人は少々傷を負ってもしたたかに生き延びる。そして、巻き込まれて身動きがとれなくなるのは、いつだって、罪のない一般市民なのである。


そのことに思いを馳せるなら、「本格的な景気回復の兆候」などと悠長なことを言っている暇はないはずだ・・・。

*1:その割には“市民感覚”風の記事も多いのが玉に傷だがw

*2:バランスを取ったつもりか、社説では「デフレが終わり注意を要する地価動向」とあるのがこの新聞らしいが。

*3:思いついたらいつでも、会社飛び出して新しいこと始めるつもりでいるので、ローンどころか流動性のない資産(例えば定期預金とか)は一切持たない主義である。

*4:そもそも首都圏に永住するつもりはないし、将来住むところは東京から遠く離れたかの地、と決めているので、今の仕事にひと段落付けるまでは、不動産を手に入れてもあまり意味はない。

*5:そもそも不景気によって失業者が急増したり、それを吸収する雇用が創出されなかったり、というのは、極端に保守的な日本企業の気質に由来するものであって、景気動向そのものとは直接関係ない話だろう、と個人的には思っている。

*6:というか、あの鎌田教授がこんなところで活躍されているとは・・・。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html