想定の範囲内

テレビドラマの映画版として、鳴り物入りで登場した作品がよかった試しはないし、その意味では「想定の範囲内」というべきなのだろうが、やっぱり感想としては、うーん・・・とため息を付かざるを得なかった「HERO」。


別にノンフィクション作品を見ているわけではない以上、ディテールの違いをイチイチ突っ込んでも仕方ないので、その辺は大目に見るとしても*1、ドラマの良さがほとんど消えてしまっているなぁ・・・というのが率直な感想である。


連続ドラマであれば、制作者サイドの頑張り次第で、早い回に小出しにしたエピソードを終盤のクライマックスに繋げる伏線として生かすことができるし*2、本筋と関係ない小技を織り交ぜてアクセントをつけることができる*3のだが、映画フィルムの2時間ちょっと、という枠の中では、その手の小技を使えないのが痛い(しかも必ずクライマックスシーンを最後の30分に持ってこないといけない、がゆえに、どうしても前半と後半のバランスが悪くなる)。


そのうえ、テレビシリーズで下手に個々の出演者のキャラが立ってしまっているから、本筋と何のつながりもない瑣末なエピソード(本編と違って、伏線にもアクセントにもなっていないエピソード)にムダに時間を費やすことになってしまい、余計に全体の構成が苦しくなる。


エンタテインメント性を追求しようとするがあまり、元のシリーズを魅力あるものにしていたリアリズムとのバランスを失してしまう悪弊。


最近大失敗を繰り返している「踊る大捜査線」シリーズしかり、本作しかり、見るたびに「悪循環だなぁ・・・」と思ってしまうのは筆者だけではないはずである*4


まぁ、あえてよかった点を挙げるとすれば、ブログで人気の某O弁護士のお名前をラストのクレジットで拝めた、ということくらいだろうか(笑)。


「リーガルアドバイザー」という見慣れない肩書であるが、美術系のチーフスタッフの次の順番だけに、製作スタッフの中でのステータスはかなり高い。


同じくクレジットで、「司法監修協力」として名を連ねているアンダーソン・毛利・友常法律事務所の江崎滋恒弁護士*5、「司法監修実務」の野元学二・元弁護士*6ともども、本作の出来には必ずしも満足されてはいないだろうが、それでも、“フィクション”の中の僅かなリアリズムに、かすかな希望を抱いているむきにとっては、こういった方々の今後のご活躍に期待すべきところは大きいのではないだろうか。




もちろん、フィクションの中でどんなに娯楽性を追求しても、現実に目の前に起こっている事件の面白さ、奥深さには遠く及ばないのであるが・・・(これは刑事でも民事でも同じ、分かる人にしか分からない。ある意味、法律関係の実務に情熱を注いでいる人間だけが味わえる特権のようなものなのかもしれない)。

*1:ただ、テレビ版と違って、本作には決定的にリアリティを欠くシーンが多すぎるのも事実なのだが・・・。

*2:「HERO」で言えば、久利生検事の過去だとか次席との関係だとか。

*3:これまた「HERO」で言えば、通販グッズだとか、「あるよ」のマスターだとか。

*4:ちなみに、途中までは「踊る」の第1弾と同等かちょっと上くらいの評価でいいかな・・・と思っていたのだが、最後の30分で「踊る」の第2弾レベルに堕ちた気がする。テレビとタイアップした激しい宣伝攻勢を見ていると、いずれ、観客動員数は「踊る2」に匹敵するレベルにまで伸ばしてくるのだろうが、この種の映画が“代表作”として取り上げられることが、日本映画そのものにとってプラスか、と言えばそれは大いに疑問である。

*5:http://www.andersonmoritomotsune.com/lawyer/01/prof/0132.html。46期。プロフィールを見る限り、検事出身、というわけではなかったようだ。

*6:http://www.toho-ent.co.jp/actor/show_profile.php?id=5065。弁護士から転向した異色の俳優(東宝芸能所属)。「それでもボクはやってない」では俳優兼法律監修、という二足のわらじを履かれていたようだ。

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