そして始まる生き残り合戦。

司法修習生法科大学院生の間では、相変わらず“四大”(TMIを入れると“五大”になる)として括られる大手渉外系総合法律事務所の人気が強いようである。

だが、長年、「依頼主」として、様々な弁護士事務所と付き合っている立場から見ると、なぜそこまで優秀な人々が「大手」を目指すのか、というところが、どうもピンと来ない。

一番の理由は、付き合いの長い老舗事務所と比較して、これらの事務所に依頼する仕事の中身や質がどういうものか(量はともかく)・・・ということが分かっているから、なのであるが、最近では、どのクライアントも懐が寒く、財布の紐も固くなっている中で、事務所経営という観点からも、いろいろと大変だろうな・・・という想像も働くところ。

所属する弁護士が「50人」から「100人」になったからといって、仕事のアウトプットを2倍にできるわけではない、というのが、専門職たる弁護士の仕事の難しいところで*1、事務所が巨大化すればするほど、余計なコストだけが増えていく、というのは、ある程度、組織経営にかかわったことがある人なら、弁護士でなくても容易に察しが付くところだと思う。そして、ひとたび巨大化してしまった組織を維持するためには、常に新しい“稼ぎ場所”を探し続けなければならない、ということも・・・。

そんな中、日経紙の法務面に、最近の大手事務所の内情を露呈するような記事が掲載された*2

「法律事務所 拡大路線に壁」

という見出しで始まるこの記事では、大手事務所を取り巻く環境が「2008年のリーマン・ショックで激変」した、として、「2度目のシンガポール進出」に活路を見出そうとしている長島大野常松法律事務所が紹介されているほか*3、「五大事務所の弁護士数が今年3月末時点で減少に転じた」こと、大手事務所の寡占化が進んだために、「競合関係にある別の会社の仕事を同時に請け負うことが難しい事例が増えている」ことなど、これまで華やかな話題ばかりが先行してきた大手事務所にしては、“らしからぬ”話題も次々と登場する。

売上の伸びが鈍化した、といっても、長島大野に関しては今日明日経営が厳しくなる、ということはないだろうし、コンフリクトの問題にしても、元々歴史のある会社ほど、大きな訴訟案件で「四大」「五大」を使うことは最初から避ける傾向にあるから*4、特筆するほどのダメージがあるとも考えにくい*5

だが、依頼する側から見ても、首都圏においては、企業法務の分野でのスタンダードな「弁護士」/「法律事務所」には、もはや過剰感が強いのは事実なわけで、そんな中、大手事務所が国内市場で売り上げを大幅に拡大して、今の規模を維持していくことはおそらく不可能だろう。

それだけに、海外拠点を拡大したり、地方進出を図ろうとする最近の大手事務所の動きには、切実感、というか、ある種の悲壮感すら漂っているように思えてならない*6

奇しくも、直近のジュリストには、「ピーク時に1,300人弱の弁護士を抱えていたニューヨークの大手法律事務所(Dewey&LeBoeufLLP)が連邦破産法Chapter11の手続きに入った」というニュースが紹介されていたりもする・・・*7

司法試験改革に伴う“バブル”の全盛期からまだ10年も経っていないこの時期に、下り坂に入ってしまう、というのでは、あまりに寂しすぎるから、ブランドを持つ大手事務所ならではの“意地”に個人的には期待したいところではあるのだけれど、動きの速いビジネスの世界と同様、今の勢力図が5年後もそのまま維持されている可能性は皆無、だと自分は思っているところである(そして、この先の行方は神のみぞ知る・・・)。

*1:これはホワイトカラー全般に共通する問題であるが。

*2:日本経済新聞2012年10月8日付け朝刊・第15面。

*3:記事の中では「年10%程度だった事務所の売り上げの伸びも鈍化している」という藤縄憲一弁護士のコメントも取り上げられている。

*4:コンフリクトが生じる可能性が高い、というのももちろんあるが、一部の事務所を除けば、元々コストの割に訴訟があまり上手じゃない、というのも理由としては大きい。

*5:ちなみに記事の中では、アップル対サムスンの訴訟で、大手法律事務所がサムスン側の代理人を受けられなかった、という話題が出てくるが、先日出された判決を見る限り、実際に受任したのは知財分野では名高い大野聖二弁護士の事務所のようで、依頼主の立場からしてみれば、「それが正解」だったように思えてならない。

*6:海外に拠点を作ったところで、真にグローバル展開している企業が、元からお願いしている現地事務所から、わざわざ(中間マージンをとられる)日本の法律事務所に仕事を移し替えるとは思えないし、地方に拠点を作ったところで、地元の老舗との競争に打ち勝って仕事を集められるとは到底思えない。だからこそ、なおさら悲壮感が漂う。

*7:清水誠「米国における企業法関連の最新トピックス」ジュリスト1446号75頁。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html