キヤノンの最高裁判決が出た翌日に上告不受理決定とは、最高裁もやることがえげつない・・・。
「家庭用プリンターのインクカートリッジに関する特許を侵害されたとして、セイコーエプソン(長野県諏訪市)がリサイクル品販売大手のエコリカ(大阪市)に販売差し止めを求めた訴訟の上告審で、最高裁第二小法廷(中川了滋)は9日、特許侵害の主張を退けた二審・知的財産高裁判決を支持し、エプソン側の上告を退ける決定をした。エプソン側の敗訴が確定した。」(2007年11月10日付日経新聞朝刊・第11面)
元々地裁、高裁では分割要件(特許法旧44条1項)違反による出願日不遡及が認定され、新規性欠如の無効事由あり、として請求が棄却されていた*1上に、同時進行していた無効審判でも、無効審決取消訴訟→訂正審判請求による161条2項差戻し、というプロセスを経て、今年再び無効審決が出されたようであるから、原告であるエプソンにとってはどうにも分が悪い戦いだったというほかはない。
というわけで、本件は「特許権の効力が認められない以上、それに基づくリサイクル品の差し止めもできるはずがない」という当たり前の判決であったのだが、それにもかかわらず、これがキヤノンによる“画期的勝訴判決”の翌日に出てしまったことで、見出しの扱いも若干大きくなってしまった。
自らのビジネスモデルを守りたい、という本来の目的は同じでも、それを達成するためには明確な「権利」が必要なのであって、それができる会社とできない会社の違いは大きい。
そしてそういった厳然たる事実を、白日の下に晒されてしまったエプソンの知財部の方々が今屈辱的な思いを抱いているであろうことは(大げさか)、容易に想像が付く。
元々キヤノンの特許(のクレームの書き方)自体が、業界では評価の高い代物らしく、必ずしもどの会社にも真似ができるというものではないよ、という噂はかねがね聞いていたし*2、「無効事由あり」として特許の権利行使が認められなくなることなど最近では日常茶飯事的な出来事なので、勝訴できなかったことが原告側メーカーにとって致命的なことになるとは、通常なら考えられない。
だが、今回のエプソンの特許の場合、華やかな消尽論争に決着が付いた翌日に、しかも“土俵に乗る以前にダメだしがされてしまった”という不名誉なフレーズを付けて語られる事案になってしまった、という点でかなり不幸といえる*3。
「特許」という権利の繊細さを考える上で、比較すると非常に興味深いこの種の事件。今後の良い題材として語り継ぐことが、せめてもの慰めになるだろうか。