読者投稿の“盗用”?

日経の夕刊に載っていた記事から一つ。

泉鏡花文学賞などを受賞した作家の小檜山博さん(70)=札幌市在住=が、JR北海道の車内誌に連載している短編小説に毎日新聞で掲載された読者投稿を盗用していたことが、19日分かった。小檜山さんは事実関係を認め、JR北海道も同誌の回収を始めた。」(日本経済新聞2008年1月19日付夕刊・第11面)

何でも、毎日新聞朝刊に投稿された茨城県の主婦(50)の読者投稿の「車内で座席を譲るエピソード」を連載小説のネタにしてしまったそうである。


これだけだと、どういうところが類似していたのか分からないので、ネット上で探してみたら、あった。

「小檜山さんは「電車で」のタイトルで、首のけがをした会社員が車内で中学生3人から席を譲られ、会社員の娘がその話に感動するという内容の小説を出稿。ところが、この内容は昨年10月30日の毎日新聞朝刊に掲載された茨城県の主婦の投稿文とせりふなどが酷似していることが毎日新聞読者の指摘で発覚した。」

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/hokkaido/news/20080119-OYT8T00499.htm

うーん・・・。


「インスパイア」と開き直らないあたりに(それが普通か?)この作家の方の誠実さが現れていて、自らの非を認め、当の投稿者に潔く謝罪するということだから、作家としてのモラル、という面からみれば評価されるべき話なのだろう。


だが、「読者投稿」というのは、そもそもフィクションであることを予定されていない代物で、そこに出てくる“セリフ”も、“この世に存在した事実そのもの”である(はずのものである)ことを考えると、著作権法的観点から見る限りにおいては、この種のインスパイア行為が全て違法なもの、ということはできない。


もちろん、「投稿」として纏められた文章の中には、投稿者自身の思いや感情が少なからず込められているから創作性を完全に否定することはできないのだが*1、部分的に似ているところがあるからといって、「即、非難されるべき行為だ」ということにはならないはずである。


他者の投稿の中の言葉を「咀嚼できなかった」*2“未熟さ”は作者が自認するとおりなのかもしれないが、世の中の様々な素材をかき集めることによって成り立つ、という小説の本質を考えると、こういった行為が一概に批判の対象になる、というのもおかしな話だろう*3


なおこの件について、どの記事を見ても、「盗用」とはあっても「著作権侵害」という言葉は出てきていない。


現実には、世の中の「読者投稿」なんてものは、他の新聞記事と違って、あくまで“作り話”(裏返せばそれだけ高度な創作性を有する著作物)だと思っている人は多いだろうし、それゆえに上記のような謝罪も何となく違和感なく受け入れてしまうのであるが、各新聞社としてはそんなことを認めるわけにはいかないから、言葉遣いに気を使ったのかな・・・なんて変な勘ぐりをしてしまった次第(笑)。

*1:その意味で、著作権侵害が成立する余地は残されている。

*2:asahi.comより。http://www.asahi.com/national/update/0119/TKY200801190080.html

*3:どこかの会社の社長が「俺は寝てないんだ」という刺激的なセリフを吐いた、という新聞記事を見て、そのセリフをそのまま使って小説を書いたとしても、「盗用だ!」という批判が出ることはないはずだ。

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