昨日の判決が夕刊になってようやく掲載されたあたりに、日経新聞のポジションが透けて見える(あえて朝刊に載せなかったのか、会見出席を拒否されて情報入手が遅れたのかは不明)のだが、松下プラズマディスプレイ社の偽装請負問題を巡る訴訟(通称「吉岡訴訟」)の判決が出たようだ。
「大阪高裁は25日、「松下プラズマとの間で暗黙のうちに労働契約が成立したと認められる」との判断を示した。」
「・・・一審判決を変更し、男性の直接雇用による職場復帰や慰謝料90万円と未払い賃金の支払いなどを命じた。」
大阪高裁の裁判長は、これまで知財関係の判決を何本も書かれている若林諒判事だったわけだが*1、
「若林諒裁判長は、男性が業務請負でなく違法な派遣労働だったと指摘し、請負会社との雇用契約が「当初から無効」と認定。無効にもかかわらず松下プラズマで勤務し続けた実態について、指揮命令の状況などを踏まえ「法的に根拠付けるのは労働契約以外ない」と結論付けた。」
(以上、日本経済新聞2008年4月26日付夕刊・第11面)
という判決は何とも大胆で感服させられる。
法律論だけで見れば、
「請負会社との雇用契約が無効だとして、発注元との直接雇用関係を認める根拠はあるのか?」
とか、
「仮に発注元との雇用関係が認められたとしても「有期雇用契約」であることに代わりはない以上*2、期間満了による雇用契約の終了を安易に否定すべきではないのではないか?」
と、いろいろ突っ込みどころはあるので、雇用契約上の地位確認請求については、最高裁で結論が覆る可能性は十分にあると思うのだが、「内部告発に対する報復目的」での配転については、高裁段階でそれを肯定する事実認定がなされてしまった以上、地裁に続けて認容された慰謝料請求が覆る可能性はほぼゼロに近い。
・・・・以上、その筋の識者から見れば、おそらく「画期的」なものに映るであろうこの判決。
受け止め方は人それぞれだと思う。
半ば生贄のようにされてしまった松下電器には気の毒だが、筆者自身、「同一労働同一賃金原則」を信奉している人間だから(ゆえに「正社員優遇」ありきの組合からは睨まれるわけだがw)、この判決が非正規雇用の待遇改善につながるのであれば、政策論的判断としては“あり”だと考えている。
もっとも、正規雇用だろうが非正規雇用だろうが、工場の製造現場というのは本来楽な環境ではない。
「偽装請負」バッシングで請負業者を一掃したはいいが、肝心の(日本人)労働者が集まらず、製品の安定的供給に影響が出る、なんてことにならなければ良いのであるが・・・*3。
*2:各種報道を見る限り、少なくとも裁判所が認定した事実(「期間2カ月」「更新あり」「時給1350円」といった合意の存在)からは期間の定めのない雇用契約の成立は認められようがないし、現に裁判所も、あくまで「(有期契約の)更新拒絶」に対する解雇権濫用法理類推適用の問題として処理しているように思われる。判決文を読まないと何ともいえないが、その意味で「事実上、期間を区切ることなく雇い続けるよう命じる判断だ」とする朝日新聞のコメント(http://www.asahi.com/job/news/OSK200804250070.html参照)には疑問が残る。
*3:エレクトロニクス業界であればそうでもないのかもしれないが、限りなく「3K」に近い製造現場も世の中にはたくさん存在するのであって、正規雇用で雇おうとしても若者が集まらないから、仕方なく請負会社に働き口を求めている会社も多数あることは忘れてはならないだろう(要は「クリスタル」へのニーズは、単に“コスト削減”的観点から生まれているわけではない、ということである)。