止まらない「国民会議」旋風

以前、本ブログでも取り上げていた*1、今年8月の衆院選をめぐる「一票の格差」訴訟の高裁(第一審)判決が早くも出た*2


そして、そこで示された判断は何とも衝撃的なものになった。

「今年8月に行われた衆院選は国会議員1人当たりの有権者数の格差(1票の格差)が生じており違憲として、大阪府有権者が府選管に大阪9区の選挙無効(やり直し)を求めた訴訟の判決が28日、大阪高裁であり、成田喜達裁判長は「1票の格差が2倍に達する場合は違憲」との判断を示した。選挙の無効請求については棄却した。(日本経済新聞2009年12月28日付夕刊・第1面)

結論としては「公の利益に著しい障害が生じることは明らか」として、選挙そのものを無効にする判断自体は回避した模様だが*3、それでも、これまで格差是正訴訟に対しては非常に冷淡だった「高裁」が、

「2倍を超える格差は大多数の国民から耐え難い不平等と感じられてきており、客観的にも著しい不平等」
「今回の選挙までに是正する努力が払われた跡はなく、立法不作為は違憲の評価を免れない」

と断言したことは、この先、最高裁での審理に与える影響を考えても極めて大きな意味を持つように思われる*4


で、気になるのは、今回のような判決が出た背景に何があったのか、ということ。


本判決後、「原告側の弁護士」として記者会見した人々の中には、升永英俊弁護士、久保利英明弁護士という「一人一票実現国民会議」の活動のど真ん中にいる先生方も当然に入っている。


今年の夏くらいから吹き荒れた「国民会議」ムーブメントが、衆院選時の国民審査をめぐって大きな反響を呼んだのは記憶に新しいところだし、それが、その後出された2007年7月参院選をめぐる選挙無効訴訟の最高裁判決で「那須弘平判事の転向(?)」という結果を招いたのではないか、という仮説も立ち得るところであった*5


そして、今回の高裁判決である。


「裁判官」に対して、政治的な“運動”で直接の圧力をかけるのはいかがなものか(国会議員に対するアピールとしてならばともかく)、という思いを長らく抱いていた自分だが、両御大が実際に代理人としてコミットした訴訟で然るべき結果が出た、ということになると、この“運動”に対する見方も変えないといけないな、と思うわけで・・・。


訴状・準備書面等での主張やそれに合わせて提出した意見書等の迫力が、従来の判例に基づく固定観念に縛られがちだった裁判官を説得することに成功したのか、それとも、裁判官を名指しで批判する、エキセントリックな“運動”のパワーを恐れ慄いた裁判所が「時代の空気を読んで」判決を書いたのか、あるいはその両方か。


いずれが真実なのかは分からないが、法廷での活動を通じて事態を改善していく、というのは、法律家の本筋に属する仕事であるのは間違いないのだから、この点については、自分も無下に批判することはできない。


最高裁で最終的な判断が示されるのはもう少し先の話になるだろうが、来年も「国民会議」旋風が吹き荒れることになるのかどうか、他の高裁での訴訟の帰趨も含め、見守っていきたいと思う。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20090929/1254625222

*2:記事によると7高裁1高裁支部に提訴した一連の訴訟の中の一つ、ということである。

*3:「一人一票実現国民会議」のHPから判決全文を確認したところ、いわゆる事情判決の法理により、違法宣言を行った上で選挙無効の請求は棄却する、という結論になっていた。http://www.ippyo.org/img/hanketsu/20091228001.pdf(大阪高判平成21年12月28日)

*4:しかも、記事を読む限り、これは傍論としての判断ではなく、ストレートに結論を導く過程での判断である。

*5:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20091001/1254675053参照。

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