東京永和法律事務所“解散”

かつて、一連の職務発明訴訟で一世を風靡した、升永英俊弁護士with... の東京永和法律事務所が解散するというニュースが。


升永英俊先生with...(ちょっとくどいw)の華やかなる業績は、あえて説明するまでもないだろう*1


日亜化学日立製作所、味の素、東芝、といった我が国有数の名門企業を相手取った職務発明訴訟において、発明者代理人として一定の成果を挙げ、アルゼ事件では当時特許侵害訴訟史上最高額の74億円の賠償を勝ち取ったし(もっとも高裁で逆転負け)、税法の分野では武富士前会長ジュニアの課税処分を一度はひっくり返した。


住友信託対UFJの訴訟で、住友信託側の代理人として激しいアピールをしていたのも記憶に新しい(25億円の和解で決着)。


なので、そんな事務所が「解散」という事態に至ってしまったことに、驚きの声が上がるのも理解できなくはないのだが・・・

青色発光ダイオード(LED)訴訟などの巨額裁判を担当したことで知られる升永英俊弁護士(65)が今月末に事務所を解散し、7月1日付で所属弁護士らと大手のTMI総合法律事務所(東京・港)に移籍する。企業法務分野の中小事務所の苦境を象徴する事例といえそうだ。」(日本経済新聞2008年6月28日付朝刊・第15面)


↑の太字部分のような理解が、今回の「解散」の見方として適切かどうか、といえば、自分は疑問を感じている。


升永弁護士の業績は華やかだし、仕事ぶりも壮絶だ。


以前もご紹介したことのある、



という書籍の中には、「巨大な事件を目の前にすると昼夜寝食を忘れて仕事に没頭する」まさにプロフェッショナルな升永弁護士のエピソードが一章を割くようなボリュームで描かれている。


だが、逆にいえば、ここまでボスがプレーヤーとして仕事に没頭する事務所の場合、マネジメントに目を配れる人間が周囲でサポートしないと、事務所経営のバランスが悪くなってしまうのは否めない。


また、事務所がある程度の規模になってくると、ホームラン級の事件で多額の報酬を得るだけでは足りず、コンスタントに稼げる仕事が必要になってくるものだが、はたしてこの事務所でそれができたのか。


結局、東京永和の“悲劇”が生まれた理由は、

ボスの個人技の一発で回していけるほどの小さい事務所ではなくなってしまった(弁護士、弁理士合わせて9人というのは決して「小さい」事務所とはいえない)一方で、コンスタントに稼げるだけのスケールメリットを得られなかった(弁理士4人の特許事務所というのは、明らかに規模的には見劣りする)

という点に尽きるのではないかと思う*2


ゆえに、今回の“解散”をすべての「企業法務分野の中小事務所」にあてはまる問題、と捉えるのは、少々勇み足なのではないか、と思うのである。




ちなみに、企業法務の世界は、事務所の規模が大きい=信頼できる、といった単純なものではないし、今でも日本を代表する企業の多くは、四大事務所よりも、古くから付き合いのある個人・中小事務所に重きを置いて付き合っていたりもするのが現実である*3


「後継者難」というのは、確かに多かれ少なかれどこの中小事務所にも存在する問題だろうが、ボスが顧客との関係構築や若手の育成も含めた事務所のマネジメントに気を配り、永続的に経営を回していけるだけのクリーンヒットを打ち続けることができれば、企業法務分野でも中小の事務所が活躍できる余地は、まだまだあるように思われる。


今回「弁護士5人、弁理士4人、スタッフ4人」のほぼ全員を受け入れることになったTMIは、一見すると“勝者”のようにも思えるが*4、そんな体制増強が、かえって仇になることもないとはいえないこの世界。


所詮は“一発注者”に過ぎない筆者としては、この先、この業界がどういう方向に進んでいくのか、生暖かく見守っていくことにしたい。

*1:事務所サイトも参照。http://www.tokyoeiwa.jp/page2-3.htm。ちなみに升永先生の司法試験合格順位表付きプロフィールは、http://www.tokyoeiwa.com/hm/hm.html

*2:一連の職務発明訴訟で「発明者側の代理人」という印象を強く与えてしまったため、特許事務所のクライアントとして有力なメーカーを呼び込みにくかった、などという事情もあるのかもしれないが、これもあくまで憶測の域を出ない。

*3:規模が大きくなれば、それだけコンフリクトの可能性や使い勝手の悪さが露呈するのが常だったりもする。

*4:頭数以上に、升永弁護士の“のれん”はやっぱり大きいんじゃないかと思う。

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