2005年のジェイコム株誤発注問題で、「みずほ証券対東証」泥沼裁判闘争の第一審判決が出た。
「みずほ証券が2005年にジェイコム(現ジェイコムホールディングス)株を誤発注した問題で、「東京証券取引所のシステム不備で注文を取り消せず、巨額損失を被った」として、東証に約415億円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は4日、東証に約107億1200万円の支払いを命じた。松井英隆裁判長は東証の責任を認める一方、みずほ側の過失も一部認め、東証とみずほ証券の過失割合を7対3と認定した。」(日本経済新聞2009年12月4日付夕刊・第1面)
「61万円で1株」とすべき売り注文を、「1円で61万株」と取り違える大チョンボをした証券会社も証券会社なら、そのようなチョンボに対して十分な対応ができなかった取引所も取引所*1、ということで、正直“どっちもどっち”な感が否めない訴訟だったのだが、地裁はみずほ証券(原告)の請求額(約415億円)の約4分の1の請求認容、という形で一応の結論を出した。
判決文にあたっていないので、きっちりとした分析をすることはできないのだが、以下、思ったことをつらつらと書いてみる。
個人的な意見として、市場での取引を行う者は、みな自分の行動に全責任を負うべきだと思っているし、ましてや“プロ”の証券会社が、自分のチョンボのツケを取引所に押しつけようとする行動に出るのは、“プロの仁義”としてどうなんだろう?という思いはある。だから、原告会社の提訴の報を聞いた時には「何やってるんだろう、この会社は・・・」と思ったものだ。
みずほ証券は、「損害を被った」と主張しているが、その反対側には「1円でジェイコム株を大量に取得して、それを本来の株価で売りさばいて巨額の利益を得た投資家」*2がいるわけで、証券会社の損害は、他の投資家の利益と表裏一体のものとして理解されるべきもの。
だから、誤発注に乗じて大量購入した投資家(誤発注であることを認識しながら購入した投資家)との間で、利害調整するのであれば分かるが、それを仲介する存在に過ぎない取引所にツケ回しをしようとするのは、ちょっとお門違いなんじゃないかなぁ・・・というのが、このニュースを見たときの率直な心情であった。
今回の判決で、一応、証券会社側にも法的には理があった、ということが証明されたように思えるが、それだって、いろいろと疑問はある。
「1円」という金額や、発行済株式数を大幅に上回る取引株式数は確かに異常だが、それらはあくまで「警告表示を漫然と無視して」出された発注である。
みずほ証券は、今回の訴訟で、誤発注から「注文取り消しを東証に送信するまで」に成立した取引の損害分はあえて請求せず、それ以降に生じた「損害」のみを賠償請求したようだが、そもそも、上記のような著しい過誤発注がなければ、その後の損害だって発生しなかったわけで、仮に東証の体制に不備があったとしても、その不備と因果関係のある損害は微々たるもの(それよりも「誤発注」行為の寄与度の方が遥かに大きい)と判断することも可能だったはずだ。
東京地裁は、「注文取り消しを送信したが、撤回されなかった」点について東証の責任を否定したうえで、「売買成立株式数が発行済株式数の3倍を超えた」時点以降に、
「(東証が)業務規定に基づき売買停止の立案を決定すべき」
であり、それを怠ったことに東証の重過失があったとして、誤発注から約5分30秒後経った時点以降の損害について、東証の責任を認めたようである*3。
だが、売買停止措置、というのはある種の非常手段で、他の投資家等に与える影響も大きい措置であることを考えると、売買成立までのわずか10分弱、という短い時間の中で、東証がそのような措置を講じなかったことを「重過失」とまで言えるのだろうか?
「7対3」という、著しく証券会社側に「甘い」*4過失割合とともに、控訴審で見直しが入っても不思議ではない判断だと、個人的には思っている。
*1:というか、東証の場合、事件後の対応にかなりマズイ点があって、多くの関係者の心証を悪化させたことは否めないだろう。
*2:「ジェイコム男」氏がメディアを賑わせたのもあの頃だった。
*3:なお、システム上取り消しが受け付けられなかったことについての東証の責任が否定されたことで、東証からシステム構築会社にツケ回しが来る可能性はなくなった、と考えて良いのではないだろうか。この問題が発覚した当初、取引システムの技術論に話題が集中していたことを考えると、意外なところで決着がついたなぁ、というのが率直な感想である。
*4:過失相殺されたこと自体がおかしい、と言っている人もいるようだから、これはあくまで自分の主観に過ぎないが。