ジンクスも気にならない・・・そんな強さ。

フィギュアスケート世界選手権・女子シングルは、浅田真央選手がショートプラグラム2位からの逆転で、見事に2度目の優勝を飾った。


「逆転」といっても、ショートで首位に立っていたのは、シニアの大舞台での経験が決して豊富とはいえない長洲未来選手。


長洲選手は爆発力のあるスケーターだけに、五輪と同じような“追いかけるポジション”にいたなら、ある種の驚異にもなり得たのだが*1、さすがに“世界女王に一番近い”ポジションを守り切れるほど世界選手権は甘くない。


そして、バンクーバーのリンクでは、“完全無敵”といった感のあったキム・ヨナ選手も、遂に魔法が解けてしまったようで、

「足がなんかガクガクしてて・・・」

というコメントとともに、ショートプログラムでまさかの出遅れ。


相変わらずこれまでの貯金がモノを言っている演技構成点の恩恵を受けて、スコアこそ60点台でまとめたものの、入り方を忘れてしまったようなスピンに(レベルなし=0点)、途中でバランスを崩したスパイラルシークエンス(屈辱のレベル1)、そして、見せ場のステップですらぎこちなさばかりが目立つ*2、という状況を見れば*3、SPを終えて2位に立った時点で、勝負は見えていたといえるだろう。


事実、五輪以降安定した滑りを見せている浅田選手が、持てる力をほぼ出し切る形で、堂々と世界女王に返り咲くことになった。


必要以上に厳しく取られているように見えたトリプルアクセルの2度の回転不足判定(SP,FSで一度ずつ)や、あれだけ流れを切らさずに滑り切っても、キム・ヨナに3点近く差を付けられてしまう演技構成点の不思議な採点のせいもあって*4、フリーだけの得点を見ると、僅かにキム・ヨナ選手の後塵を拝することになってしまったが、それでも、合計で2位に7点近い差を付け、3位のレピストには20点近い差を付けているのだから、これを「完勝」と言わなくて何と言おうか。


女子の場合、男子以上にいったん切れた緊張の糸をつなぎ直すのは難しいようで、それは浅田選手以外の日本勢も同じ*5


オクサナ・バイウル選手以降、歴代の五輪女王が軒並み世界選手権を回避した、というのには、やはりそれなりの理由があったわけだし、それゆえキム・ヨナ選手に対して、“出ただけで偉い(しかも2位だからもっと偉い)”と評するのも、そんなに誉めすぎというわけではないだろう。


だが、五輪にピークを持って行った、という点では他の選手と変わりなかった上に、SP、FSと、2度までも地元のヒロインに対する大声援の直後に滑る羽目になった*6浅田真央選手の、それでも“完璧”を目指した執念の前には、さすがの五輪女王も今回ばかりはかすんだ、と言わざるを得ない*7


ひとつ気になるのは、1994年以降、

「五輪直後の世界選手権を制した女子選手は、その後の五輪で金メダルを取れない」

というジンクスが存在していること。


幕張での世界女王を花道に引退した佐藤有香選手(94年)はともかく、年齢的に次は確実に金メダル候補になると思われた若きキミ・マイズナー選手(06年)も、優勝した当時もその後も輝かしい実績を残したミシェル・クワン(98年)、イリーナ・スルツカヤ(02年)といった名選手たちですらも、4年後に表彰台の真ん中に立つことはなかった*8


特に、五輪の2年前に初優勝、五輪で惜しくも金メダルを逃した直後に2度目の優勝、というプロセスは、ミシェル・クワン選手の悲劇の軌跡にひどく重なって見えてしまうわけで、これで浅田選手が次の五輪の前年にでも世界女王になろうものなら、ますます嫌な予感が多くのファンの胸をよぎることだろう。


それでも、個人的には、同じ五輪直後の世界女王でも、「五輪女王が出場した大会で」優勝した、というところに、これまでのジンクスを吹き飛ばすだけの浅田真央選手の強さ、があると思っている。


国中の期待を一身に背負って、歩いていくここから先の4年間。


彼女にとってこれまでの4年間以上に厳しいものになるのかもしれないけれど、今は類稀なる才能の飽くなき向上心が新しい道を切り拓く・・・そう信じたい。

*1:特に五輪でも滑ったフリーのカルメンは、かなり完成度の高いプログラムだっただけに。

*2:なぜかこれだけはレベル3が取れていたのだが・・・。

*3:今シーズン一番調子が悪かった時の浅田真央選手でも、ここまで酷い出来で滑ったことはない、と思う。

*4:あのグダグダなショートプログラムですら、キム・ヨナ選手には浅田選手と遜色ないほどの演技構成点が付いてしまうわけで、この点については、そういうものだとあきらめるほかないのだろう。

*5:安藤美姫選手の最初のコンビネーションがすっぽ抜けるシーンとか、あれだけ基本に忠実な鈴木明子選手が、スパイラルでふらつき、スピンでグダグダになるシーンなどは、シーズン中にはちょっとお目にかかれない光景だった。特に鈴木選手は、当初五輪でお役御免の予定だっただけに、五輪後も調子を維持するのはなおさら難しかったんだろうと思う。それでも、第1グループ滑走というポジションから、フリーで一気に巻き返し(次のグループで滑走した選手6名は誰も彼女のスコアを上回ることができなかった)、見せ場を残したのは立派だった。

*6:今回のトリノの観客のノリは、フィギュアスケートの観戦者のノリにしては、ちょっとうるさすぎたような気がする(苦笑)。あくまでテレビ越しの感覚だが。

*7:無責任なファンの思いとしては、どうせならキム・ヨナ選手に世界選手権でも気持ちよく勝ってもらって、さっさと引退してもらった方が良かったんじゃないのかなぁ・・・という思いは何となくあったのだが、それは言わないことにしよう(笑)。

*8:マイズナー選手に至っては五輪の舞台に立つことすら叶わなかった。

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