平成14年9月以来、長きにわたり最高裁(第三小法廷)で独特の存在感を誇ってこられた藤田宙靖判事が間もなく定年を迎えられる、ということで、個人的には後任となる最高裁判事の人選には非常に注目していた。
藤田判事が、東北大学で長年教鞭を取られた生粋の行政法研究者だった、ということもあって、後任も公法系の研究者なのか、それとも奥田昌道判事以来、8年ぶりの民事系か、はたまた團藤重光判事以来の刑事系復活か・・・?と、業界でも一部でいろいろと噂は飛び交っていたようだが、蓋を開けてみると・・・。
「政府は19日の閣議で、藤田宙靖最高裁判事が4月5日に定年退官するのに伴い、後任に慶応大大学院法務研究科教授、岡部喜代子氏を最高裁判事に任命することを決めた。4月12日付で発令する。」(日本経済新聞2010年3月19日付夕刊・第2面)
多くの関係者にとって、この人事はサプライズだったのではなかろうか。
記事に掲載された経歴を拝見すると、
「慶応大大学院修、76年(昭51年)判事補。93年弁護士登録。東洋大法学部教授などを経て、07年慶応大大学院法務研究科教授。60歳。」
とある。
大学では民法(家族法)を中心に教えておられるようで、家族法関係の著作も出されているようだが、研究者としてのキャリアと、裁判官としてのキャリアがほぼ同じくらい、という経歴は、これまで生粋の法学者が就任することが多かった「学者枠」の裁判官としては極めて異例なことではないかと思う*1。
これを長年引き継がれてきた「学者枠」の消滅、と見るか、それとも従来の6:4:2:2:1(裁判官:弁護士:検察官:行政官:研究者)枠を超えた新しい人選、と見るか(あるいは当局にそれ以外の何らかの深い思惑がある、と見るのか)・・・。
一つの世界にどっぷりと漬かってきた人より、様々な場面で経験を積まれてきた方のほうが、「最高裁判事」という“この国でもっともバランス感覚が求められる職業”にはふさわしい、と筆者自身は思っているところだけに、この先10年の新判事のご活躍に期待したいところである*2。
- 作者: 岡部喜代子,三谷忠之
- 出版社/メーカー: 民事法研究会
- 発売日: 2006/04
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (1件) を見る