新年、新しい気持ちで新しいジュリストを読む。

「1月号」とはいえ、手元に届いたのは年末休みに入る前だったから、今さら・・・という感もあるのだが、気持ち新たに読むにはちょうど良いだろう、と思い、新年早々読んでみたので、ここに「新しい『ジュリスト』」の感想をちょっと書いてみる。

ジュリスト 2012年 01月号 [雑誌]

ジュリスト 2012年 01月号 [雑誌]

これまで、月2回発行&いい意味でも悪い意味でも“ごった煮”のプロ向け雑誌だった『ジュリスト』が、この1月号(1436号)から大幅にリニューアルされているのは、本ブログの読者の皆様であれば、大方ご存じであろう。

主な変化としては、

・構成が大幅に変わって、冒頭にカラーの巻頭インタビュー*1、続いて商事、独禁、知財、租税の判例速報が続く。新たに始まった連載ものも含め、この辺はビジネス系のユーザーをかなり意識した作りになっている。
・ページレイアウトも大幅に変更。特集の座談会では、冒頭に出席者の写真がワイドに(笑)掲載されているし、これまで文字ギチギチで読みにくかった時の判例やら各種判例研究会の評釈も、2段組のページに均等に収まっている。全体的に見栄えの良さは格段に上昇した。
・発行ペースは、月2回から月1回に変更*2

といったところだろうか。

確かに、これまでの「ジュリスト」って、一般ユーザー向けの極めてタイムリーな論稿が掲載される一方で、「誰が読むんだ?」的なマニアックな論稿が掲載されていることも多かったから、ビジネスユーザー向け法律情報誌が乱立するこのご時世に、“お得意様”の企業ユーザー(&一部ビジネス系個人ユーザー)に、貴重な経費を割いて購読するモチベーションを維持してもらうためには、これくらい思いきった“編集革命”が必要だったのだろう、と思う*3

また、「大改編」のニュースを聞いたときは、『ジュリスト』ならではの格調の高さが失われることも若干危惧していたのだが、少なくともこの1月号を読む限りでは、そんな懸念も杞憂に終わりそうである*4

伝統ある出版社の伝統ある雑誌だけに、自分の原稿を載せたい人々の思惑もいろいろ絡んでくるだろうし、今後、編集部がイメージするとおりの雑誌構成を続けていけるか(そして読者のニーズに合わせた「質」を保てるか)どうかは分からないけれど、これも法律家業界の“時代の変化”を感じさせるトピックの一つとして、後々語り継がれていくことになるのではないか、と思っている。

特集「変わる特許動く実務‐平成23年改正法施行に向けて」

さて、せっかくなので、1月号の特集になっている、特許法改正関連記事についてもフォローしておく。


この特許法改正は、昨年の2月頃に大綱がまとまっていて、当時はその内容の余りのドラスティックさに、本ブログにも驚嘆の記事を書いたものだが*5、その後、地震のゴタゴタ等もあって、すっかりフォローを怠っているうちに、トントンと話が進み、既に今年の4月1日からの施行が決まっている*6

『ジュリスト』の特集は、まず冒頭に、中山信弘教授、飯村敏明裁判官、片山英二弁護士、田村善之教授、山本和彦教授、という超豪華布陣の座談会をもってきて*7、各論点について一通り議論した上で、小泉直樹教授以下の個別解説を付ける、というお馴染みの構成になっているのだが、実務上興味深かったのは、

(「通常実施権の当然対抗」制度導入に関連して)「旧特許権者とライセンシー間の契約関係がどの程度、新特許権者との間に引き継がれるのか」

という問題*8、そして、被冒認出願者(真の発明者)による特許の移転請求権が認められたことに関連して、

「紛争が、相当出てくるのではないかという感じがします」(片山弁護士発言)
「訴訟になるケースは増えるかもしれません」(中山教授発言)

といった反応が見られる(23-24頁)ところだろうか。

特に後者については、個人的には、他の論点に比べるとマークが手薄になっていて、「大学・企業間の共同発明」のような場面は必ずしも想定していなかっただけに、改めて問題を突き付けられると、考えるべきこと、対策を取らねばならないことは多いなぁ・・・と思う*9

なお、今回の一連の特集を読んで、「侵害訴訟の判決確定後の再審での蒸し返し防止」に関する改正法の条文が、

(主張の制限)
第104条の4 特許権若しくは専用実施権の侵害又は第65条(新設)第1項若しくは第184条の10第1項に規定する補償金の支払の請求に係る訴訟の終局判決が確定した後に、次に掲げる審決が確定したときは、当該訴訟の当事者であつた者は、当該終局判決に対する再審の訴え(当該訴訟を本案とする仮差押命令事件の債権者に対する損害賠償の請求を目的とする訴え並びに当該訴訟を本案とする仮処分命令事件の債権者に対する損害賠償及び不当利得返還の請求を目的とする訴えを含む。)において、当該審決が確定したことを主張することができない。
1 当該特許を無効にすべき旨の審決
2 当該特許権の存続期間の延長登録を無効にすべき旨の審決
3 当該特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正をすべき旨の審決であつて政令で定めるもの

と、文字通り「主張制限」になっていることを知ったのだが、これは、何だかなぁ・・・と思うところではある。

まぁ、実際に実務にかかわっている人にとっては、より重要なテクニカルな変更も多い改正だけに、この辺の「法律家向け」の論点について、すぐに話題が盛り上がる、ということはないのだろうけど。


以上、リニューアル第1号にふさわしい豪華特集より。

毎号これくらい実用性のある特集を組んでいただけるよう、有斐閣さんには期待したい。

*1:何とまぁ、第1回は竹崎博允最高裁長官。この辺はさすが伝統のジュリスト。

*2:定期購読を申し込んでいるサイトからは、既に購読期間延長のお知らせが来ている。ちょっと得した気分。

*3:正直、「何で取るの?」「まだ取るの?」「毎号買わなくてもいいんじゃない?」という疑義をうるさい経理部門から投げかけられる機会が一番多かったのがこの雑誌だったから・・・。

*4:個人的には、ジュリストの記事をきっかけに、それまでまったく関心のなかった分野に触れて興味をもつ・・・ということもなくはなかっただけに、内容的に整い過ぎてしまうと面白みが薄れるなぁ、と思ったりもするのであるが。

*5:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20110206/1297184781

*6:震災当日に法案を提出できた、という幸運もあろうが、この辺はさすが経産省、未だに改正法案成立のめどが立っていないどこかの省庁とは違う・・・。

*7:「座談会・特許法改正の意義と課題」ジュリスト1436号12頁(2012年)。

*8:前記座談会20頁・田村善之教授コメント部分。なお、個別解説の中では、飯田圭弁護士が契約そのものの当然承継否定説に立って論稿を書かれている(「当然対抗制度‐解釈論上の課題と実務上の留意事項」ジュリスト1436号54頁以下)。

*9:報告書段階では、単に「悪い奴に出し抜かれた真の発明者をいかに救済するか」という視点での分析しか書かれていなかったように思うので、現実の問題に当てはめた時の派生効果にまで思いが至らなかった。反省。

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