会社法改正、というと、脊髄反射的に「社外取締役『義務付け』」を叫ぶのが、最近の日経新聞。
ということで、パブコメ募集期間真っただ中の16日付け朝刊の法務面にも、
という特集が組まれている。
「取引先関係者を社外取締役と認めるようでは、この部会は寝ぼけていると言われる」
という東京証券取引所・静正樹・常務執行役員の強烈な発言の引用で始まり*1、
「苦い薬は長い目で見れば良薬になり得る。経済界を含め、日本企業が世界から信頼されるための制度改正という視点からの検討を強く期待したい」
という岩原紳作・会社法制部会長の発言で締めるこの記事は、専ら「社外取締役を導入すべき」というトーン一色に染まっている。
確かに、経団連に代表される「産業界の意見(反論)」にはおかしなものも結構あって、特に、
「会社に2親等内の親族、姻族がいる者」
を「社外」取締役から除外することにまで反対していたりするあたりは、「何でやねん」という突っ込みを入れたくもなるし*2、二言目には「社外取締役の人材確保が困難」という理屈を持ちだすのも、弁護士が余っているこの時代には、あまり説得力がない(笑)。
ただ、
というのは、さすがに言い過ぎで、多くの良識的な(経営者以外の)企業人が、上記のような「産業界代表」の“反論のための反論”を内心苦々しく思いつつ、その一方で、
「何が何でも『社外取締役』を!」
と、馬鹿の一つ覚えのように言い続ける「社外の」人々に対しても、大きな不信感を抱いていることは、忘れていただきたくないなぁ・・・と思うところである*3。
ボードメンバーに社外の人間を入れたところで、それが直ちに会社の業績向上に直結するはずもない、ということは、(無駄に実証研究をするまでもなく)「取締役会の機能」を考えれば明らかだし*4、経営監視・統制といった機能についても、「単に社外取締役を義務付ける」というだけでは劇的な改善が望めるはずもなく、かえって“飾り花”を増やすことによる取締役会の形骸化につながる恐れがあることは、以前このブログでも指摘したとおりだ*5。
日経紙の記事の中では、
「正しいと思う自分の意見を貫く社外人材が必要だ」
という上村達男教授の発言も掲載されているのだが、「なぜ、その社外人材が『取締役』でなければならないのか」、あるいは、「なぜ、『社外』の人材でなくてはならないのか」ということについて、記事では何らフォローされていない。
今、(独立性の高い)社外取締役がいる会社であっても、取締役会におけるその取締役の発言は決して多くない*6、という事実は見逃されるべきではないし*7、上村教授の提案が、「ウッドフォード氏のような、毀誉褒貶あるアクの強い外国人をどんどん連れてこい、という趣旨の提案であれば、それなりに尊重する必要があるにしても、グローバル企業であるかどうかを問わず、日本企業のボードメンバーにひたすら外国人の社外取締役の名前が並ぶ・・・という状況を、日本の会社を取り巻くステークホルダーが皆望んでいるのか、と言えば、それは大いなる疑問だと思う。
最近、「義務付け論者」に引っ張りだこの「オリンパスはこうだった!」論にしても、それは、一企業で起きた不祥事の一面的な評価でしかないし、それを言うなら、「事実上の破綻に至ってしまった会社や重大な不祥事を起こした会社の中にも、社外取締役を選任していた会社が多々ある」という事実とも比較・分析しないとフェアではない。
結局、会社法上の制度論によってしか、会社の経営の有り様を法的に縛ることができない*8、という現実の中で、今の会社のあり方に不満を持つ人々としては、「社外取締役」という分かりやすい言葉を一種の象徴的なTermとして引っ張り出し、それに頼って「あるべき論」を語るほかない、ということなのだろうけど、合理的な理由の裏付けなく、「社外取締役を!」と叫んだところで、現実を知る実務者からは白い目で見られるだけで、下手をすると、
「こいつら、密かに枠が増える『社外取締役』の座を狙って暗躍しようとしているんじゃないの?」
という疑念すら呼びかねない、ということは、記憶の片隅に置いておいていただいた方が良いのではないかな・・・と思う次第である。
*1:結果として、中間試案(http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000082096)には、「社外取締役及び社外監査役の要件に,株式会社の重要な取引先の関係者でないものであることを追加するものとするかどうかについては,なお検討する。」という注記が付されているが、要件確定の困難さや、現在の改正をめぐる情勢を考えれば、実現する可能性は限りなく低いと思われる。
*2:おそらく、親族、姻族がいないと思っていたら実はいた、とか、取締役の任期中に自分の息子(娘)が、その会社の社員と結婚することになった、なんてことになったら困る、という理由なのだろうけど、わざわざ声高に反対することでもないだろう(対象から「使用人」を抜いて、取締役、監査役に限定するくらいの妥協案を出せばよいではないか)、と個人的には思っている。
*3:特に、委員会設置会社や社外取締役導入済みの会社において、取締役会周りの運営実態に知悉したコーポレート法務系の人々に、この思いが強い傾向があるように思う。
*4:会社の経営陣があまりに無能で、取締役会で会社にとって明らかにマイナスな施策ばかりを決議しているような会社であれば、社外の目を取り込むことによる劇的なw業績改善の効果がもたらされるかもしれないが、そんな会社が今の上場企業の中に、どれだけあるというのだろう・・・。「日本でも最近の『精緻な実証研究によって社外取締役の選任会社で業績向上を認められたものがある』(岩原紳作・東大教授)。」っていうけど、そりゃあ、数多くある社外取締役設置会社の中には、そんな会社もある、というのは当たり前のことであって、その結果が「社外取締役の選任」と「業績向上」の因果関係を裏付ける、ということには決してならないと思われる。
*5:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20111205/1323499679、スタッフの独立性が担保されていない今の提案のカタチのまま、多くの会社が監査・監督委員会制度を導入し、監査役制度を廃止するようなことになれば、結果的に社外取締役が選任されるようになったとしても、ガバナンスが後退する会社が増加してしまうことすら懸念される。
*6:むしろ親会社出身の社外取締役の方が、発言頻度で言えば遥かに多い、という会社も少なくないと聞く。
*7:この辺のエピソードは、日本社会でそれなりの地位に上り詰めた人(言わば、「社外取締役」の適任者として名前が挙がる人)を社外取締役にすることの限界を感じさせてくれる。
*8:経営者の倫理観だとかコンプライアンス・マインドが大事だ、といったところで、それは心の内側の問題でしかなく、社会的地位、という点では大企業の経営者に到底及ばない外野の人々が何をいったところで、説得力のある議論にはなりにくい話である。