「ヴロツワフの惨劇」に見たJAPANの未来。

サンドニでフランスA代表に黒星を付ける、という快挙を成し遂げたのもつかの間、ポーランドヴロツワフの地で、ブラジルに力の差を見せつけられた我らが日本代表。スコアだけ見れば、2001年のサンドニに匹敵するような0-4の“惨敗”であった。

いつもはスコアだけで騒ぎ立てるこの国のメディアだが、まだフランス戦勝利の余韻に浸っているのか、あるいは「ブラジル」という名前があまりに偉大すぎるからなのか、この「惨劇」に対しては比較的優しかった。

だが、今のフランス代表が、ヨーロッパでも中位レベルにランクされる程度の再建途上のチームで、しかも、日本戦では、リベリーを先発で使わず、ベンゼマは前半で早々に引っこみ、エブラはベンチを温めている・・・という状況だったことを考えると、サンドニの試合は、今の力関係を考えても、「日本が勝って当然の試合」だったように思う*1

そして、気が付けば次のW杯までもう2年を切ったこの時期に、本当の意味で「世界との戦い」となったブラジル戦(しかも本田、香川の二枚看板も揃っていた試合)で、0-4、という結果に終わってしまった、という事実は、結構重たい話だと思うのだが・・・。


スコアを度外視して中身だけを見れば、“かなりいい試合”だったのは確かだ。

特に先制点を奪われるまでの時間帯と、後半の不運な3失点目の後の必死の巻き返しは、今のA代表のポテンシャルの高さを十分に感じさせるものだったし、それゆえ、サッカーの世界では“セーフティリード”の点差になっても、ブラジルがなかなか選手交代のカードを切らなかったのではないか・・・と一視聴者が勝手な想像をしてしまうような展開だった。

スコアにしても、点差が開いたのは、「日本が守勢に回らず最後まで攻め続けた結果」で、「何もできずに敗れた」11年前のサンドニの試合とは本質的に違う、という評価もできるところだろう。
日本選手たちの試合後のコメントには、大敗した試合とは思えないくらい充実感が漂っていた。

だが、ボールを取り返した後の、無駄のない、そして恐ろしいほど正確なブラジルの攻撃を見てしまうと、現時点ではまだまだ、日本代表には足りないものがある、ということを思い知らされてしまったのも事実なわけで・・・。

スピードと敏捷性を生かした攻撃、というのは、長年、日本が目指してきた攻撃そのものだ。
にもかかわらず、A代表ではなかなか完成されないそんな攻撃パターンの極上バージョンを相手チームに見せつけられ、逆にこちらは、攻めても攻めてもゴールネットを揺らすことができなかった・・・。
それを踏まえると、いくら「いい試合」だったからといって、満足感に浸ることなどとてもできない*2


思えば、地元開催のW杯を沸かせた日本代表の快進撃は、「サンドニの大敗」から始まった。

屈辱的な大敗の次に迎えたスペイン戦で、アウェーながら0-1の善戦。
さらに地元で行われたコンフェデ杯では、グループリーグから快進撃を続け、雨中の準決勝・オーストラリア戦*3で、中田英寿の伝説のグラウンダーPKが決まって1-0の劇的勝利。
そして、決勝戦では、3か月前には全く歯が立たなかったフランス相手にも0-1と粘りを見せた*4

あくまで結果論かもしれないが、2度のフランスとの対戦で、二度黒星を喫しながらも、その過程で一気に差を縮める結果を残せたことが、1年後の日本の歓喜につながった、という見方もできるところだろう。

・・・で、振り返って11年後の今。

奇しくも、2011年のアジア杯を制した日本は、来年、ブラジルで行われるコンフェデに出場する予定になっている。
そして、当然ながら地元・ブラジルも同じ大会にはエントリーすることになる。

もし、この大会でブラジルと再戦し、少なくとも今回の0-4を、スコア、内容ともに上回るような結果を残せたならば、まさにその1年後、国中を歓喜の渦に巻き込むような進化を期待できるだろう。

逆に、再びヴロツワフと同じような“気持ち良い大敗”に終わってしまうようであれば、どんなに盤石の態勢でアジアの最終予選を勝ち抜いたとしても、南アフリカW杯以上の結果を残すことは望めない・・・そんな気がしている。

今のブラジル代表は、“欧州に出稼ぎに行ったスーパースターたちが即興で業を見せている”感が強かったここ何大会かのブラジル代表*5とは異なり、まだ地味ではあるが伸び盛り、というカテゴリーに属する選手たちが多い。

財政的に青息吐息のクラブばかり(?)で運営されていた地元リーグも、ここ数年の経済発展によって力を付けたようで、ネイマールのように、かつてならとっくに欧州のビッグクラブに引き抜かれていたような才能が、地元にとどまって準備できる、という地の利もある。

なので、正直、ここからの1年で、日本代表の選手一人ひとりが相当レベルアップし、かつ、コンビネーションを高めていかないと、“サンドニ”の時の再来は難しいと思うのだけれど、それでも、「またやってくれるんじゃないか」という期待は、かすかに残っている。


2年後、「ヴロツワフの惨敗」を批判しなかった我が国のメディアの「期待を込めた慧眼」に感心させられることになるのか、それとも、「節穴ゆえ足りないところを手厳しく指摘できなかった」とがっかりさせられることになるのかは分からないけれど、少なくとも可能性が残されている間は、それに懸けていたい、と今は思う。

*1:2001年のフランスが、チームの核であったジダンデサイーをフル出場させ、ピレス、アンリといった華のある選手たちも、後半開始の時点ではまだピッチにいた(しかも交代で入ったのは、ヴィルトールだったり、トレゼゲだったり、という贅沢なメンバーだった)ことを考えると、あの時と今回を比べるのは、ちょっとセンスがないような気がする。もちろん、JAPANが力では上回る相手であっても、名前負けして勝ちきれなかった歴史を数多く積み重ねてきたことを考えれば、最後の最後で拾ったものとはいえ、「勝った」という事実には価値があるのだけれど。

*2:そもそも、世界どころかW杯に出ることすらままならなかった時代でも、「いい試合」は山ほどあった。

*3:当時はまだオセアニア枠の中にいた。

*4:欧州のリーグ戦の真っただ中で、ジダンがいなかった、というのが最少点差に抑えられた最大の理由だと思うが、それを言えばこちらにも中田英寿がいなかったわけで、ホームの声援を背に、短期間で自信を取り戻した日本代表がそこにいた。

*5:といっても、南アフリカ大会は、ちょっと毛色が違ったのだけれど。

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