因果なお仕事。

やっぱり・・・というフレーズしか出てこないようなニュースが夕刊を飾った。

資金管理団体陸山会』の土地取引を巡り政治資金規正法違反(虚偽記入)罪で強制起訴された元民主党代表で『国民の生活が第一』代表の小沢一郎被告(70)の控訴審判決が12日、東京高裁であった。小川正持裁判長は『犯罪の証明はないとした一審の無罪判決は正当』と述べ、元秘書との共謀を認めなかった一審・東京地裁判決を支持、検察官役の指定弁護士の控訴を棄却した。」(日本経済新聞2012年11月12日付夕刊・第1面)

この件については、指定弁護士が控訴を決めた時点で、気の毒になぁ・・・というトーン満載のエントリーをアップしていたのだが*1、実際、新たな証拠調べ請求は却下され、僅か半年少々であっというまに控訴棄却判決。しかも、記事によると、「記載の一部について『元秘書に違法性の認識がなかったとも考えられる』と指摘」されるなど、第一審よりもさらに訴追側から見れば後退しているようにすら思える説示までなされているようだから*2、何のために控訴したのか分からない、と言わざるを得ない。

指定弁護士のうち、第一審判決後のコメントがちょっと微妙だった村本道夫弁護士は、今回も「主張が受け入れられず残念だが、承服しがたい点もある」と、まるでどこかの次席検事のようなコメントを残されているようだが、ここはもう少し冷静に状況を見ていただいた方が良いのではないか・・・と思うところ。


もっとも、指定弁護士側にも同情の余地がないわけではない。

既にあちこちで指摘されているように、検察審査会法は、

第41条の10 指定弁護士は、速やかに、起訴議決に係る事件について公訴を提起しなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
一 被疑者が死亡し、又は被疑者たる法人が存続しなくなつたとき。
二 当該事件について、既に公訴が提起されその被告事件が裁判所に係属するとき、確定判決(刑事訴訟法第329条 及び第338条 の判決を除く。)を経たとき、刑が廃止されたとき又はその罪について大赦があつたとき。
三 起訴議決後に生じた事由により、当該事件について公訴を提起したときは刑事訴訟法第337条第4号 又は第338条第1号 若しくは第4号に掲げる場合に該当することとなることが明らかであるとき。
2 指定弁護士は、前項ただし書の規定により公訴を提起しないときは、速やかに、前条第一項の裁判所に同項の指定の取消しを申し 立てなければならない。この場合において、当該裁判所は、前項ただし書各号に掲げる事由のいずれかがあると認めるときは、その指定を取り消すものとする。
3 前項の裁判所は、同項の規定により指定を取り消したときは、起訴議決をした検察審査会にその旨を通知しなければならない。

と、指定弁護士に公訴提起の義務(しかもその例外は厳しく制限されている)を負わせるのみで、第一審で公訴提起側が敗訴した時にどうすべきか、ということについては何ら規定していない。

そして、検察審査会が一定の「民意」を反映する機関である以上、その意思を受けて選任された指定弁護士が、自らの判断で控訴する/しない、ということを独自に決定するのは難しく、それこそ、検察審査会を一審級ごとに開くでもしない限り、指定弁護士が訴訟を継続して、何としても有罪を勝ち取らなければならない・・・という強迫観念にかられたとしても、不思議ではない。

そもそも、日常の人格や倫理観如何にかかわらず、

続行してください。
この裁判は、あなたに続行していただかなくては。
あなたに続行して いただく事が絶対に必要なのです。
迷うことはありません、あなたは。

とメディアに耳元で囁かれれば、全く異なる行動に走ってしまう可能性がある、ということは、半世紀前の実験からも推し量れるところなのだから・・・*3


日経紙のコメントを引用するまでもなく、この高裁判決が出た状況で、指定弁護士が「上告」という選択肢をするのはかなり困難だし、既に起訴時とは180度発想が入れ替わってしまった今のメディアは、指定弁護士がそうすることを、易々とは許さないようにも思われる。

それでもなお、「民意」の重さが、「上告しない」という単純な選択を躊躇させるのだとしたら、「指定弁護士」というのは何と因果な仕事なのだろう、と思わざるにはいられない。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20120509/1336886130

*2:現在、3人の元秘書が控訴審で争っていることを考えると、同じ東京高裁でこのような可能性が指摘されたことの意味は大きく、主任弁護人の弘中弁護士が「想像以上」と小躍りする理由も分かるような気がする。

*3:一連の記載については、「ミルグラム実験アイヒマン実験)」に関するhttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%AB%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%A0%E5%AE%9F%E9%A8%93参照。

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