惜しみなく明かされた模倣品対策のレシピ。

時々知財関係の特集が組まれるBusiness Law Journal誌だが、これまで多かった著作権関係のネタに代わり、今回は「模倣品対策」ということで、商標法、意匠法、不競法の特集を組んできた。

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2014年 08月号 [雑誌]

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2014年 08月号 [雑誌]

頻度としては決して少なくないにもかかわらず、実際に裁判所まで持ち込まれるような事例は、パーセンテージとしてはかなり少ない、ということで、この領域の実務の実態はなかなか表に出てきにくいのであるが、今回の特集では、中村勝彦弁護士のインタビュー記事*1が、かなりいいところまで突っ込んでくれている。

例えば、「明確に権利があるとはいえない状態で類似品に対抗しようとする場合」の不競法2条1項1号、3号を武器とした侵害警告について、「目的に合わせてアプローチを変える必要があること」を指摘した上で、警告書を効果的に活かすための送付や交渉のあり方、着地点の立て方など、そんなにボリュームがあるわけではないが、ツボとなるところが要領よく抑えられていて、なかなか良い記事になっていると思う*2

「強気な書面を送りつつも、『もうすぐ書面が届きますが、とりあえず会いませんか』とすぐに相手に電話する」

などという高尚なテクニックは、自分は使ったことはないし*3、警告書の「さじ加減」といっても、そもそも警告書を送ること自体が「呑気に交渉するつもりはないよ」というメッセージだったりもするから、どこまで“優しさ”を感じさせる余地を書面に残すかは難しいところなのだが、対応を考える上で、ここに書かれていることが重要な要素になるのは間違いないところだろう。

・・・で、それを踏まえて読むと、なお面白くなるのが、その後に続く「5社の判断基準と落とし所」という記事(32頁以降)。

元々、実務担当者の生々しいコメントが掲載されるところに、この雑誌の最大のストロングポイントがあるのだが、この記事も例外ではなく、果敢に社名を出されているタカラトミーのほか、スポーツメーカー、製造小売、消費財メーカー、といった会社が、模倣品対応のノウハウの一端を惜しみなく出してくれている。

どの会社にも共通しているのは、「損害賠償の支払いよりも確実な撤去を」というところと「できれば裁判はやりたくないよね」ということくらいで、後は会社によってかなり考え方が違うので、初心者が読むと、少々混乱するところもあるかもしれない。

書面の出し方ひとつとっても、

「どのような相手であっても、警告書は送ります。」
「初回の警告書は、請求事項と請求の法的根拠の二つの要素だけを書き、A4用紙1枚くらいであっさり済ます場合がほとんどです」

という極めて画一的な処理を志向する会社(製造小売)があるかと思えば、

「つながりがある場合は、警告書ではなく、当社でやり取りしている事業部などからツテをたどり、話合いをして収めることもあります。」(タカラトミー、スポーツメーカーも同旨か)

と、相手による硬軟両用の使い分けを志向する会社もある。

さらに、「同じ業界内の場合、商標担当者の勉強会などで友好関係が構築されている」として、「ぶつかったとしてもいきなり商標権侵害の警告書を送るようなことはありません」という極端なケースもあり・・・(消費財メーカー)。

自社の製品、侵害品のそれぞれが、どういうジャンルに属する製品なのか、といったことや、どういうタイプの“模倣”が多いのか(同ジャンルの商品について名称やロゴ等を似せる、というタイプの模倣なのか、それとも、コンセプトを似せてくるタイプの模倣なのか、あるいは、自社の商品・役務とは全く別ジャンルの商品に関して自社のブランドにフリーライドしてくるタイプの模倣なのか、等)、といったことによって、対応がそれぞれ違ってくるのは当たり前の話で、それゆえに、ここに寄せられたコメントをしっかり理解するためには、様々な想像力を働かせながら行間を読んでいく作業が必要になる(笑)のではあるが、その辺のややこしさを差し引いても、十分意義のある特集だな、と思った次第であった*4

なお、同じような問題は、製品分野だけではなくサービス分野でも存在しているし、サービスの世界に入り込んでしまうと、それこそ不競法(+辛うじて商標法)だけで戦わないといけない場面も多いので、そのあたりまで広げてリサーチしてみたら、面白いんじゃないのかな、ということで、次回以降の特集にも、また期待してみることにしたい。

*1:中村勝彦弁護士「ヒットしてからでも遅くない類似品対策の実務ポイント」BLJ77号29頁(2014年)。

*2:この種のやり取りの経験のない担当者が読んだときに、どこまで想像力が及ぶかは分からないけれど。

*3:狭い業界で気心の知れた代理人間、あるいは、元々面識のある同業者間のやり取りとしてはあり得るとしても、アウトサイダー的な“侵害者”に対して、ここまで丁寧な対応をする必要はないだろうな、と個人的には思う。

*4:個人的には、中村勝彦弁護士の基調インタビューでもばっさり切り捨てられていた「意匠権」が、スポーツメーカー(特に多そうなのは靴系かな)や、製造小売の担当者に比較的高く評価されていたのが印象的であった。

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