プログラムをめぐる著作権侵害訴訟の難しさ

「プログラムの著作物」が著作権法で保護される、ということは明文の規定で定められているとおりであり、そこに争いを入れる余地はない。
だが、「著作権法でプログラムが保護された」という事例を裁判例ベースで探そうと思うと、それがなかなか出てこない、という実態もある。

明らかなデッドコピー事案であれば訴訟に持ち込まれるまでもなく決着するだろうし、多少手が加えられていても侵害の事実が明白な事案であれば、判決が出る前にカタが付くことが多いだろうから、公表された判決の少なさだけを取りあげて議論するのはあまり適切なことではないと思うが、一方で、権利者側の視点で見ると、プログラム事件特有の主張立証の難しさがある、ということも否定はできないだろう。

そんな中、プログラムに関する著作権侵害訴訟を遂行することの難しさを象徴するような裁判例が公表された。

以下では、原告にちょっとばかりの同情を寄せつつ、判決の内容をご紹介することにしたい。

東京地判平成27年6月25日(H25(ワ)第18110号)*1

原告:株式会社カンバス
被告:株式会社フェイス

本件は、日本語の字幕ソフトウェアであるSSTG1を開発した原告が、「Babel」という同種のソフトウェアを製造、販売していた被告に対し、著作権侵害に基づく差止め、及び損害賠償を求めて提訴した事案である。

原告のソフトウェアは、映画やDVD等の字幕制作ソフトウェア市場において業界標準となっていたものだったのだが、原告プログラムの開発責任者やその他数名の原告元従業員が被告の業務に関与する、といった経緯を辿った後に、平成25年2月1日から、被告が原告ソフトウェアの約半分の価格で「Babel」の発売を開始したことから、腹に据えかねた原告が訴訟を提起した、というのが実態だろうと思われる。

本件において原告側の動きは早く、被告がソフトウェアの販売を開始した直後の平成25年3月8日には、千葉地方裁判所松戸支部において証拠保全決定を得ており、同年4月4日には第1回の証拠保全手続が実施されているのだが、

「被告は,被告プログラムのソースプログラムを構成するソースファイルのうちの一部のソースリストを任意に提示し,Drawer.cppというソースプログラム及びエクセル形式の字幕ファイルをエクスポートする機能を実現するソースプログラムを任意に閲覧に供したが,営業上の秘密にかかるとして記録は拒否した」(4頁)

と、今一歩のところで止まっている*2
また、続く同年5月10日付け証拠保全決定に基づいて、同月17日に行われた第2回証拠保全手続(ソースプログラムのうち、「プログラム言語C++で記述された周辺機能のライブラリ部分に含まれる13のプログラムのソースプログラム」に対象を絞って行われたもの)は、

「被告は,「本件検証の目的物としては,申立人のいうソースプログラムに該当するもの自体は一応存在すると思われるが,その更新日時が平成25年4月6日以前のものかどうかは,見てみないと分からない。」旨指示説明し,裁判官は,かかる指示説明に基づき,原告の確認を得て,「各ファイルは,いずれも更新日時が平成25年4月6日より後であるか,又は存在しない。」として,検証不能により証拠保全手続は終了した」(4頁)

と事実上空振りに終わった。

おそらく、被告プログラムが世に出るまでの経緯に加え、証拠保全手続開始後に上記のようなやり取りに接すれば*3、原告が「被告が著作権を侵害している」という主張により強い確信を抱いたとしても不思議ではない。

だが、証拠保全手続を通じて「ソースコードを入手できなかった」という事実は重かった、というべきなのか、裁判所は以下のように述べて、原告の主張を全面的に退けてしまった。

「原告の主張する間接事実のうち証拠上認められるものの一部(Template.mdbの複製の点,及びエクセルファイルをxlsx形式で処理する際のエラーメッセージの点)が,被告が原告プログラムを複製又は翻案したことを一定程度推認させるものであるとしても,前者は,被告プログラムに旧SSTとの互換性を持たせるために行われたことであり,後者は,原告プログラム及び被告プログラムの開発につき同じ技術者が関与していることなどから説明できるものであり,これらの事実が直ちに両プログラム全体の表現の同一性ないし類似性を根拠付けるものとはいえない。かえって,原告プログラムと被告プログラムには,字幕を映像に入れる基準ないし管理方法の違い,プログラム言語の違い,インポートとエクスポートの処理速度の違いといった重要な相違点があり,これらの事実からは,被告プログラムが原告プログラムの表現形式上の本質的な特徴を直接感得することができる著作物ではない可能性が十分にあるといえる。」
「したがって,原告がその他るる主張する点も十分に考慮しても,被告プログラムが原告プログラムを複製又は翻案したものであると認めるには足りないというべきである。」(16頁)

ソースコードの直接的な比較ができないからといって、直ちに原告の主張を退けるのではなく、「原告の主張する間接事実」を一つひとつ丁寧に検討して、プログラムの表現の同一性、類似性に関する結論を導こうとした裁判所の努力は、一応評価されるべきだと思うのだが、それでも結論においては侵害が否定されてしまう、という悩ましさ。

そして、“何としても被告側のプログラムの中身を法廷に引きずり出したい”と様々な手を繰り出した原告に対して、裁判所は冷淡のようにも思える説示を行っている。

まず、証拠保全手続における被告の言動を原告が「証明妨害」と主張した点については「原告の指示説明」や「主張内容」は不合理とは言えない、と退けた上で、被告「第1回証拠保全手続において撮影し裁判官の指示により消去したはずのビデオカメラデータを復旧した」*4ことについては、

かかる主張立証方法は,証拠保全手続における裁判官の指示をないがしろにするものであり到底認めることはできない上,いずれも簡単な内容をごく短い表記法によって記述したものに過ぎず,Cという同じ技術者が関与したことによる一致に過ぎないとも言い得る。」(16頁)

と原告側をかえって厳しく断罪した。

また、“最後の頼みの綱”とも言えた「文書提出命令の申立て」についても、最終的に、

「前記説示に照らせば必要性が認められない上,被告プログラムのバージョン2.0.0.11のソースプログラムが存在すると認めるに足りる証拠もないことなどから却下する」

とバッサリ切り捨てられている*5


本判決の中でも指摘されているように、原告のプログラムと被告プログラムの間には目に見える違いもあるわけで、被告プログラムの全容が明らかにされたからといって、原告に有利な結論が出るとは限らない。

ただ、どうしても隔靴掻痒的で窮屈になっている原告側の主張の組み立てを見てしまうと、訴訟追行におけるフラストレーションを僅かでも緩和するために、もう少し何か策が講じられないものか、と思わずにはいられないのである・・・。

*1:第47部・沖中康人裁判長、http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/270/085270_hanrei.pdf

*2:ソースプログラムを「閲覧」しただけで、裁判資料としての主張立証に使えるか、というとかなり疑問はある。

*3:原告は、第2回手続において被告が「プログラムの履歴管理はしていない」と述べたこと等を“明らかに虚偽”と指摘し、かなり強い攻撃を加えている。

*4:これによって得られた情報を元に、原告が、原告・被告双方のプログラムに全く同じコメントや定数名、定義名が存在することを主張している。

*5:文書提出命令が却下されること自体は決して難しいことではないのだが、任意的解決も進捗しないままこういう結論になっていると思うと、何とも残念である。