今日のCOVID-19あれこれ~2020年3月10日版

今日は予定されていた日本政府の対策第2弾公表の日。

既に、想像どおり、イベント”自粛”要請が1週間延びることは事実上発表されていたし、今日公表された新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策 ―第2弾-」*1を見ても、どのあたりで一連の対策の幕引きができるのか、ということは全くうかがえない。

とはいえ、今の苦しい国家財政下で4,300億円超の財政措置を講じたことは率直に評価しないと汗を流している方々に申し訳ないし、マスク確保対策にしても、PCR検査体制の強化にしても、何とかしよう、という姿勢だけはうかがえるから、それを最後のセーフティネットにして、後は一人ひとりの知恵で乗り切っていくしかないな、と思っている*2

幸いなことに、今日の午前中の早い時間帯までは、絶望的な空気に支配されていた市場も、何とか息を吹き返してプラスに転じ、それを受けた欧州市場、米国市場も何とか反転攻勢に転じている。


「ウイルス性肺炎といっても大したことはないだろう」「中国(極東)では大変なことになっているようだけど自分の国は大丈夫だろう」「自分の国で流行り始めたけど、周辺の人間にまで影響が及ぶことはないだろう」等々、人間の素朴な正常性バイアスを見事なまでに逆手にとり、世界で11万6,000人くらいにまで感染者を広げてしまったのが「COVID-19」という厄介な代物*3

市場をめぐるあれこれも、まさにその延長線上にある話で、「株価が変な動きをしているけど、ちょっと利下げ(or資金供給)すれば持ち直すだろう」「バイデンが予備選で勝ちそうだからこれでもう大丈夫だろう」等々、楽観論が出ては消え、出ては消え、というのを繰り返している間に、最近では凄く極端な悲観論まで出てきていたりする。

だが、いくら正常性バイアスはいかん、といっても、そこまでくるとさすがに、ちゃんと一次資料見てる? 今の世の中の状況見てる? と首を傾げたくところもあり。

ということで、今日はその辺の話をちょっとしてみたい。

そろそろ買い戻そう、ニッポンを。

3月も3分の1が過ぎた、ということで、ちょうど2月の月次の公表も今がピーク。さらに1月末でクオーターが変わる会社の決算発表、業績予想もボチボチ出てきている。

この点に関しては、先週のエントリー*4でも触れた通り、メディアで報じられるのはどうしても「悪い結果」の方ばかりだし、実際、悪い結果になってしまっている会社があるのも確かだ*5

また、月次でも、既存店の100%割れが目立ったコンビニ大手3社(特にオフィス街に進出しているローソンとファミリーマートは厳しい結果になっていた)や、2月の月次こそ好調(対前年112.8%)ながら、「3月に入り、新型コロナウイルス感染症に伴う全国各地での様々な自粛の影響に伴い、3月9日時点で既存店売上高は前期比で 90%台半ばでの推移となっております」という一言を添えた ㈱丸千代山岡家https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200310477046.pdf)など*6、芳しくないところがあるのは確かだ。

だが、逆に、この一連の”コロナショック”が明らかにプラスに作用しているのが、ドラッグストア、ホームセンター等の小売事業者である。

既に全国区の会社の中でも、ツルハHDとかDCMHDといったところが、いい数字を出しているのだが、今日はスギホールディングス㈱が全店128.6%、既存店だけ見ても120.9%という躍進ぶり*7。㈱バローホールディングスもドラッグストア、ホームセンター部門は跳ねている*8

長野の名門、綿半ホールディングス㈱は数字こそ控えめなものの「月の終盤にかけては、新型肺炎の影響で、衛生用品、食料品や日用品の買い溜め特需があり、売上・客数・客単価ともに前年を上回りました。」という解説を加えているし*9ドン・キホーテを抱える㈱パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスに至っては新型コロナウイルスの影響で保存性⾷品や衛⽣⽤品が⼤きく伸⻑し、免税売上⾼の落ち込みをカバー!」とインバウンド需要減少を懸念する投資家の不安を先回りして吹き飛ばすような見出しを付け、「国内消費は、新型コロナウイルスに係る状況変化に伴って、週を追うごとに「巣ごもり消費」が顕著となり、保存性⾷品や衛⽣⽤品、紙製品などの⽇⽤雑貨品が牽引しました。なかでもマスクや除菌シート及びトイレットペーパーなどのニーズが急速に⾼まりました。」と、語っている*10

もちろん、ご承知のとおり、既に最大の商材である「マスク」は3月に入ってから長らく店頭にない状況が続いているし、パートタイマーの人手不足などもささやかれているところではあるのだが、こと住宅街に根を張っているお店は、こういう状況でも(むしろ昼間人口が増えた状況だからこそ)思いのほか賑わっていたりするわけで、そこに飛びつかない手はないだろうと思うところ。

そして、”巣ごもり”の関係では、インターネット通販系、宅配系のサービス事業者への注文も軒並み伸びていて、そうなれば配送事業者にもお金は落ちる。

日本の場合、未だに「製造業中心」で経済なり産業なりが捉えられることが多いから、今回のように中国が打撃を受けたり、全世界に影響が波及するような出来事が起きると、「グローバルサプライチェーンがぁ・・・」と、悲観的になる傾向も強いのだが、サービス事業者の場合、BtoB、BtoC問わず、商流自体は国内で完結している会社が大半を占めるのが実情だったりするわけだから*11、自分たちのビジネスの仕組みが回り続ける限り、今回の件が多少長期化しても、顕著な影響なく乗り切れる会社はそれなりにあると思っている*12

なので、悪しき悲観論に惑わされることなく、淡々と投資を積み重ねていけば、いずれそれで一財産築ける。今はそんな状況だと思っているところである。

それでも起きてしまう悲劇

以上、本日もひたすらポジティブ思考で綴ってきたのであるが、こういう状況だと、やはりどこかで悲劇は生まれてしまう。

その一つが、㈱FHTホールディングスという会社から本日開示された「第 26 期定時株主総会及び継続会の開催に関するお知らせ 」というリリース*13

「継続会」というキーワードを見ただけで背筋が凍り付いた総会担当者の方もいらっしゃるだろうが、この会社の場合、

新型コロナウイルス感染症による肺炎の予防及び抑制を目的とした中国の省政府や市政府の通達に従うことによる影響により、当社の連結会計処理に係る作業の遅延が継続しており、改善の目途が立っておりません。新型コロナウイルス感染者が発生した居住区では、その居住区が封鎖される措置により、当社中国子会社の従業員等も当該措置により在宅勤務を余儀なくしておる者が多く、中国における当社の子会社及び決算関連手続に係る関係者につきまして、実質稼働することが困難な状況が続いており、現時点において、決算関連手続が完了しておりません。 」(強調筆者)

と、12月期の決算短信すら未だに出せていない状態・・・。

結果として、

「当社は本総会において、第 26 期報告事項をご報告することを断念せざるを得ないものと判断いたしました。」

という苦渋の選択を強いられることとなり、定時株主総会本番を前にして、日程こそ決まっていないものの「継続会」の開催を予告。

「これに伴い、当社は会計監査人の監査報告の受領など所要の手続を完了次第、速やかに本総会の継続会(以下、「本継続会」といいます。)を開催し、本継続会で第 26 期報告事項をご報告するとともに、本継続会の日時及び場所の決定を取締役会にご一任願うこと(以下、「本提案」といいます。)に関しまして、本総会において株主の皆様にお諮りする予定でございます。本総会において、本提案をご承認いただきましたら、当社は本継続会の開催ご通知を株主の皆様に別途ご送付し、本継続会を開催させていただく所存でございます。」

さらに、

本継続会は本総会の一部となりますので、本継続会にご出席いただける株主様は、本総会において議決権を行使できる株主様と同一となります。」

という、非常時オペレーションの解説の中でよく取り上げられる話で、最後はまとめられている。

最近は、監査法人が厳しくなっていることもあり、不正な会計処理が発覚して第三者委員会の調査に時間がかかる、といった理由で、継続会前提の総会開催を余儀なくされる会社は毎年数件出てきているし、それゆえに本件もやっていること自体はそこまで極端にレア、ということではないのだが、如何せん、そういった対応を取らねばならない理由が理由だけに、何とも気の毒だな、ということで取り上げさせていただいた次第である。

そして、こういう事例に接すると、ビジネスを遂行させ続けることだけがBCPの目的ではない、ということも、改めて感じさせられるわけで、もって他山の石とせよ、だな、と思えてならない。

*1:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/kinkyutaiou2_corona.pdf

*2:前にも書いたかもしれないが、こういう状況で「誰かにリーダーシップを発揮してもらいたい!」といって騒いでも、物事が良い方向に向かうはずはないし、「お上が基準を決めてくれ!」などと言っていると、それこそ世の中の破滅を招くことにもなりかねないので、まずは各人がそれぞれ自分の頭で考えて、動き方を決めて、できることからやりましょう、自分+一人でも多くの人にとってプラスになることをやりましょう、というのが、こういう時の行動の鉄則だと思っている。

*3:日本では公表されている感染者数こそまだ500人台に留まっているが、自分が抱えている様々なコミュニティの中で1つ、2つはあわや濃厚接触でひやりとする人が出てくるくらいの状況になってきているわけで、「実はあなた、もう陽性です!」と言われても全く意外感はないくらいの状態にはなっしまっている。もちろん、症状が出なければよい、重篤化して死に至らなければよい、という割り切りも一つの考え方(極めて日本的な発想だし、その背景にあるのが「顕在化しないリスクには目を瞑りがちだけど、ひとたび顕在化すると、過剰なまでに反応する」というコンプライアンスの世界にも共通する話であることを考えると、決して良い傾向とは言えないと思うところではあるが)だから、日本がその路線で行くのであれば、それはそれで一つの選択肢だとは思うのだけど、結果的に特効薬が世に出るまでは「おそるおそる新型コロナウイルスと共存する社会」のままになりそうな気もする。

*4:今日のCOVID-19あれこれ~2020年3月6日版 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~

*5:今日、業績下方修正が出た会社としてはマクセルホールディングス㈱(営業赤字、無配転落)(https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200310476836.pdf)、㈱京都ホテル(経常赤字転落)(https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200310476950.pdf)、㈱MORESCO(売上高14億円下方修正、中計予想も下方修正)(https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200309476561.pdf)など。

*6:ここに限らず、飲食事業の会社はさすがにどこも厳しいだろうと思う。唯一、カフェ系がリモートワーク特需で巻き返してくれるようだと、希望が持てるところだが・・・。

*7:https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200309476465.pdf

*8:https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200310476790.pdf

*9:https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200310476760.pdf

*10:https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200310476803.pdf。なお「マスク」に関しては、興研㈱からも「影響」開示があり、1-3月期で20%の増収、という明るい見通しが示されている(https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200310477018.pdf)。

*11:もちろん、ファイナンス面ではグローバル市場の影響を受けないわけにはいかない、というのがあるし、有力な取引相手が製造業だったりすると間接的な影響は当然出てくるわけだが・・・。

*12:もちろん、インバウンド頼みだった高額消費財の小売事業者がキツイのは間違いないし、旅客輸送事業者とかトラベル・観光系の事業者は、リカバリーするのに年内いっぱい、あるいはそれ以上の歳月を要する可能性は高いのだけれど、そういったところを除いていけば、それなりに投資妙味のある事業者は多々存在する。

*13:https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200310476955.pdf

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