劇的な回復とその先にあるもの。

前々から予想された通り、世の中、新型コロナか五輪か、という感じで、メディアはこの2つの話題一色(二色?)・・・という感じになってしまっているが、そんな中ひっそりと、だがよく見ると凄いことになっているのが、4-6月期の決算発表である。

この一週間の間に決算発表を行った約500社の上場企業のうち、実に約300社が前年比2ケタ増収&増益&最終黒字確保

1年前が初めての緊急事態宣言下でひどかったんだから当たり前じゃないか、という突っ込みはありそうだが、多くの会社では前年決算のマイナス以上にプラスの数字が大きくなる、それも”倍返し”くらいのスケールでリバウンド、という状況になっている*1

何といっても、前年は散々な状況だった自動車業界の復調が大きくて、それにつられて業界周りの部品、素材メーカーの業績も急回復。

元々空前の好況だった半導体、電子部品関係は引き続き好調をキープしているし、工作機械系のメーカーも前年並みくらいには戻してくる。そして、円安基調の為替の追い風も受けて気が付けば6割くらいの会社は大幅な増収増益・・・というめでたい状況である*2

冷静に考えれば、新型コロナの直撃を受けた2020年だけでなく、2019年も日本の製造業にとっては決して良い年ではなかったから、2018年との比較で見ないと意味がない、という指摘はあり得るだろう。ついでに言えば自動車などは年明けから半導体供給不足もあって、本来なら1-3月期に計上されるべき売上が”期ズレ”で4-6月期に回ってきている、という事情もあるだろうから、この”瞬間風速”だけでは実態を適切に反映しているとはいえない、という指摘もあるかもしれない。

とはいえ、日本国内では2度も緊急事態宣言が出されていたこの3か月の間に企業業績がこれだけのパフォーマンスを示せたということは、強めの感染拡大防止策を打ちだそうとするたびに、根拠不明の「経済がーーー」という主張を繰り返す層に突き付けるエビデンスとしては十分に過ぎるように思われるし、逆に言えば、製造ラインさえ止めなければ何とかやっていけるのが今の日本の産業構造だ、ということも改めて証明されてしまったわけで、昨年とは逆転した比率の下で明暗状況がさらにくっきりと浮かび上がりつつある中、依然として「暗」にとどまっている産業からいかに効率的にリソースをシフトさせられるか、がこれからの日本の”再起動”にとっては大事なのではないかと思うところである*3


ちなみに、これだけ好業績の決算が続いても、株価の方は連日急落が続いて月の終値は、年初の最安値に迫るところまで下がってきた。

それもそのはず、市場の方は製造業の業績回復などとうにお見通しなのであって、決算発表とともに業績をさらに上方修正&増配くらいのインパクトがあればともかく、単に「2ケタ増収で売上が戻りました」というだけでは反応しようもない。

そして、昨年後半からずっとくすぶっている世界各国でのインフレ懸念と、それに起因する米国の緩和政策転換への懸念は、いよいよ現実のものになりつつあって、「企業の業績が回復して良かった良かった・・・」と浮かれていると、年末くらいには株式市場大崩れのリスクにも直面しかねないような気がしている。

今月初めから始まった来年4月の「新市場区分移行」を見据えた各社のリリースは、この決算発表シーズンになっても依然として続いており、特に今週くらいからは「プライム適合」の通知を受けて取締役会決議まで取りました!系のリリースも増加しているのだが*4、多くの会社で現時点で「合否」の明暗を分けている「流通時価総額」の判定の元になっているのは、数か月前、期待値込みで上昇中だった相場を反映した「(瞬間風速的)株価」でしかない、ということは、頭の片隅に入れておく方が良い気がするわけで、個人的には今ドヤ顔で「当然プライムへ」的なリリースを出している会社より、「判定は不合格でしたが、これから移行に向けて頑張ります!」というリリースを出している会社*5の方が、投資先としては遥かに信頼度は高いな・・・と思わずにはいられない*6

さらに言えば、株価が上がろうが下がろうが、どこの市場に区分されようが、事業を営んでいる以上は、従業員がいて、取引先がいて、そして名もなき個人株主たちも多数いるわけだから、この先に予想される激しいアップダウンをもしのげるだけの地に足の着いた経営が今は大事なわけで、最終的にはそういう会社が報われるような「新市場」になることを、切に願う次第である。

*1:簡単な算数の話で言えば、前年減った売り上げが元の数字に戻るだけで「率」としては前年の減少率を上回る・・・とはいえ、それ以上のリバウンドを見せている会社が目立っているのが今回の決算の特徴でもある。

*2:スーパー、ドラッグストア系はさすがに前年の特需は剥落したものの、依然として足元は底堅い。また、本格的な決算発表はこれからだが、デジタルソリューション系企業の勢いも未だ衰えていない、という状況だから、今、喫緊で対策を講じるべき業種というのは、かなり絞り込まれてきたように思う。

*3:この一年の「コスト削減」策でどの会社もそれ以前に比べると利益率が格段に上がっているように見受けられるが、その背景には「削減」された何かがあるわけで、需要が失われた特定の産業セクターにフォーカスしてピンポイントで措置を講じる、というのは当然あり得ることだろう。そして、そこでは「支援」という選択肢もあり得る一方で、社会全体のコストをより低減するために、「退場」「再編」を促すという選択肢も考えられなければならないと思っている。少なくとも今年「Go To」のような愚策を繰り返すことはあってはならないことである。

*4:30日までにプライム市場への移行に関して適時開示を出している会社は、こちらで確認した限り270社弱程度。これ以外にも決算説明会資料等の中で判定結果を公表している会社等は少なからずあると思われる。

*5:プライムとスタンダードを合わせて、これまでに確認した限りで20社弱はあった。

*6:もちろん、リリースを出して何もしていなければ結局はダメな会社、ということになるのだが、新株発行等で流通株式比率増加をもくろむのであれば、このタイミングを逃すべきではないと思うだけに・・・。

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