「過ちては改むるに憚ること勿れ」とは言うが・・・。

昨年秋、政権が変わって以降、政府筋が大胆な政策変更をするケースを見かけることが多くなったな、という印象がある。

良く言えば「柔軟」ということになるのだが、一方で、政策に背骨がない、”大きな声”に振り回されているだけ、という見方も当然出てきても不思議ではない。

そして、そういった事例がここにきてまた一つ追加されたような気がする。

経済産業省国土交通省は18日、洋上風力発電の事業者を公募で選ぶ際の評価基準を見直すと発表した。これまでは発電コストの安さを重視していたが、運転開始時期の早さへの評価も高める方向で検討に入る再生可能エネルギーの導入を急ぎエネルギーの自給率を高める。サプライチェーン(供給網)の早期構築にもつなげるという。」(日本経済新聞2022年3月19日付朝刊・第5面、強調筆者、以下同じ。)

この大規模洋上風力発電プロジェクトの入札評価基準に関しては、このブログでも2か月前にエントリーを上げたばかりだった。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

昨年末、地元対策も含めてかなり前から綿密に準備していた有力候補を差し置いて、「供給価格」の圧倒的な優位性ゆえに、公募にかかっていた全海域を三菱商事連合が総取りしてしまったことへの驚きは、年が明けてからは一気に批判の声に変わり、いずれ何らかの形で見直していかないといけなくなるだろうな・・・と思っていた矢先に、既に昨年末に公表され、来る本年6月の受付期限に向けて各事業者とも入札準備のラストスパートに入っていたであろう「秋田県八峰町及び能代市沖」の公募占用指針を「改訂」。公募手続を一時ペンディングした上で評価基準を見直す、という今回の発表は、当局が手続きの無謬性を強調することも多いこの種の手続きにおいては、実に驚くべきことだと言える。

興味深いのは、経済産業省国土交通省が連名で発表した2022年3月18日付のリリース文の書きぶり。

「今般のウクライナ情勢を踏まえ、エネルギー安全保障の面でも重要な脱炭素の国産エネルギー源として、再生可能エネルギーの導入を更に加速することが急務となっています。特に洋上風力発電については、2021年12月24日に公表された再エネ海域利用法に基づく公募結果により、実際に太陽光等と競争可能なコストの大規模電源であることが明らかになりました。」
「このように、エネルギー政策上、洋上風力発電の早期稼働を促す観点から、現在公募している「秋田県八峰町及び能代市沖」について早期稼働を促す公募内容とするべく、公募の実施スケジュールを見直し、今夏以降に新たに指定する促進区域と併せて、公募を実施することとしました。」(強調筆者)
再エネ海域利用法に基づく「秋田県八峰町及び能代市沖」における洋上風力発電事業者の公募を見直します (METI/経済産業省)

これだけ読めば、昨年末の公募結果で極めて低い「供給価格」を提示した事業者が落札したことへの問題意識は全く示されておらず*1、むしろ、「低価格」であることを前提にさらに「早期稼働を!」と事業者にプレッシャーをかけるような方向性を志向するもの、のようにすら思えてしまう。

ただ一方で、日経紙が今回の記事でも書いているような、

「公募を巡っては21年12月に秋田県沖と千葉県沖の3海域の事業者選定で三菱商事を中心とする企業連合が総取りした結果に対し、一部で不満の声が上がっていた。」
三菱商事側は1キロワット時あたりの価格を11.99~16.49円と設定した。普及が進んだ太陽光発電と競争できるほどの異例の安さが決め手となった。競合企業や国会議員などから「本当にできるのか」「国内の産業育成につながるのか」といった疑問が寄せられていた。」
「3海域の公募審査は240点を満点とし、半分の120点が価格への評価として配点された。運転開始時期の要素は20点の配点の一部にとどまる。運転開始を遅くするほど、電力価格を下げる余地も広がる自民党の再生エネ普及拡大議員連盟柴山昌彦会長)は早期運転への評価が不十分なことを問題視し、経産省に改善を求めていた。」
経産省内部でも「特定の企業連合だけに任せるのはエネルギー安全保障上の懸念になりうる」(幹部)との指摘があった。」
(前記日本経済新聞記事)

といった要素が今回の「手続中断」の背景にあるのも間違いないはずで、そうでなければ、「早期稼働」のために、既に始まっていた手続きの選定結果発表のスケジュールを遅らせる*2というチグハグな対応を正当化できるはずもない。

実際には入札の制度設計思想を激変させるような変更になる可能性が高く、しかもその発端は自ら行った最初の選定結果にあるにもかかわらず、あたかもウクライナ情勢」という外的要因で説明しようとするあたりは、依然として無謬性志向が強いんだなぁ・・・と変に感心してしまうところもあったりするのだが、それでもこれだけ迅速に見直しの動きを見せたこと自体が、大きな変化であり、進歩であることは間違いない。

「過ちては改むるに憚ること勿れ」とはよくいったもの。

今回の変更ではもっぱらスケジュールを「未定」とする以上には手が付けられておらず*3、従来の評価基準についてはそのまま残された状態で今世に出ているのだが、次のタイミングでそういった箇所も含めてガラリと変わってくるようなら、日本の公共的なインフラプロジェクトの世界での大きな歴史的転換点にもなり得るのではないか、とすら自分は思っている*4

ただ、一つだけ残念なことがあるとすれば、ここからいかに評価基準、審査基準を変えたところで、昨年12月に公表された先行3海域の選定結果が覆る、ということは決してない、ということ。そして、直近で入札審査が予定されていた案件と、昨年末に結果が公表された案件とで入札への参加を目指す主体がイコールではないことを考えると、何ともやりきれない気持ちになるわけで・・・。

願わくば、この「仕切り直し」が昨年涙を呑んだ事業者たちにリベンジの機会を与えるものになることを、そして、結果的にバランスの良い事業者の選定がなされた結果、昨年末に選定結果が公表された海域よりもこれから公募される海域の方で、先に洋上風力発電を開始できるようなことになったならそれは実に痛快な話だなぁ・・・などということを思いつつ、これからの行く末を見守りたい、と思っているところである。

*1:入札条件を設定する側でありながら「公募結果により・・・明らかになりました」と書くのは個人的にはいかがなものか、という気もするが・・・。

*2:当初の指針では本年12月頃に発表、とされていたが、今回の見直しにより2022年中を目処に公募占用指針の再変更によりスケジュールを再設定する」(前記経産省国交省リリース)ことになるから、早くても1年程度は選定結果発表が後ろ倒しになる可能性がある。

*3:新旧対照についてはhttps://www.mlit.go.jp/kowan/content/001471043.pdf参照。

*4:できれば、「クリーンな基準の下で審査しているように見せて、実際には裁量点でかなり政策的な調整を加える」欧州や賢い他のアジアの国々を見習って、当局側がもう少ししたたかに入札審査を行えるようになれば、日本も一歩前に進めるのかもしれない。

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