今月、日経紙で「私の履歴書」を書かれていたのは、マンガ家の里中満智子氏だった。
自分にとって、これまでは、里中氏の書かれた漫画それ自体の印象よりも、「里中氏がマンガ家を代表して文化審議会著作権分科会の委員として活躍されていた」ということの印象の方がずっと強かったりもしたのだが、今回の連載の中で描かれた里中氏のマンガ家としての半生、既に亡くなられたレジェンドな先輩漫画家の回顧談や、様々な葛藤を抱えながらジャンルを広げて活動されてきたくだりなどに接し、いろいろと感じ入るところも多かった。
穏やかに、柔らかい表現で淡々と書かれていく話の中でも、時代を、世代を、そして漫画界を引っ張るお立場として、数々のプレッシャーを乗り越えてきたのであろう強さを十分感じ取らせていただくことができたし、単なる「業界の第一人者」というポジションを超えて様々な分野で活動されたご経験が、話の視野をぐっと広げ、毎回読み応えのある中身へと昇華させていた。
そんな中、今月のシリーズの完結も見えてきたタイミングでほぼ1回分を丸々割いて書かれた内容が、これまた実に素晴らしくて・・・
少年誌と少女誌の間の不公平な「印税」から、原稿料引き上げのエピソードまで、ご自身の経験を一通り語ったうえで、
「マンガ家は作品を生み出すことだけに集中できれば幸せだ。だからややこしい契約書など読みたくもないという人も多い。現代は、私の若い頃よりもさらに難しい時代だ。紙の本だけでなく電子書籍もある。デビューのきっかけも、出版社の新人賞だけではない。ネット上で個人で作品を発表することもできる。そうした作品が注目されて、後で出版社から紙の本が出るケースも多い。アニメ化や関連グッズの絡んだ契約になることもある。複雑な契約を、キャリアの浅い若いマンガ家が一人で行うのは大変なことだ。」(日本経済新聞2022年5月30日付朝刊・第40面)
と、「契約」の重要性を説かれているところはさすがだし、何より以下の最後の言葉がとにかく印象に残った。
「とにかく後輩たちが安心して創作だけに専念できるように動くのが、この世界で長く生きてきた私たちの使命だと思う。」(同上)
おそらくそうは言ったって、将来的には創作活動より業界を代表しての活動に軸足をおかざるを得なくなる人は必ず出てきてしまうだろうが、それもまた良い経験になり得る、ということは、この1か月の連載が教えてくれたことでもあるわけで・・・。
コンテンツを生み出す方々にも、それを支える方々にも、この渾身の思いが少しでも多くの方々に届き、そしてその思いが次代に受け継がれていくことを今はただただ願うのみである。