いつの時代にも「迷ったら父の名で」という種牡馬はいる。
産駒がデビューし始めた頃のサンデーサイレンスなどはまさにそんな感じだったし、2010年代はキングカメハメハに随分と助けられた。
勢いが付きすぎると、そのうち大レースはことごとく「強い種牡馬」の子供たちで埋め尽くされてしまうことになるから、人気的な妙味は失われるし、買う方も飽きる。だから、こういうのは”出初め”のうちにいかに見抜くか、ということに尽きるのだが、その意味で今一番”旬”なものと言えば「キタサンブラック産駒」だろう、と自分は思っている。
その背景にあるのが、昨年の年度代表馬・イクイノックスの活躍のインパクトであるのは間違いないのだが、それでも昨年のうちは、かの馬が春のクラシックで未完成さを露呈していた姿を眺めて「父馬と同じく晩成型だなぁ」と思っていたりもしたものだった。
だが、今年になり、春のクラシック1冠目から既に昨年以上の「地殻変動」の兆しが見えている。
桜花賞、最後はリバティアイランドの鬼脚に敗れ去ったものの、先行してあわや、の伸びを見せたコナコースト。
そして、皐月賞、前週とは異なり前日までの激しい雨の影響が残る重馬場で、前週の再現のような大外一気で直線16頭をごぼう抜きしたソールオリエンスの走りを見た時に、自分は2023年が名実ともに「父・キタサンブラック」の年になることを確信した。
先行してもバテるどころか、そのまま気持ちよくゴールまで走り切ってしまうスタミナや、重馬場でも動じない逞しさは、最盛期の父の姿を見ていれば「遺伝だなぁ」と思うところではあるのだが、それが後方からの「切れ味」にも転化するのがこの血統の凄いところ。
重馬場には強いはずのサトノクラウン産駒(タスティエーラ)やハービンジャー産駒(ファントムシーフ)をもってしても止めようがなかったこの末脚は、さらに進化することはあっても当面衰えることはないだろう。だとしたら少なくとも「二冠」は堅い・・・。
昨年の2歳馬リーディングでは17位、今年のリーディングでも未だ7位にとどまっている、というあたりにこの父親の「晩成」色は依然現れていると言えるのかもしれないし、そもそも供用当初の期待度がそこまで高くなかったことの裏返しなのかもしれないが、この調子で大一番での強さを見せ続ければ、いずれこの父の名が大レースの馬柱を埋め尽くす時代が来ることは想像に難くない。
いつだって”旬”は短いこの世界。
個人的にはサンデーの再来かも?と思っているブリックスアンドモルタルの産駒*1が今夏デビューした途端に再び時代は変わり始めるのかもしれないが、まずはこの足元の快進撃がどこまで続くのか。
「もう一回」めぐってくる今年の春のクラシックの行方とともに、ささやかに予想してみることにしたい。