繰り返される愚挙には何度でも警鐘を。

またか・・・と思わされたニュース。

「大手総合商社「双日」の社員が同業他社から転職する際に営業秘密を不正に持ち出した疑いがあることが25日、捜査関係者への取材で分かった。警視庁は同日までに東京都千代田区にある双日の本社などを不正競争防止法違反の疑いで家宅捜索し、全容解明に乗り出した。
「捜査関係者によると、双日に勤務する30代男性社員が昨年夏、別の総合商社から転職した際に同社の営業秘密を不正に持ち出した疑いがある。警視庁は男性社員が転職前に在籍していた総合商社から相談を受け、捜査を進めていた。
「警視庁は双日本社のほか、男性社員の自宅などを捜索した。同庁は今後、押収した資料を分析するなどして詳しい経緯を調べる。」
日本経済新聞2023年4月26日付朝刊・第39面、強調筆者、以下同じ。)

つい半年ほど前にも、自分は企業間の転職者を介在した営業秘密の取得・開示、といった問題に、刑事司法権力が過度に介入することを憂うエントリーを書いた*1

その事件の刑事公判が淡々と進んでいる中、今度は「総合商社間の転職」という背景の下で再び同じような思いを抱くことになろうとは・・・。

さすがに被疑会社が名門商社であることに配慮したのか、本件はいきなり当事者逮捕、という登場の仕方はしていないし、強制捜査ですらリアルタイムでは報じられていない。

だが、既に警視庁が動いていて、おそらくは民事より先に「刑事」の世界で不正競争防止法違反の成否が検討される、という状況には何ら変わりないわけで、この種の紛争の解決策としてはまさに下の下、である。

これまでのエントリーの中でも何度となく書いてきたことだが、不正競争防止法上の「営業秘密」に関する要件は基本的に抽象的で、事案に応じていかようにでも判断できるような「解釈の幅」があるものとなっている。

当事者ががっぷり四つで主張しあい最終的には裁判官の判断に解決が委ねられる民事事件であれば、それくらいのフレキシブルさはあってもよいと思うが、これが刑事事件となると話は全く別なわけで、かくして、知財に通じたものであればあるほど、裁判所の判断に首をかしげたくなることが多い、という現実もある。

それでもなお、この種の事案で警察が率先して動く機会が増えている、というのは、どうにもこうにもセンスがないなぁ・・・と思わざるを得ない。

この事件もまた、捜査当局が練り上げたシナリオどおりの進行になっていくのか、それとも愛知製鋼事件*2のようにストーリーに乗っかりすぎることによる弊害を重くみるのか・・・

現時点で外部からそこまでの見通しを立てることは極めて難く、遠巻きに眺めることしかできない話ではあるのだが、たとえ結果論ではあっても、本件が当事者双方にとって話が少しでも未来にとっての前向きな材料になることを今は願うばかりである。

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