「ほっかほっか亭」騒動

夫婦喧嘩とフランチャイズ紛争は犬も食わない、というが、端で見ている分にはいろいろと興味深いもので、先月あたりからいろいろと報道されていた、株式会社プレナスと株式会社ほっかほっか亭総本部との泥仕合もついにクライマックスに向かいつつある。


こういう争いごとは、新聞等で報じられている記事を引用するより、一次資料に直接当たったほうが見えてくるものも多いから、今回もその手を使ってみることにしたい。

当事者の主張〜第1ラウンド

昨年夏頃からいろいろと問題はくすぶっていたようであるが、今回の騒動の本格的な火蓋を切ったのは、株式会社プレナス側。

平成20年2月6日 株式会社プレナス
フランチャイズ契約解約に関するお知らせ」
http://www.plenus.co.jp/new/index.php?action=pdf&id=92

「平成20年1月15日付「フランチャイズ契約解約に係る取締役会決議に関するお知らせ」にて開示しております表題の件につき、当社は、?ほっかほっか亭総本部に対しまして、同社との間で締結している「ほっかほっか亭」地域本部・地区本部契約の全てについて解約する旨の解約通知書を本日付で発送いたしましたので、下記のとおりお知らせいたします。」

との簡略な記載で始まるこの資料では、

「解約通知を発送するに至った経緯」

を説明した上で、プレナスが取り仕切っている、「九州全域、北海道地区、宮城地区、山形地区、福島地区、栃木地区、埼玉・群馬地区、神奈川・千葉地区、東京地区、新潟地区、山梨地区、長野地区、静岡地区」の各エリアについて、

「当社は、?ほっかほっか亭総本部に対し、当社が同社との間で締結している「ほっかほっか亭」地域本部・地区本部契約の全てについて、解約通知到達の3 ヶ月以後にあたる平成20年5月14 日をもって解約する旨の解約通知書を本日発送するに至りました。」

と告げている。


これにすかさず反応したのが、総本部側。

平成20年2月6日 株式会社ほっかほっか亭総本部
「株式会社プレナスよりのフランチャイズ契約解約通知に関して」
http://hokka2.co.jp/hokka/20080206220717.pdf

総本部は、プレナスのリリースでは詳しく書かれていない「紛争の背景」として、「プレナスが平成16年7月に「ほっかほっか亭」等の商標出願を行ったこと」、「契約更新の覚書の作成を拒否したこと」、「許可なく新規デザインの店舗を出店したり、全国本部長会議に常時欠席するようになったこと」、そして、

「平成18年12月19日に(プレナスが)当社に対して商標権に基づく9519万円の損害賠償請求訴訟を提起するに至った」

ことを説明する。


さらに、上記商標権侵害訴訟の和解協議の過程で、総本部側がプレナスに示した条件と、それに対するプレナス側の不可解な対応を批判した上で、

ほっかほっか亭全国チェーンを離脱した直営店及び加盟店に1年間の競業避止義務があること、並びに既に契約期間満了後の地区においては、即時に「ほっかほっか亭」等の看板を下ろすべきことについて、プレナス等に対して法的な措置を検討する。

と主張し、さらにプレナス傘下の各加盟店がプレナスの契約解約後、「総本部と直接の契約関係に入る」ということを強調して、動揺しないよう呼びかけている。

当事者の主張〜第2ラウンド

だが、ここまでの思い切った仕掛けに出た以上、プレナス側とてそう簡単に引き下がるはずがない。

平成20年2月7日 株式会社プレナス
「株式会社ほっかほっか亭総本部の公表について」
http://www.plenus.co.jp/new/index.php?action=pdf&id=93

では、既に発表済(1月15日付)*1のプレスリリースで説明していた事実経緯*2を引きつつ、ほっかほっか亭の6日付プレスリリースに対して以下のような反撃を試みている。

「なお、問題のある記載の一例として、上記書面中において(株)ほっかほっか亭総本部は「ほっかほっか亭全国チェーンを離脱した直営店及び加盟店に1年間の競業避止義務がある」と主張しています。しかし、当社の直営店及び加盟店と(株)ほっかほっか亭総本部との間に、契約終了後の競業避止義務は存在しておりません。このように(株)ほっかほっか亭総本部は契約の内容と明らかに異なる主張を行うことにより、当社の信用を著しく毀損しようとしています。当社としては同社の真意を図りかねるとともに、同社に対して、一刻も早く自らこの点について社会に誤解を与える表現を行ったことを訂正するよう求めていきます。」

「また、上記書面中には、「((株)ほっかほっか亭総本部が)プレナス等に対して法的な措置を検討することとなります」(下線部は当社が加筆)とあります。当社としては不当な要求に対しては断固として争っていく所存でありますが、併せて、当社以外の第三者、すなわち、フランチャイズの加盟店に対して(株)ほっかほっか亭総本部が何らかの裁判手続の提起を行うなどの良識を欠いた行動を取らないよう、今後も強く同社に申し入れていくとともに、同社の行為によって、当社とともに新ブランドによるフランチャイズ立ち上げに賛同していただいている多数の加盟店にご迷惑が及ぶことのないよう全力を尽くす所存です。」


一方、総本部側は、

平成20年2月12日
「株式会社プレナスに対する仮処分申立について」
http://hokka2.co.jp/hokka/20080212.pdf

において、プレナスに対する営業禁止等を求める仮処分申立を行ったことを明らかにするとともに、プレナスの7日付リリースに対する以下のような反論を行った。

(1)プレナス側は契約解約通知を送付してきたが、プレナスとの間の契約には中途解約ができる旨の条項は存在せず、プレナスは契約期間が満了するまで、契約に基づいて類似営業禁止の制約を受けることになる。
(2)総本部と「各加盟店」との契約書には、「本契約終了後1年間」競業を禁止する条項が盛り込まれており、その期間内に加盟店が持ち帰り弁当事業を行うことは許されない。


かくして、両者の対決は法廷の場に持ち込まれることになったのである。

事件の筋読み

プレナス側が提起した商標権侵害訴訟に関する和解協議は既に打ち切られたようだから、今後、総本部側が提起した仮処分に関する決定と、プレナスが提訴した訴訟の判決が相次いで出ることになると思われる。


このうち、仮処分に関しては、プレスリリース等に顕れている事実に拠る限り、具体的な条項(特に競業避止条項)を挙げて反論している総本部側の方に分がありそうであり*3プレナスに付いていこうとする加盟店にとっては少し痛い話になりそうな気配。


一方、プレナスが提起した訴訟の方は、プレナス自身が4件の商標権者となっているものの*4、古い2件については最初の出元が「ほっかほっか亭」そのものであるように思われるし(当時の公告等による)、後の2件については、そもそも登録の有効性自体が争われても不思議ではないから、結局のところ原告側が総本部を相手取って完全な勝利を望むのは、難しい状況だといえる*5


したがって、現時点では、この先連敗が予想される株式会社プレナスの先行きが憂慮されるところなのであるが、プレスリリース一つとってもよく練りこまれている会社が「リーガルリスク」への配慮なくして今回の決断に踏み切ったとも考えにくいから、プレナス側としても、どこかに勝算を見出しているに違いない。



いかに華やかな応酬が繰り広げられても、最後は契約書の細かい文言解釈に決着が委ねられてしまうのがこの種の紛争の常であり、それゆえ、判決によって契約書の内容が明らかにされるまで、外部から戦いの帰趨を見定めるのは難しいところ。


久しぶりに日の目を見た“フランチャイズ系大型訴訟”だけに、安易に決着が図られてしまうと面白くないなぁ・・・と思いつつ、学生時代から散々お世話になっている「ホカ弁」のブランドがボロボロになってしまう姿もあまり見たくはない。


今後も引き続き注目されていくであろうこの一件が、フランチャイズ契約の解釈事例に新たな一頁を刻み込むのか?


いろんな意味で、学ぶべきことの多い事案だと思う。

*1:http://www.plenus.co.jp/new/index.php?action=pdf&id=88

*2:フランチャイズの離脱を決めた原因として、(1)株式会社ハークスレイが総本部の筆頭株主となって以降、チェーンの運営姿勢が変わってしまったこと、(2)プレナス自身が「何ら合理的理由がないにもかかわらず」静岡地区ほか5地区の地区本部契約の更新拒絶通知を受けていること、などを挙げている。

*3:継続的契約なので、解約条項がなくても中途解約が認められる余地はあると思われるが、競業避止義務に関しては、「1年」程度の期間であればその効力を完全に否定することは難しい。

*4:第1559683号、第1721366号、第4845424号、第5004808号。

*5:総本部とプレナスの関係を考えると、プレナス側に商標の無償使用許諾意思があったとされても不思議ではないところだし、最悪の場合、プレナス保有商標の有効性(特に新しい2件)が否定されることも考えられる。

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