これがビジネスモデル転換の第一歩になることを願って。

ここ数年、様々な観点から批判に晒されているコンビニ業界のフランチャイズ契約モデルだが、遂にここまで来たか・・・という感のある記事が、今朝の日経紙1面に掲載された。

公正取引委員会は2日、コンビニエンスストア本部がフランチャイズチェーン(略)加盟店に24時間営業などを強制すれば独占禁止法違反になりうるとの見解を示したFC店に対する本部の優越的地位の乱用をけん制する姿勢を明確に打ち出した。人手不足と人口減少に伴う市場縮小で、コンビニの成長を支えてきた日本のFC経営モデルが転換期を迎えている。」(日本経済新聞2020年9月3日付朝刊・第1面、強調筆者)

「値引き販売」の不当制限をめぐって公正取引委員会がセブンーイレブン・ジャパンに排除措置命令を出したのは、今から10年以上も前のことになる。

当時、いやそれ以前から、FC加盟店を運営する一部のオーナーたちの悲痛な声がメディアに登場することは多かったし、「独立した事業者間の契約に基づく取引」という枠組みに守られて一種”聖域化”していたフランチャイズモデルの世界に公取委が”介入”したこの一件は、極めて画期的なトピック、として取り上げられることも多かった。

だが、その後も、強力な本部と加盟店、という構図が大きく変わることはなかったし、国内の景気低迷、消費も落ち込む中、トータルで見ればなお驚異的な成長をし続けていたコンビニ業界において、FC契約の構造にいちゃもんを付けること自体、依然としてタブー視されていたようなところはあった。

それが、過当競争による急激なブレーキ、さらに慢性的な「人手不足」という問題も相まって、懐疑的なムードが一気に強まったのはここ数年のこと。

そして、2020年9月2日付で公表され、冒頭の記事のベースともなったコンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書」*1は、現代におけるコンビニ業界のフランチャイズ契約モデルの問題点を残酷なまでにあぶり出している。

この報告書の随所に出てくる独禁法上の評価、競争政策上の評価については、既に長澤哲也弁護士がnoteで極めて明瞭な記事を書かれており、それを読めば、この報告書の意味付けや、今の公取委のスタンスも十分に理解することができると思うので、自分がこれ以上深入りするつもりはない。

note.com

それよりも自分が驚かされたのは、”役所の報告書”らしからぬこの報告書の粋なデザインの表紙とレイアウト、Webアンケートを駆使したFC加盟店オーナーたちの生々しい声、そして、市場の現状分析から、最近の様々な出店戦略、商品戦略まで、この業界への競争政策の適用を議論する上では欠かせない様々な情報が網羅された約240ページにもわたるこの報告書のボリューム、といったものである。

既に平成13年、平成23年と2度にわたって調査を行っていて、当局側に十分な知見とノウハウが蓄積されている、という事情はあるにしても、これだけのバックデータを揃えた上での「見解」だからこそ、

「今回調査した8チェーンにおいては,本部と加盟店とで合意すれば時短営業への移行が認められているところ,そのような形になっているにもかかわらず,本部がその地位を利用して協議を一方的に拒絶し,加盟者に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には優越的地位の濫用に該当し得る。」(209頁、強調筆者、以下同じ)

「加盟店募集時の説明において,周辺地域への追加出店について,実際には配慮するつもりがないのに「配慮する」と説明することにより,実際のフランチャイズ・システムの内容よりも著しく優良又は有利であると誤認させ,競争者の顧客を自己と取引するように不当に誘引する場合にも,不公正な取引方法の一般指定の第8項(ぎまん的顧客誘引)に該当し得る。」
「加盟契約において加盟者にテリトリー権が設定されているにもかかわらず,本部がその地位を利用してこれを反故にし,テリトリー圏内に同一又はそれに類似した業種を営む店舗を本部が自ら又は他の加盟者に営業させることにより,加盟者に対して正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には優越的地位の濫用に該当し得る。また,加盟契約において周辺地域への出店時には本部が「配慮する」と定めた上で,加盟前の説明において,何らかの支援を行うことや一定の圏内には出店しないと約束しているにもかかわらず,本部がその地位を利用してこれを反故にし,一切の支援等を行わなかったり,一方的な出店を行ったりすることにより,加盟者に対して正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合にも優越的地位の濫用に該当し得る。」(以上211頁)

といった踏み込んだ記載も効いてくる。

自分は最近の「何かあるとすぐ公取委マターになる」という世相を決して好んではいない

ただ、こと、このコンビニの世界の話に関していえば、これまでに試みられた法の介入手法が、債権法改正の議論をしていた頃に出てきたフランチャイズ契約典型契約化論」だったり*2、コンビニオーナーを「労働者」と擬制しようとする「労働組合法適用論」だったり、と決して筋が良いとはいえないものばかりだっただけに、今回、”王道”である独占禁止法の適用可能性を公取委が示唆した、という事実は非常に大きいと思っている。

定価販売の徹底や集中出店戦略のように、業界全体の景気が良い時はそんなに問題にならなかった施策も、今年の春以降、根底にあった低迷基調に加え、一連の新型コロナの禍中で需要者をスーパーやドラッグストアに奪われる、といった事情によって深刻な利害対立を生みかねない状況になっている。

フランチャイズ契約を解除された元加盟店主が西の方で起こした訴訟も、この先どうなるか分からない。

それでもまだ世間的には、「フランチャイズ式のビジネスモデルはまだまだ健在」と高をくくっている人は多いのかもしれないが、この先より諸々シュリンクしていくであろう時代背景と、それにもかかわらず加速する人々の嗜好の更なる多様化と変化するスピードの早さを考慮するならば、このコンビニの世界においても、

「10年後は磨き抜かれた直営店しか残らない」

ということになっても全く不思議ではないと思っている。

この「令和2年9月」の時点が記された報告書が、後々「転換」に舵を切る一歩目、として歴史に名を残すことになるのか、それとも2009年の排除措置命令のような時代のあだ花に留まるのか、今の時点で完全に予測することは不可能なのだが、物心ついた頃から勃興期のコンビニと共に生活を発展させ、その強さもありがたさも十二分に分かっているつもりの世代だからこそ、これが「生き残るためにモデルが変わる第一歩」になることを願わずにはいられないのである*3

*1:https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2020/sep/kitori0902/200902_02.pdf

*2:FC契約への現行法の対応は「限界」なのか? - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~参照。

*3:世界中あちこちめぐったが、「夜中まで開いているコンビニがある国」とそうでない国とでは、生活の利便性が格段に違うし、どんなに昼間の街並みが素敵でも後者の国で長年暮らし続けることは不可能だなぁ・・・という思いも味わっているからこそ、日本のコンビニ文化は守られなければならない、と強く願う次第である。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html