仁義なき戦い〜携帯電話業界編

ついにこの業界にも悪魔の手(笑)が忍び寄ったか・・・と思わせてくれる記事が産業面の一角を飾った。

NTTドコモ富士通は17日、中高年向けの携帯電話「らくらくホン」シリーズに外観や操作性が似ているとして、ソフトバンクモバイルの機種(東芝製)の製造・販売差し止めを求める仮処分を東京地裁に申し立てた。大きなボタンや操作性の高さから「らくらくホン」は人気が高く、顧客争奪戦が知的財産権分野での争いに波及した形だ。」(日本経済新聞2008年3月18日付朝刊・第13面)

「二画面特許」で大騒ぎしていた時代や*1、権利制限規定の拡大を目指して著作権法改正に奔走していた時代などは、“チームワークの良さ”を羨ましがられた携帯業界だが、ソフトバンクモバイルの参入で“業界秩序”が乱された(笑)ことが影響したのか、こんなきな臭い紛争をおっ始めることになってしまった。


3月初旬に警告書。聞き入れられず発売したことをもって、不競法2条1項1号に基づく差止請求を発動・・・。


ドコモの永田清人執行役員は、

「(短縮ダイヤルの)三つボタンや十字キーなど総合的に見て類似性が高いと判断した」(同上)

とおっしゃられているが、あちこちで掲載されている画像*2を見る限り、ドコモの言い分には少し苦しいところもあるように思われる。


これまでの裁判例においては、商品形態に「商品等表示」性が認められるためのハードルは相当高く設定されており、一見独特の形状のように見えるものでも、それが機能的合理性を追求した結果生まれたものであれば、こと不競法2条1項1号、2号の適用場面ではネガティブな方向に働く可能性が高い。


ドコモ側が強調する「三つボタン」や「十字キー」にしても、「細かい機器操作に不慣れな中高年向け携帯電話端末」という開発目的を考えればあのような形態に行き着くのは不可避である、と判断される余地はあるように思われるから(それがどんなに労力を費やして開発されたデザインであったとしても)、少なくとも不競法では保護されない、という帰結にいたることは十分に予想されるところだろう。


また、仮に、ドコモ・富士通連合の商品に、「商品等表示」性が認められるとしても、両機種間の相違点である、「ボタンの形が丸か四角か」、「らくらくホンにあるキーの数が異なる」といった点を勘案すると、両者が非類似だと判断されても決して不思議ではない。


そうなると、いかに仮処分といえども、ドコモら申立人側の主張がそのまま通るとは考えにくい、ということになる。そして、もし仮処分が退けられた暁には、自己の信用を毀損したとして、ソフトバンクモバイル側が逆に訴訟を起こしてくることも十分に考えられるのである。


本件がメーカー主導で出てきた話なのか、それともキャリア主導で出てきた話なのかは分からないのだが、今回の“チャレンジ”が決してローリスクなものではない、ということは、関係者のみならず、見守る我々の方としても、頭の片隅にとどめておいた方が良いのではないと思う。


そして、本件仮処分の真の目的が、

ソフトバンクに対するけん制」

を図る、ということにあったのだとすれば、それはなおさらのことであろう。


将来的にこの紛争がどこまで続くのかは、神のみぞ知るというほかはないが、筆者としては、このような紛争がズルズルと長引かないように、とただただ願うのみである。

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