チアガールの肖像権

日経新聞土曜版の「弁護士さん相談です!」という決してメジャーとはいえないコーナーに、

「人物写真、無断でブログ掲載は?」

というタイトルの記事が掲載されていた。


その内容といえば、

「街角でしゃれた一般人や有名人を撮影して腕を磨いているストリート・カメラマン志望者が、撮りためた写真をインターネットの自分のブログに公開することは許されるか」
日本経済新聞土曜版2008年8月9日付第17面)

というテーマを契機として、肖像権、パブリシティ権といった概念について、簡単な解説を行っているものである(渋谷高弘編集委員執筆)。


結論としては、

「一般人を撮影する場合、個人が特定できないようにするか許可を得るのが基本で、公開方法についても了解を得ておく必要がある。特にインターネットに掲載した場合には、被害が広がりやすいので、許可を得ない限り掲載すべきではない。」
「有名人の場合でも、ブログに広告等と合わせて掲載すればパブリシティ権侵害になりうる。」

といった風にまとめられるだろう。


要領を押さえたわかりやすい解説で、まぁそうだよね・・・と思いながら拝読していたのだが、そこでふと連想したのが、今、甲子園で行われている高校野球*1の応援風景を紹介する各種メディアの報道。


新聞にしても、テレビにしても、アルプススタンドで応援している一般人の写真、映像をポンと切り取って伝えることが多いのだが、あのような報道の仕方をもって「街を歩く群衆の一人」として映っただけ、と説明するのは難しいだろう。


著作権の世界であれば、権利制限規定もあるから「報道目的」を前面に出して逃げることができるかもしれないが、肖像権についてはそもそも権利を明定する規定が存在しないのだから、そのような権利制限の抗弁が認められるかどうかも定かではない。


そうすると、スタンドの応援風景を撮影する前に、応援に来ている人に個別に許可を得なければならない、ということになりそうだが、実際にそのような「許可を得る作業」が行われている、という話は聞いたことがない。


ゆえに、「大丈夫なのか・・・?」という疑念が湧いて出てくることになる。



某国営放送局に関しては、スタンドにくまなくカメラを向けているように見えて“実はカワイイ子しかテレビには映していない”という定説があったから、テレビに映った一般人にとっては「映されること自体がステータス」というべきで、それゆえ、“肖像権”が行使されるような場面は生じえないのかもしれない。


しかし、テレビや新聞に自分の姿が掲載されることに対する抵抗感は、人によって千差万別なのもまた事実で、特に「チアガール」なんぞは決してやりたくてやっている人ばかりではないだろうから、大手メディアだろうがカメラ小僧だろうが、「カメラで撮られること自体が嫌」という人も少なくないことだろう。


また、“肖像・プライバシーの保護”という本来の目的とは異なる意図で「肖像権」を行使しようとする輩もいる*2


筆者とて、撮影対象となる人物すべてに事前の許可を取り付けるような運用が望ましいと考えているわけではないが、単に「ブログに無断で写真を掲載してはいけません」というレベルでは済まない問題が、そこにはあるような気がする。


現在の形のまま“黙示の許諾”といった意思解釈の問題として処理するのか、それとも権利制限規定とセットで実定法化することによって解決するのか、様々な方法が考えられるが、巷で“権利意識”が高まっている今、何らかのルール化が検討されてもよい状況であるように思えてならない。

*1:それに限らず応援風景全般か・・・

*2:上記記事の中で使われている判例も、その多くは“筋の悪い”事件だと思う。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html