大人の選択

北京五輪を目前にして、日本オリンピック委員会JOC)のマーケティング委員会から、2009年以降の4年間の新プログラムの骨子が発表されたようである。

「選手との肖像権使用契約は10人程度のシンボルアスリート(SA)に限定、今年末までの今期約140人との契約を大幅に縮小する。SAの肖像使用権は6億円を支払う最高位の協賛社だけに認めることも盛られた。」
日本経済新聞2008年2月22日付朝刊・第41面、以下同じ。)

記事によると、元々JOCは、「1979年から選手の肖像権を一括管理してマーケティング活動を行ってきた」が、「近年、肖像権の帰属を巡り異議を唱える選手が増加」したことから、アテネ五輪以降、「肖像権ビジネスに同意した選手と個別契約する制度」というプログラムを採用していたとのこと。


その結果が「140件」の契約だったわけだが、それが次期から上記のような限定的な内容に変わる理由を見て、思わず納得してしまった(笑)。

「シンボルアスリート(SA)を導入した2005-2008年、マーケティング事業収入(見込み)は前期比ほぼ2倍に増えたが、選手に払う協力金や代理店契約を結ぶ電通への手数料がかさんで収支差額は横ばいにとどまった。」


手数料商売を生業にしている以上、やむを得ないこととはいえ、この手のライセンススキームで広告代理店がはねていくチャージの額は結構バカにならない。

「協力金などがかさみ、選手強化費に充てる資金が伸びない課題を抱えていた」

というのは、少々大げさに言っているのか、そうでなければスキームの収支見積もりに難があったのでは?、という皮肉の一つでも言いたくなるところだが、元々利幅の薄いライセンスビジネスの中で、チャージを代理店に持っていかれた上に、100件以上の、しかも微妙に条件が異なるであろう契約を管理することの煩雑さを考えると、契約対象を絞りたくなる気持ちは良く分かる。

「コスト増に加え、長年の課題である肖像権の帰属問題からJOCは肖像権に頼らない新プログラムを模索してきたが、ほかにある「商品」はロゴマークくらい。遅塚研一専務理事は『(電通からも)肖像権がないと商売にならないという声が強く、落ち着くところに落ち着いた』と説明する。」

曲がりなりにも特定の球団に「所属」しているプロ野球選手ですら肖像権訴訟が起きてしまうのだから、より間接的なかかわりしかない*1JOCと「オリンピック選手」との間で、紛争リスクを考慮しなくて良いはずがないのだが、他に依るべきものがない以上はやむを得ない、ということだろうか・・・。


「肖像権」という権利が、「人間」という厄介なモノから派生した“ナマモノ”である以上、次期骨子案に沿ってプログラムを作ったとしても、いろいろと困難な問題は出てくることだろう。


「シンボリアスリート」との間で利益配分をめぐってトラブルになる可能性は常に存在するし、その辺はうまく切り抜けたとしても、アスリート自身のスキャンダルや成績不振によって、そのアスリートの肖像を元にしたビジネス自体が成り立たなくなることも考えられる(対象アスリートを絞ってしまうと、なおさらそのリスクは高くなる)。


だが、ライセンスビジネスにおいて「契約貧乏」に陥っている一般企業も決して稀ではない今の世の中で、一公益法人たるJOCが、契約スキームを維持しつつ問題解決のために知恵を絞る、という「大人の選択」をしたことは率直に評価すべきだし、同じような状況に苦しむ民間事業者の側でも、学ぶべきところは多いように思えてならない。

*1:各選手が所属しているのは、企業やクラブチーム、といったそれぞれのチームであって、「強化指定選手」として一定の恩恵を受けているような実態があるとしても、組織としてのJOCに「所属」するとまではいえないのではないかと思う。

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