第一審、控訴審で被告人に対する有罪判決が出されていた強制わいせつ被告事件について、最高裁が逆転無罪判決を下した、というニュースが夜のニュースで流れていた。
刑事事件において、最上級審で判断が覆ること自体がそもそも珍しい上に、近年何かと話題になり、映画の素材にまでなった痴漢事件に関して、
「当審における事実誤認の主張に関する審査は,当審が法律審であることを原則としていることにかんがみ,原判決の認定が論理則,経験則等に照らして不合理といえるかどうかの観点から行うべきであるが,本件のような満員電車内の痴漢事件においては,被害事実や犯人の特定について物的証拠等の客観的証拠が得られにくく,被害者の供述が唯一の証拠である場合も多い上,被害者の思い込みその他により被害申告がされて犯人と特定された場合,その者が有効な防御を行うことが容易ではないという特質が認められることから,これらの点を考慮した上で特に慎重な判断をすることが求められる。」(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090414170745.pdf、1-2頁)
という前置きの下で被害者供述の信用性に疑義を呈し、「重大な事実誤認」があるとして破棄自判としたのだから、この判決のインパクトは極めて大きい、といえるだろう。
もっとも、第三小法廷を構成する5名の裁判官のうち、反対意見を書いた裁判官が2名(田原睦夫裁判長、堀籠幸男判事)*1。
法解釈ではなく事実認定、証拠評価が争点となっている事件でこれだけ判断が分かれる、というのもなかなかないことであり、それだけ判断が微妙なケースであったことがうかがえる*2。
付された意見の中身については機会があれば改めてご紹介することとしたいが、理屈の上の話よりも何よりも、まずは今回の多数意見が今後の同種事案の公判審理にどのような影響を与えていくのか、という点が気になるところではある。