“目には目を”作戦?

一年前に話題になっていた「歴史上の人物の氏名」の商標登録をめぐる問題の一事例として、興味深いニュースが掲載されている。

山口市出身の詩人・中原中也(1907-37年)の名前を、山口市特許庁に商標登録出願していたことが28日、分かった。」
「無関係な第三者が商標登録して使用が制限されるのを防ぎ、山口の文化的財産として保護するのが狙いという。」
日本経済新聞2009年5月28日付夕刊・第22面)


一年前の議論では、「歴史上の人物名等の商標審査の方向性について」(http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1030&btnDownload=yes&hdnSeqno=0000039936)というペーパーに示されているように、歴史上の人物名称の商標登録の可否を判断するに際して商標法4条1項8号が適用されないことを前提としつつ、出願の経緯や社会的影響などを考慮した上で商標法4条1項7号該当性判断に載せて考える、という見解が示されていた*1


そして、上記「中原中也」の名称自体、以前地元とはまったく縁のない会社が出願した際に、商標法4条1項7号に該当するとして登録を拒絶された商標として、上記ペーパー(2頁)の中で紹介されていたものであった(不服2006-018264参照)。


今回、山口市が「中原中也」を出願した第一次的な目的が、上記のような“まったく縁のない第三者”に出願・登録されることを防ぐための自己防衛にあることは間違いない*2


だが、この種の作家や芸術家の場合、「出生地」以外にも“ゆかりの地”が多数あることを考えると、これが特定の自治体の商標として登録されることを容認すべきかどうか、ということもまた問題になってくる。


山口市が出願している商願2009−12852の指定区分は、

第16類 文房具類,紙類,印刷物,書画,写真,写真立て,家庭用食品包装フイルム,紙製ごみ収集用袋,プラスチック製ごみ収集用袋,紙製テーブルクロス
第30類 菓子及びパン,茶,コーヒー及びココア,調味料,アイスクリームのもと,シャーベットのもと,穀物の加工品,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅうまい,すし,たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオリ
第32類 ビール,清涼飲料,果実飲料,ビール製造用ホップエキス,乳清飲料,飲料用野菜ジュース
第33類 日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒
第41類 技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催,美術品の展示,書籍の制作,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,美術展の企画・運営又は開催,庭園の供覧

となっており、先に拒絶された商標よりも指定範囲は広い。


そして、その中には、第41類のように、より営利性が“薄い”役務にまで権利が及びそうなものも含まれている。


山口市は、

山口市の活性化に結び付くものであれば、使用料は取らない」

というコメントを発表しているのだが、中原中也にゆかりのある他の自治体(ないしその関連団体等)が、“その自治体の活性化のために”中原中也を紹介する展示会その他のイベントを主催するような場合に、「山口市の活性化に結び付く」という理由で無償使用が許されることになるのか、というのは気になるところ*3


先に挙げた「歴史上の人物名等の商標審査の方向性について」では、もっぱら地元と無関係の第三者が商標を出願した場合を念頭に置いた議論が展開されており、“ゆかりのある自治体”が自ら商標を出願した場合までは想定されていなかったようにも思われるだけに、上記商標がこの先どのような運命をたどるのか、注目されるところである。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20080702/1214955510

*2:実際に登録されなくても、出願されただけで、情報提供等諸手続きを行う手間がかかってくることになる。

*3:そもそも第41類に関しては、商標法3条1項3号の問題が出てくるような気がするし、仮に登録されたとしても、純粋に中原中也を取り上げた展示会等であれば、法26条1項3号により商標権が及ばなくなる、と考えることもできそうであるが・・・。

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