米グーグルが、これまでマイクロソフトの独壇場だったパソコン用OS市場に殴り込みをかける、というニュースが話題になっている。
記事によれば、
「インターネット検索最大手の米グーグルは7日、パソコン用の基本ソフト(OS)を開発、パソコンメーカーに無償提供すると発表した。新OSを搭載する新端末は2010年後半に発売される見通し。パソコン用OSではマイクロソフト(MS)が圧倒的なシェアを握る。グーグルの参入で競争が加速、パソコンの低価格化につながる公算が大きい。」
(日本経済新聞2009年7月9日付朝刊・第1面)
と、「競争の加速」につながる歓迎すべき事象、として捉えられているようなのだが・・・
これって、独禁法的に問題になることはないのだろうか?
マイクロソフトがこれまであまりに強大すぎたので、どんな形であっても有力な競争者の登場は歓迎したくなるのが心情かもしれないが、他の事業分野で得た利益をテコに安売り攻勢を仕掛ける、というのは、本来非常に危険な行為だと考えられているものであるし、それによってインターネット検索の分野でのシェアをより拡大する*1、あるいはMSを排除した時点でOS分野でも方針転換して“稼ぎに行く”といったことにならない保証はない。
「不当廉売」*2に関して、白石教授は以下のようなコメントを記されているが、
「廉売の時点で行為者が市場において有力であることは、一般指定6項の要件であるとは考えられない。なぜなら、廉売の時点で市場において有力でなくても、廉売によって他の事業者の事業活動を困難にさせることは可能であるし、かりに「埋め合わせ」を要件とするとしても、廉売後に「競争変数が左右され得る状態」をもたらしさえすればよいのであって廉売時点で有力である必要はないからである。このことは、たとえば、他の市場で有力な地位にある事業者が、そこで得た利潤を原資として新たな市場に参入する場合を考えれば、直ちにわかることである。」
(白石忠志『独占禁止法』149頁(有斐閣,2006年))
これはここでも当てはまる可能性はあるだろう。
また、グーグルが、そもそも「OS単独」の市場なんて想定していないのだとしても、OSとセットになった何らかの「市場」を意識しているのであれば、別の競争制限行為類型に当てはまる可能性はありうるように思う*3。
検索サービスの分野では「最大手」のポジションにある会社だけに、これまでの無償LinuxOSと同じように考えるのはちょっと危険なのではなかろうか。
何かと話題を振りまいてくれるグーグルだけに、今回もどういう方向へ向かっていくのか、しばらく追ってみる価値はあるのではないか、と思っている。