「プロフェッショナル」を目指す人のための本。

元々自分は、「自己啓発本」のカテゴリーに属する類の本があまり好きではないのだが、最近、知り合いの法務の人間に勧められた↓の本を読んでみたら、結構得るところが多かった。


束の間の正月休み。プロフェッショナルとして会社の中で日々法務の仕事に挑んでいる方々(もちろん法務の分野に限った話ではないのだが)には、共感・納得できるところも多い本だと思うので、この機会にお読みになってはいかがだろうか?


日本型プロフェッショナルの条件―アメリカ的論理思考では問題は解決できない

日本型プロフェッショナルの条件―アメリカ的論理思考では問題は解決できない


以下は自分の感想。


自分が本書に共感する最大の理由は、いわゆる典型的な日本企業の「堅い」組織の中で、「プロフェッショナル」として身を立てていくにはどうすればいいか、というところに主眼を置いて、「一流になるための条件」が論じられているところにある。


ローテーション人事によって多様な経験を積んだゼネラリストが社内で優遇される傾向が強く、しかも、ジョブに合わせて転職を繰り返す人々に対する包容力も決して強いとはいえない大企業においても、「自立したプロフェッショナル」として生きていくことはできる、という本書の著者のメッセージは、自分にとっては大変に有難いものであった*1


また、安直な「自己啓発→ステップアップ」論でも、「やる気になれば何でもできる」的な精神論でもなく、現実の“堅い”会社組織の中で、周囲の評価と自己実現欲求との折り合いをどう付けていけばよいか、という点などを、具体的なエピソードを踏まえながら説き起こしていく本書の流れは、非常に説得的だし興味深いものがある。


おそらくは、三和銀行という、良い意味でも悪い意味でも極めて日本的な(これはもはや過去形かもしれないが)堅い組織で成り立っている会社の中で、プロフェッショナルとしての生き方を追い続けながらも、管理職として相当のポジションに就かれるまで勤務され続けた、という著者(安永氏)のご経歴が、本書にリアリティを与えているのだろう*2


個人的にツボだったのは、

「会社の中には、いろいろと敬遠したい仕事があります。表のラインに上がらないような地味な仕事もその一例でしょう。例えば、バリバリと第一線で営業をやってきた人にとって、バックオフィスで契約書をチェックしたり、監査や法務やシステムの仕事をしたりすることを命じられれば、左遷されたと感じるはずです。」
「(しかし・・・)日蔭の存在や、縁の下の力持ち的な部署では総じて、個人の力を自由に発揮できるチャンスが多いように思います。」
「マイナーな部門に行けば、周囲からの干渉は比較的少なく、うまくいかなくてもそれが当たり前だと見逃してもらえる一方で、うまくいったときには「あいつはすごい!」と認められやすい傾向があります。」
「あえて人が嫌がる道を選び、そこで頑張ろうとする気概さえあれば、必ず仕事上のブレークスルーがあり、自己変革を遂げられます、現代のような企業経営混迷の時代では、そうした「一皮むけた人材」が企業の存亡の危機を救うことも多いのではないでしょうか。」
(68-70頁、強調筆者)

のくだりだが*3、他にも、煩雑な仕組み等々の社内の環境への対処の仕方だとか、「リーダーシップ」に対する考え方だとか、いろいろと共感できるところは多かった。


本書には安永氏のイギリス留学時代の思想が色濃く反映されていて、ヨーロッパの“ギルド的プロフェッショナリズム”のプラス面がかなり強調されているきらいがあるし、それとの対比で、日本国内でも徐々に企業内専門家の組織化が進んでいるという現状が看過されている傾向があることは否めないのだが、

「日本型プロフェッショナルのもう一つの条件となるのが、特定の分野で「一流」と呼べるような専門性を持っていることです。その分野で一番になる、あるいは、同業の人々から一目置かれるくらいの尖った専門性が必要です。」
「一流である必要があるのは、日本では欧米ほどには専門家のコミュニティが強固でないことや、専門的資格に対する信頼度が高くない、職務経歴が会社のローテーションだと思われかねないことなど、職業をめぐる社会文化の違いが背景にあるためです。それほど日本ではプロフェッショナルと認められるのは難しいということです。」(19頁)

といったくだりなどは、やはり「至言」というほかないわけで、この先の自分の行く道を考える上で、大変ためになる一冊であったことは間違いない。


新年の誓いを立てるにはまだちょっと早いが、本書から前向きな一歩を踏み出すための栄養をいただいた・・・そんな気分である。

*1:「どこにいようとも、自立したプロフェッショナルとしての生き方は追求できます。同じ会社にずっといようとも、転職しようとも、常に自分なりに専門性を磨き、高い倫理観と規範を持ち、公益に寄与するという観点から自分がなすべきことを決断し実践していく。このような生き方をしている人を「日本型プロフェッショナル」と私は呼びたいと思います」(19頁)というくだりに、本書を通じての著者の考え方が明確に表れている。

*2:巷には「自己啓発本」の類の本があふれているが、伝統的日本企業の中で働いた、というバックグラウンドを持たない人々によって書かれたものの場合、どうしても、エピソードが個性的になり過ぎていたり、逆に、過度に普遍的なものになり過ぎていたりして、本書がターゲットとしている層の人間にとっては、現実味に乏しい。また、日本的企業で経営者として登りつめたような方の多くは典型的ゼネラリストだから、そのような方が書かれた啓発書から“プロフェッショナル”志向の人間が得るものは必ずしも多くはない(仕事をやる上での一般論としては活用できるが、それ以上のものにはなりにくい)。

*3:今自分がそれなりの評価をしてもらえるのも、法務という超マイナー部署で叩き上げてきたからに他ならない(笑)。