絵に描いた餅

BLJ誌の2010年6月号の特集は「秘密保持契約に潜むリスク」。


BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2010年 06月号 [雑誌]

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2010年 06月号 [雑誌]


自分の場合、一時、狂ったように毎日毎日NDAをレビューする生活を送っていたこともあって(苦笑)、NDAにはちょっとしたこだわりがある。


それゆえ、期待して読んでみたのだが・・・



うーん、どうなんだろう。


dtk氏のブログ*1での下記のコメント(↓)に限りなく近い印象を自分も抱いている。

セミナーとか他でも聴けるような内容が大半だったので、新味に乏しいような気がした。こういうのをきちんと定期的に取り上げてくれることの重要性は否定しないのだけど、この雑誌ならではというものがどこまであったのだろう、という気がしたのも事実」


dtk氏が一定の評価を与えている「裁判例の分析」にしても、挙がっている裁判例が微妙に古いし、最近の東京・大阪両地裁の傾向の違いとか、「管理指針」が挙げている要素とここ1,2年の判例動向との比較*2等々、一番美味しくてタイムリーなネタがフォローされていないのがちょっと残念なところ*3


元々、契約の字句、文言レベルの修正の話、というのは、会社におけるNDA関係業務の中ではほんの一部分に過ぎないのであって*4、現実の契約の“履行”に耐えうるだけの背後でのシステムづくりの方が一番重要な課題だったりする。


パートナーによって“出し方“がぶれないようにするために、統一的に秘密保持レベルを管理するための方策だとか、コンタミネーションリスクを回避するための受領情報の管理方法だとか、いろいろやるべきことはあって、しかも、そういった社内の状況を踏まえないことには、紙の上の条件交渉にも(本来は)手を出しようがない*5


日頃の地道な積み重ね(あるいは確信犯的な管理体制の綻び(苦笑))を、スピード感を要求されるNDA交渉の中でいかに反映していくか*6


NDAっていうのは、単純なように見えて結構奥深いものなわけで、そういった取引全体の流れの中でのNDAの位置づけや、交渉の緊迫感が伝わってくる記事があっても良かったんじゃないかなぁ、と思うのは欲張り過ぎだろうか。


まぁ、テーマがテーマだけに、企業の担当者が記事を書くとなると、なかなか難しい問題が出てくるのは確かだろうけど*7、匿名座談会とかを組んでみても良かったんじゃないかな、というのが率直な感想である。

*1:http://dtk2.blog24.fc2.com/blog-entry-1322.html

*2:そもそも、実務向けの記事であるにもかかわらず、「営業秘密管理指針」に言及した論稿が皆無なのはどうかと思う。

*3:中町昭人弁護士の記事で言及されているような“担当者が最初に持つべき基本的な発想”などは記事にしていただく価値が十分にあると思っているのだが・・・。

*4:もちろん、だからと言って適当な文言を放置して契約してしまって良い、というわけではないのだが、双方で情報開示するタイプの開発・提携等に際してNDAを結ぶような場合には、契約上の些細な文言にこだわったところで実益は乏しいのが現実だと思う。

*5:いかに定義規定・除外規定で局地戦を演じて、格好の良い体裁を整えたところで(あるいは相手方に厳格な秘密保持義務を課したところで)、自社の側で、情報の重要度に合わせてメリハリを付ける体制が整っていなければ絵に描いた餅でしかない。が、実際には、華麗な“餅つき大会”で時間を浪費するパターンも結構多かったりするのが現実だ。

*6:理屈の上では締結することに疑義があるような場面でも、NDAを結ばないことには話が先に進んでいかないし、話を先に進めないとより実質的な契約にまで辿りつけない・・・というケースがほとんどではないかと思われる。自分なんかは、ショートスパンのシンプルNDAを反復(合意)更新させて、ある程度双方の情報量の多寡が見えてきた時点で、きっちりとした契約を結び直す、というやり方をよく使ったものだが。

*7:自分とて、こういう話で手の内をさらけだすようなことはしたくない・・・。

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