コンプガチャ問題に消費者庁が示した一つの「結論」

最初の“リーク”以降、2週間にわたって“エア規制”状態が続いていた「コンプリートガチャ」について、ようやく消費者庁が「公式見解」を出した。

「『カード合わせ』に関する景品表示法(景品規制)上の考え方の公表及び景品表示法の運用基準の改正に関するパブリックコメントについて」(平成24年5月18日付、http://www.caa.go.jp/representation/pdf/120518premiums_1.pdf

内容的には、当ブログで以前推測した内容*1や、5月9日に行われた消費者庁長官の会見で明らかにされていた内容*2とほぼ同じ筋であるように思われ、既に川井信之弁護士のサイト(http://blog.livedoor.jp/kawailawjapan/archives/5512918.html)等でもご紹介されているところなので、細々と論じることはしない。

個人的には、「有料のガチャ自体への景品規制の適用」の有無(結論としては「景品規制は及ばない」とされた)について、かなり明確に書かれていること*3や、「有料の『ガチャ』によって揃えたアイテム等による『コンプガチャ』のみを規制の対象とした」こと*4、さらに、今回示した考え方について「『懸賞による景品類の提供に関する事項の制限』の運用基準」の改正という方法で、基準に組み込んだこと*5などにはちょっとした意外感もあるのだが、この辺もこれまで流れていた情報から、ある程度想定できた範囲内の対応といえる。

報道に対する疑問、再び。

その一方で、相変わらず過熱気味なのが、これを伝える日経紙の記事。

まず、社会面で「コンプガチャ、罰則も。」というおどろおどろしい見出しを載せ*6、さらに企業総合面に掲載した解説記事の中で、

消費者庁表示対策課の片桐一幸課長は「消費者がカードを選べないコンプガチャは欺瞞(ぎまん)性が高い」と厳しく指摘」(日本経済新聞2012年5月19日付け朝刊・第9面)

とした上で、「運用基準改正」がこれからパブリックコメントにかかる、という段階であるにもかかわらず、

「景表法の運用基準改正が施行される7月1日からコンプガチャは違法になる。」(同上)

と断定している*7

また、今回消費者庁が示した「考え方」及び運用基準に例示した類型の射程はかなり限定されたものであるにもかかわらず、記事の中では、

「指針はコンプガチャの類似サービスも規制対象とした。そのためグリーなどがコンプガチャに代わる課金システムを導入する際には従来より慎重な対応が必要になる。」(同上)

という解説になっている点についても、疑問を入れる余地はある*8


逆に、消費者庁の「考え方」の中でも、「アイテム類の景品類該当性」に関する、

「『コンプガチャ』で提供されるアイテム等は、その獲得に相当の費用をかけるといった消費者の実態からみて、提供を受ける者の側から見て、金銭を支払ってでも手に入れるだけの意味があるものとなっていると認められるので、『通常、経済的対価を支払って取得すると認められるもの』として、『経済上の利益』に当たります」(3-4頁)

といったくだりなどは、他のネットゲームその他の「おまけアイテム」に適用されれば、実務に与える影響はかなり大きいと思われるのだが*9、上記の記事の中では、そこまでの分析はなされていない。

業界の方でも、着々と「自主規制」を進めているようだし、半年、1年も経てば、「あの騒ぎはいったい何だったの?」と言われてしまうような空気になっていても不思議ではない状況ではあるのだが、いかに“季節モノ”のネタとはいえ、ここぞとばかりにバイアスのかかった記事を垂れ流し続ける、というのは、産業関連記事の詳細さと信頼性をウリにする日経紙としては、あまり好ましくないのではなかろうか、と思ったりもするわけで*10


なお、上記企業総合面に掲載されている記事の最後に、川村哲二弁護士のコメント、として、

「今回の措置はあくまで行政規制なので、(仮に違法だとしても)課金返金の請求権は発生しない」

というくだりが掲載されているが、川村弁護士のブログをご覧になられている方であれば、すぐに端折り過ぎ、ということに気付くだろう。

川村弁護士がブログの方で書かれていたのは、

景品表示法違反があったからと言って、その取引が無効になったり取り消せるという効果には直接つながりません。あくまでも行政規制ですので、仮に、消費者庁が不当景品だということで措置命令を出しても、課金返金の請求権が発生するというものではありません。民法消費者契約法などの民事法で返金が請求できる根拠が存在することが必要ですが、これは景品表示法違反というだけでは駄目ですので、ご注意ください。」
(http://stuvwxyz.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/post-17bc.html

という内容であり、もとより民事法に基づく返金請求を否定されているわけではない、という点には留意した方が良いように思われる*11


以上、「考え方」の中身よりも、その報じ方に言及したコメントの方が多くなってしまったが、裏返せば、「考え方」にしても、「会見録」にしても、消費者庁がきちんとオープンにしているからこそ、こういった論評が可能になるわけで、この点、まだ今の日本の行政には救いがあるのかな・・・と思ったりもするところ。

いずれにせよ、本件は、事態が必要以上に過剰な規制方向に進んでいかないように(あるいは、真に問題とされていたことがうやむやのうちに忘れ去られないように)、見守っていくべき一つの好事例だと思うだけに、今後、より議論が盛り上がっていくことを、期待しておくこととしたい。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20120505/1336243138参照。

*2:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20120516/1337529898

*3:おそらく、消費者庁としては、今回の規制に対して様々な意見が寄せられることを意識して、なるべく従来の景表法の考え方を逸脱しないような論理構築に重点を置いたものと推察される。

*4:従来の告示では、「絵合わせ懸賞」による景品提供は有償・無償にかかわらず禁止されているように読めるのだが、「消費者に実害がない」という理由で、あえて「有償」という要件を事実上付加したのだろうか・・・?

*5:これは、あくまで通達として出されている「解釈運用基準」を訂正するものに過ぎず、法改正とは性質を異にするものではあるが、想像以上に慎重な手続きを取ったものだなぁ・・・というのが、率直な印象である。

*6:日本経済新聞2012年5月19日付け朝刊・第38面。もちろん、景表法違反として位置付けられれば、刑事罰もくっ付いてくるのは当然のことだが、景品規制に対して過去にどれだけ刑事罰が課されたか、ということを考えると、煽り過ぎの感が強い。

*7:もちろん、“パブコメ”の本来的な性質に鑑みれば、どれだけ運用基準改正に反対する意見が寄せられようと、消費者庁はこの改正を予定通り進めるのは間違いないと思われるので、ここをあまり突っ込んでも仕方ないとは思うのだが・・・。個人的には、この件に関して積極的に意見を表明されている有識者の方々に、是非とも意見を出していただきたいものだと思う。

*8:消費者庁のリリースの中には確かに「『ガチャ』や『コンプガチャ』とは別の用語を用いるものについても、別添1の4に記載された考え方は同様に当てはまりますので・・・」という記載はあるが、これは、今「コンプガチャ」と言われているものと全く同じサービスを違う名前で提供したような場合を想定したものに過ぎないように思われる。「偶然性を利用して有料で提供する場合であって、特定の数種類のアイテム等を全部揃えたプレーヤーに対して、ゲーム上で使用することができる別のアイテム等を提供するとき」という限定的な例示では、解釈を広げようにも自ずから限界があるといえるだろう。

*9:一般的なベタ付け景品、懸賞による景品のいずれについても金額の上限規制が設けられているから、これまで“ただのプライスレスなデジタルデータ”と位置付けられていたプレイヤーに与える“おまけ”の『経済上の利益』について、どの会社も「上限に収まっている」と主張するための理由づけを考えなければならなくなるように思われる。あくまで「消費者が高額料金を支払うことを防ぐ」という点にのみ関心がある消費者庁&メディアとしては、専ら「過剰な景品が提供されることによる事業者間競争のゆがみ」の問題となる上記のような論点には、あまり関心が向かないのかもしれないが・・・。

*10:もしかしたら、運営事業者への取材の過程で、“経営者のモラル”にうるさい日経紙記者としては見過ごせないような何か、を感じたりした・・・ということも、ここまで青筋を立てている背景には存在するのかもしれないが(あくまで憶測)、それにしても・・・という印象を一連の同紙の記事からは強く受ける。

*11:もっとも、先日の長官会見に関するエントリーの中でも書いたとおり、今回の消費者庁の「考え方」等の出し方を見ると、行政取締法規上「違法」の評価を受けるのも平成24年7月1日以降、という解釈が出てくる余地はあるように思われ、そうなると、過去に支払った代金相当額について、事業者に民事上の責任を追及するのはますます難しくなってくるように思われるのも事実なのだが・・・。

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