大胆な「サービス・コンセプト」を華々しく打ち出して、“航空業界の革命児(笑)”の座を不動のものにするかと思わせてくれたスカイマークが、消費者庁の回収要請を受けて、あっさりと文書回収を余儀なくされたのは数日前の話。
そんな中、日経紙に同社の西久保慎一社長のインタビュー記事が掲載されている*1。
スカイマークといえば、前門の2大国内航空会社、後門のLCCに挟まれ、厳しい経営環境の中、極限まで余分なコストを切り詰めないと生き残っていけない状況にある会社なわけで、「過剰なサービスを排除する」という割り切りの経営ポリシー自体は、ビジネスに携わる人々にもそれなりに好評価を受けていたところだっただけに、インタビューの全体的なトーンも比較的優しい。
例えば、
「無理なことをおっしゃるお客様に対策が必要だった。そうした対応に追われると客室乗務員が本来の保安業務などに集中できないし、ほかのお客様のご迷惑にもなる。」
「『ヘビークレーマー』と呼ばれるお客様をつくらないためにはまず、できないことをはっきりさせ、お客様が冷静でいられる時にそれを理解していただくことが大切。」
と、バッシングでへとへとになっている会社の経営者に“弁解”と自らのポリシーを語る場を与えた上で、
「当社とお客様の関係は対等と社員に教えている。お金をいただく一方で、われわれは輸送を提供する。両方が納得した形で初めて取引は成立する。もちろん航空会社を選ぶのはお客様だ。だが我々は提供できる価値、できない価値というのを事前に示さなければならないのではないか」
と正論を語らせる*2。
この記事を読む限り、騒動となった文書も、一貫したポリシーの下で作られたものであることが良く分かるし、思慮深い読者であれば、それまでスカイマークという会社に対してよからぬ感情を持っていたとしても、少しは見る目が変わってくるかもしれない・・・そんな記事である*3。
だが・・・
確かに、日本が、サービス事業者に対して過剰なまでの便益とホスピタリティを求める国であるのは間違いない。
もちろん、「一流」レベルで比較すれば、外国の方が質の高いレベルのサービスを提供しているような分野があるのは事実だが、ホテルにしても、飲食店にしても、航空をはじめとする公共輸送機関にしても、サービスに支払う対価の多寡を問わず、標準的に“そこそこ高品質で行き届いた”アウトプットを要求するのは日本人くらいだろう・・・と、外国から帰国するたびに自分は思っている。
それゆえ、あまりにざっくりと割り切ったスカイマークの「サービス・コンセプト」が、一週間ほど前に、大々的に報じられた時、それを見た多くの国内のサービス業関係者が、“なんて羨ましいことをする会社なんだ!”と心の中では思ったであろうことは、容易に想像がつく。
しかし、仮にスカイマークが、今回のような災厄に見舞われていなかったとしても、同じように後に続く会社が出てきていたか、といえば、それはなかったんじゃないか・・・と個人的には思うところで、特に、サービス業の世界で長くメシを食ってきた人が、経営者として采配を振るっているような会社であれば、なおさらありえなかったのではなかろうか。
どんなに打たれても、「真心を込めたサービス」に徹し、「お客様のご理解をいただけるように」粘り強く接し続ける・・・というのが、いつの時代からか分からないけれども、脈々と引き継がれる日本のサービス業の美徳。
ほんの少しでも“標準規格”から外れたら激しくバッシングする、という民心がそんな“美徳”を事業者に強要している、という一面がある一方で、事業者自身がそれを「是」とするようなある種の“マゾ”的な組織風土を備えている、というのもこの国の特徴なわけで、そうやって磨き上げていった結果、生まれてきた高収益型のサービスもあったりするから、これを一概に「無駄」と片づけるわけにはいかない。
そんな観点から、自分は、西久保社長のインタビュー記事の中の以下のくだりが気になった。
(「苦情は受け付けない」「収納の手伝いはしない」との表現が突き放した印象を与えなかったか、という問いに対し)「法的なチェックはすませ、周到に準備した」
いくら規制が厳しい航空業界でも、サービスの内容そのものを規制するような法律がそうそうあるとは思えない。
ゆえに、いくら念入りに“リーガル・チェック”をしたところで、「問題ない」という結論しか出てこなかったはずだ。
だが、それで安心して、「問題ない」と突っ走ってしまったら、「日本のサービス事業者」としてはどうかと思うし、「法的に問題ありません」というコメントを出して自分の仕事は終わった、と安堵している法務担当者や顧問弁護士がいたとしたら、それはそれで、この業界の関係者としては、求められている水準の仕事をしているとは言えない、と自分は思っている。
西久保社長が語っている、
どんなサービスでも根っこはあくまで「契約」。
サービスの提供側とそれを受ける側は対等な立場にある。
といったフレーズは、通常の取引の世界では当たり前の話だし、法律を理解しているものであれば、当然全ての前提として胸の内に持っていないといけないものだろう。
でも、それは、自分達にできる範囲のサービスをやろうと手を尽くし、説明を尽くしてもなおご理解を得られなかった時の最終手段として持ち出す論理であって、決して、安易にお客様の目の前で振りかざすべきものではないのではなかろうか・・・。
もしかしたら、今の「スカイマーク的」な発想が、10年後には日本のサービス事業者の主流を占めるような考え方になっていて、自分の言っていることなんて、時代遅れの化石の戯言、として捨て置かれることになるのかもしれないけれど、少なくとも今はまだ、その時ではない・・・
自分はそう思っている。