自分らしく走るということ。

五輪イヤーが終わったばかり、ということで、昨年に比べると若干、中継の熱も冷めていた感があった今年の大阪国際女子マラソン
それでも、福士加代子選手の走りからは、やっぱり今年も目が離せなかった。

彼女の大阪への「挑戦」の履歴は、当ブログでもその都度ご紹介してきたところであるが、

北京五輪代表選考会を兼ねた2008年大会
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20080127/1201415054
ロンドン五輪代表選考会を兼ねた2012年大会
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20120129/1327857190

と、過去に記されたのは、切ない敗北の記録のみ。

トラック種目や駅伝で派手にブレイクし、一躍、陸上界の“時の人”になってからはや10年以上。
その間、ずっと第一人者の地位を保ち続け、「3大会連続で五輪出場」という偉業を成し遂げながらも、ずっと突き破れずにいたのが、この“42.195キロ”の壁だった*1

今回「三度目の正直」となる今回の大阪挑戦で、スタート直後から先頭集団で快調にラップを刻む姿をテレビ越しに見ていても、何となく“ハラハラ感”が拭えなかったのは、過去2回のこの大会での“期待”と“結果”の落差があまりに大きかったゆえでもある。

だが、今年の福士選手は、過去2回とはちょっとだけ違った。
25キロを過ぎ、集団もいつのまにか彼女のほかにはペースメーカーしかいないような状況になり、鬼門の30キロを越えた・・・そんな段階になっても、過去2回のような極端なペースダウンに陥ることはなく、一歩一歩確実にゴールに歩みを進めていた。

これまで何度も見た華々しい“トップ単走”の光景が、35キロを過ぎてもまだ続いているのを見た時は、「遂に・・・!」という期待さえ、胸をよぎった。

結果だけ見れば、今回も、最後の勝負どころの残り数キロで大きく失速し、一度は突き放したはずのガメラシュミルコ選手に逆転を許す展開(2位)になってしまったから*2、これをもって「三度目の正直」と言われてしまうのは、選手ご本人にとっても心外だろうと思う。

ただ、気持ちよく走り過ぎた初参加時や、ペースメーカーと“喧嘩”して足を余したまま失速した前回に比べると、うまく折り合いを付けて一時は“自分のレース”を構築しかかった今回の走りには、格段の進歩があった、と言えるのではないだろうか。


あくまで印象論に過ぎないが、福士選手は、本質的には典型的な“マラソンランナー”のそれとは異なるメンタルで、走り続けている選手なのではないか、と自分は思っている。

本来、マラソンというのは、はやる気持ちにブレーキをかけて集団の中で我慢して足を貯め、ここぞ、という勝負どころを見極めて一気に自分のペースに持っていく・・・という気持ちで臨まないと、なかなか目指したとおりの記録を出すことは難しい*3

全盛期の高橋尚子選手などは、最初から自分のスピードでぶっ放してレースを決めてしまうだけの力はあったと思うが、同時に、場面に応じて戦法を使い分ける、メンタル面の器用さも持ち合わせていた(だからこそ、シドニー五輪であの結果を残せたのだろう)。

だが、福士選手の場合、そういった器用さよりも、「自分が走り出せるタイミングで、全力を出し切りたい」という感情の方が強くて、それゆえ、最初のレースでは思い切った“単騎逃げ”に打って出たし、ペースメーカーがレースをコントロールしようとした前回の大阪では、リズムを崩すことになった。

もちろん、走った回数による経験の差は多少なりともあるのだろうが、高橋尚子選手が頂点を極めたのは僅か5度目のレースだったし、“メンタル”的な部分の話を、大人になってから一朝一夕に変えることは難しい、ということを考えると、そうそう簡単に福士選手が“典型的なマラソンランナー”になれるとは思えない。

・・・にもかかわらず、何とかギリギリのところまで慎重さを見せ、ようやく「日本の第一人者」としての貫録を示した福士選手の今回のレースには、「結果」以上の価値がある。

できれば、いつか、持ち前の爆発的なスピードを生かして、集団の中での駆け引きにうつつを抜かす後続勢をギャフンと言わせるような福士選手の姿を本当は見てみたい*4、というのも自分の素直な思いとしてはあるのだが、“不器用さ”にシンパシーを感じる自分としては、シビアな現実を前に、マイナーチェンジを図って何とか結果を残そうとする・・・そんな姿にも、思わずエールを送りたくなる。

(おそらく代表に選ばれるであろう)今年の世界選手権、そして、さらにその後に続くシーズンの中で、彼女の走りがどこまで変わるのか、そして、どこまでが変わらずに残るのか・・・。

「女子マラソンの栄光の復活」といった大きなテーマの前では、とても小さな話に過ぎないのかもしれないが、自分にとってはこれが、この先数年の観戦の楽しみにつながる。そんな気がしている。

*1:前回の大阪国際の前には、シカゴで2時間24分台の記録を出してはいるものの、優勝タイムが世界歴代2位、という高速レースだった上に、この時も終盤は大きく失速しているから、世間的には壁を破った、という評価にはなっていなかった。

*2:2時間24分21秒、という走破タイムも、前半のハイラップ等を考えると、まだまだ行けたのでは・・・と思わせるものだった。

*3:これは、競技者のマラソンでも市民マラソンでも変わらない。

*4:それも五輪クラスの大レースで、あれよあれよ…の中で見せてほしい、というのが、自分の勝手な願いである。ペースメーカーがいない真の“ガチンコ勝負”の中でこそ、彼女の本当のスピードが生きるはずだと、信じてやまない。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html