出戻りだって、いいじゃないか。

欧州に渡ったフットボーラ―の中でも「最大の成功者」の一人だったはずが、2013-2014シーズン、マンチェスターの地でまさかの苦しい立場に追い込まれてしまった香川真司選手。
W杯での不振と合わせて、見守る多くの日本人を心配させていたところだったのだが、欧州リーグ開幕の報を聞いて間もないこのタイミングで、ようやく「行き先」が決まった。

「サッカーのドイツ1部リーグ、ドルトムントは31日、ワールドカップ(W杯)ブラジル大会に出場したMF香川真司マンチェスター・ユナイテッドイングランド)から獲得したと発表した。香川は4年契約で3季ぶりの復帰となる。移籍金は公表されていないが、ドイツのメディアは800万ユーロ(約11億円)と報じた。」(日本経済新聞2014年9月1日付朝刊・第32面)

イングランドでの2年間も、決して鳴かず飛ばずだったわけではなく、デビュー早々にリーグ戦初ゴールを決めているし、「プレミアリーグでアジア人選手初のハットトリック」といった記録を作ったりもしているのだが、客観的な数字を見ても、観客に残したインパクト、という点からも、順風満帆だったそれまでの欧州サッカー界での香川選手のキャリアが、マンチェスターの地で「壁にぶち当たった」形になってしまったことは、誰もが否定できないことだろう。

そして、レンタル移籍からの復帰等であればともかく、ステップアップするはずだった移籍先から放出される形で“元サヤ”に収まる、というタイプの移籍は、サッカーの世界に限らず、腕一本で職場を渡り歩くプロスポーツ選手にとっては、やはり歓迎されざること、なのではないかと思う。

それゆえ、インターネット上での外野のツブヤキも、2年前とは違って、かなり複雑な感情が入り乱れているように見えるのだが・・・。


個人的には、サッカーに限らず、「必要とされるところで必要とされる力を出し切る」というのが、人間にとって一番理想的な形ではないかと思う。

たとえ、ブンデスリーガが、イングランドプレミアリーグに比べれば、「格落ち」と評価される場所だとしても、そのリーグで優勝争いができる力を持つチームのサポーターや関係者から「待望論」が出ての復帰なのであれば、元のチームに残ってベンチを温め続けるよりはずっとマシ。

しかも、今年のW杯で優勝したドイツ代表チームの選手の多くが、ブンデスリーガのチームに所属していたことからも分かるように、ドイツのサッカーは、戦術的には、今や世界の最先端を行っている、といっても過言ではない状況にある。

スポーツの世界で、実際にグランド上で起きている現象が商業的なマーケットに影響を与えるまでには、それなりの時間が必要で、それまでは、まだ国際的な報道における位置づけも、関係者自身の意識も、イングランドやスペインを超える、というところにまで切り替わらないかもしれないけれど、ここから先、次のW杯までにらんで“修行”を続ける、ということを考えれば、イングランドよりもむしろドイツにいた方がよかった、という結果になることもありうるわけで、香川選手にとっては、今回の選択は決して悪い方には働かないように思えてならない。

もちろん、いかに「3シーズン前の英雄」だからといって、ドルトムントにおいて直ちに中心選手としての地位を占めることができるかどうかは、全く別の話。

ドイツのリーグは、既に開幕してから何試合かを消化しているし、当然のことながら、開幕前のトレーニング期間で築かれた戦略や、それに基づく選手間の序列も存在している。いくら「OB」だからといって、そんなところに、土足で踏み込んでいくことは、やはりなかなかできることではない。

だが、少々時間はかかっても、香川選手のプレースタイルに比較的合致しているドルトムントで、少しずつ試合に出ながら勘を取り戻していくことができれば、それが香川選手にとって一番良い形になるはずなのだ。

たとえ今は「出戻り」のように見えても、数年後、この移籍が、真に世界に羽ばたくためのいい意味での大きなステップだった、と評価されるようになることを願って、まずは、2014-2015シーズンでの香川選手の活躍を見守ることにしたい。

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