自ら堀った墓穴〜Airbnb大量キャンセル問題をめぐって

民泊新法の施行が目前に迫る中、今月に入ってから民泊をめぐるニュースが俄然躍り出すようになった。

「一般住宅に旅行者を有料で泊める民泊の仲介世界最大手、米エアビーアンドビーが許認可などがない日本国内の施設の掲載をやめたことが4日、分かった。エアビーのサイトで現在検索できる施設は約1万3800件と今春時点から8割弱減った。15日の住宅宿泊事業法(民泊新法)の施行で求められる対策を前倒ししたとみられる。違法営業の恐れがある施設が減り、民泊市場が適正化される一歩になりそうだ。」(日本経済新聞2018年6月4日付)

「民泊を解禁する住宅宿泊事業法(民泊新法)の施行まで8日であと1週間。自治体が独自の規制を導入することなどを背景に、解禁後に違法になる物件が大量にあることが分かってきた。仲介最大手の米エアビーアンドビーは7日、解禁後にこうした物件に泊まる予定だった人の予約を取り消し、宿泊代金を返金するなどの措置をとると発表した。」(日本経済新聞2018年6月8日付朝刊・第3面)

「民泊仲介世界最大手の米エアビーアンドビーが、許認可などがない国内の民泊施設で15日以降の予約を取り消した影響が広がっている。訪日客や家主は突然のキャンセルに戸惑う。観光庁がエアビーに聞き取ったところ、6月15日以降の予約は30日までで4万件、年末までで15万件。全てが取り消されるわけではないが月内だけでも3万件超の解約の恐れがある。」(日本経済新聞2018年6月9日付朝刊・第7面)

一連の議論の中で「違法」とされてしまった物件の掲載中止に始まり、観光庁の一方的な通知で予約のキャンセルにまで至り、もはや完全に混乱の域に達している“民泊”業界。

そして、こういった経緯を踏まえ、Airbnbの公共政策責任者のコメントも配信されている。

観光庁の求めに応じた今回のキャンセル措置について「悪影響を懸念しており心苦しい」とした上で、観光庁の判断を「理解しがたい」とも述べた。さらに「全てのゲストにできる限りの支援をしたい」と表明した。」(日本経済新聞2018年6月13日付・第17面)

国交省観光庁サイドは、8日時点での登録件数が3000件に達した、というアピールもしているが、そんなものは焼け石に水に過ぎない。
これまで「優良物件」として人気を博していた物件のオーナーが、国の規制&それに輪をかけて締め付けてくる自治体の規制に値を上げて“廃業”した、というニュースもチラホラ報じられているし、仮に明日以降、多少登録物件が増えたとしても、「大量キャンセル」が発生したという事実は、もう取り消すことはできないのである。

このブログで以前から繰り返し言ってきたように、「民泊」が観光業界、旅館・ホテル業界に与えるインパクトは、実のところそんなに大きなものではない。
Airbnbに「1万件以上の物件」が掲載されていたといっても、部屋数にしてみれば、その1万件+αのレベルに過ぎないわけだし、そもそも高級ホテルに泊まって日本にお金を落としてくれるビジターの層と、「民泊」を活用するビジターの層は大きく異なるから、実のところ、メジャーなホテル・旅館の業界を民泊が食い荒らすような関係には到底なっていなかった。

だが、「日本政府の方針で予定していた旅行が台無しになった」という風評は、「民泊」を使うことを予定していた人だけでなく、「単に日本に旅行に行こうとしていた人」にも確実に伝播するわけで、そういうミソの付いた国に積極的に行きたがる者は皆無といってよいだろう。

だから、観光庁がアホな運用をすればするほど、“観光立国”の看板が壊れていく、というジレンマに陥っていくことは避けられない・・・。

ということで、今は「被害者」*1としてAirbnbが取り上げられる機会も多くなってきているのだが、このような帰結に至る原因を作ったのは、「民泊を正面から認めよ」とばかりにロビイングを繰り返した彼ら自身、ということもあって、何とも空しい気持ちになる。

おそらく、このまま行けば日本国内の「民泊」はいずれ終焉を迎えることになろだろう。
新法下で、手続を済ませた“プロ”のオーナーがどれだけ部屋を貸し出したとしても、水面下のネットワークで裾野を広げてきたあの日々は戻らないわけで、元々のこのビジネスの理想からはどんどん遠くなる。

時が経つとともにこの問題がどう解決されていくのか、という点については自分も予測できるところではないが、少なくとも今はこの件を「ロビイング」の大失敗例と位置づけるのが、妥当ではないかと思うのである。

*1:もちろん、本当の被害者は楽しみにしていた日本滞在が強制的にキャンセルされてしまったAirbnbユーザーだし、良識的な対応を続けてきた「無許可民泊」のオーナーに他ならないのだけれど・・・。

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