経済評論家から市民運動家まで、SNS上の匿名の声から街角のインタビューに答える人たちの声まで、いろんな方面からの恨みつらみが飛び交う中、淡々と、だが本来の予定(平成29年4月1日)を考えれば「ようやく」というタイミングで消費税10%引き上げが実現した。
自分が語れるのは、ここ数日、自分の住んでいるエリアで見たものだけで、日本中くまなくあちこち見てきたわけではないので、「駆け込み需要」の動きが盛り上がっていたのかどうか、とか、「引き上げに伴う混乱」がどれだけのインパクトだったのか等々、今回の「10・1」の総括をすることは難しいし、ましてや今回の引き上げが今後この国にどういう影響をもたらすのか、ということなど語れるはずもない。
ただ、この日食事をしたレストランや、立ち寄ったカフェで支払った料金はこれまでと変わらなかったし*1、スーパーで買った食材も(冷静に考えれば、軽減税率の対象なので当たり前だけど)値札についていた税率は「8%」のまま*2。
さらに、値上がりを覚悟していた某嗜好品は、コンビニの電子マネー割引還元のおかげで、なんとこれまでと値段が「1円」しか変わらない・・・。
これで「駆け込み」に踊らされた人がいるのだとすれば実に気の毒だなぁ、と思うくらい、何も変わらない一日だった*3。
もちろん、今行われているポイント還元は、いずれ期間が終わればなくなる話だし、値上げせずに頑張っている飲食店にしても、ほとぼりが冷めた頃に「料金改定」に踏み切る可能性は十分にある。だから意地悪な見方をすれば、「10・1」のショックが単に半年先、さらにその先に先送りされているだけ、ということになるのだけど、半年なり一年もあれば、消費税率にかかわらず、インフレなりデフレなりで、物価の上昇/下降という現象に直面することも当然あり得るわけで、この変化の早い時代なら、「2%」の影響も、そういったものの中に吸収されて一瞬でフェイドアウトしてしまうんじゃないかな、というのが自分の見立てである*4。
そして、これまで頑なに「現金決済主義」を貫いてきたバーガーショップに電子マネー決済端末が入ったり、その他のところでも遅まきながら電子決済導入・・・という話を聞くにつけ、「副次的効果」も捨てたものではないぞ、とひそかに思っている。
なお、今回の8%から10%への引き上げに際しても、これまでどおり「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」が適用されるし、「期限」以外に今回の引き上げのタイミングで法律の中身が何かが変わった、ということはなさそうだ*5。
だから、解説書に関しても、2013年くらいに出た書籍たちが、改訂されていなくても、引き続き「定番」として売られている。
- 作者: 長澤哲也
- 出版社/メーカー: 商事法務
- 発売日: 2013/11/08
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログを見る
- 作者: 山田弘,片桐一幸,伊藤豊
- 出版社/メーカー: 公正取引協会
- 発売日: 2014/03/25
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
ただ、やっぱり、今回「10・1」後の激変を感じずに済む(むしろ、お得感すら抱く)ような世の中の空気になっている背景には、前回の「セール萎縮」の代償があまりに大きすぎたことを踏まえて、当局も変な締め付けをしない方向に舵を切っている(平成30年11月28日「消費税率の引上げに伴う価格設定について(ガイドライン)」*6参照)のが大きいのではないか、という気もするところだし、おかしいと思うところはちゃんと声を上げて、世の中が変な空気にならないようにすることが大事なんだよな、ということを改めて感じた次第である*7。
ということで、平成30年ガイドラインから、大事なところを抜き出しつつ、”消費税つれづれ”的な本エントリーの締めとしておくことにしたい*8。
「たしかに、消費税は、事業者ではなく、消費者が最終的には負担することが予定されているため、消費税率引上げ後に小売事業者が値引きを行う場合、消費税転嫁対策特別措置法により、「消費税はいただいていません」「消費税還元セール」など、消費税と直接関連した形で宣伝・広告を行うことは禁止されていますが、これは事業者の価格設定のタイミングや値引きセールなどの宣伝・広告自体を規制するものではありません。例えば、「10 月 1 日以降○%値下げ」「10 月 1 日以降○%ポイント付与」などと表示することは問題ありません。」
「また、今回は、中小・小規模小売事業者に対して、来年 10 月の消費税引上げ後の一定期間に限り、ポイント還元といった新たな手法などによる支援などを行う予定です。これにより、中小・小規模小売事業者は、消費税率引上げ前後に需要に応じて柔軟に価格設定できる幅が広がるようになります。」
「大企業においても、消費税率引上げ後、自らの経営資源を活用して値引きなど自由に価格設定を行うことに何ら制約はありません。」
*1:個人的には、これまで店内で飲食をしていた人がテイクアウトに遷移してくれたら、席がすいて良いな、と思っていたのだが、店の中の込み具合も含めて、前の日までと全く変わらなかった。
*2:頭では分かっていても、いざ直面するとあれ?と思うことはあるもので、最初見た時は「お店が張り替え忘れたのか?」と本気で考え込んでしまった。
*3:もちろん高額の衣料品とか趣味の類のあれこれに関しては、「8」から「10」へのインパクトの直撃を受けているはずだから、駆け込むメリットもあったのだろうけど、その辺は基本的に気分で生きている人間なので、今の時点で存在しない”需要”を自分の中で引っ張り出してまで消費行動に結び付けよう、という発想は出てこなかった。
*4:したがって、2014年4月の時のような分かりやすい「谷」は生じないような気がする。
*5:制度の詳細 : 消費税価格転嫁等対策 - 内閣府参照。元号の変換がいささか面倒だが、延長により特措法の期限は「平成33年(2021年)3月31日」となっている。
*6:https://www.cao.go.jp/tenkataisaku/pdf/181128_guidline.pdf
*7:懐かしい香りのするエントリーとして「消費税還元セール禁止」への疑問 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~。今でも「消費税還元セール」とストレートに書くことは禁止、というのが建前だが、2013~2014年当時は「『3%還元』もダメ」という雰囲気になっていたことを考えると、やはり隔世の感はある。
*8:最後の「大企業においても・・・」は蛇足で、逆に「経営資源持ってるんだから『自由に価格設定』してくれよな」という変なプレッシャーがかかることになりかねないようなぁ、というひねくれた考えに行きついたのは自分だけだろうか・・・。