著作権法に限った話ではないかもしれないが*1、重要な法改正の話は得てして「夕刊」に載る。
ということで、今日も昨年から続いている「ダウンロード違法化」絡みの記事が日経紙夕刊の社会面に掲載された。
「文化庁は27日、漫画などを海賊版と知りながらダウンロードする行為を違法とする著作権法の改正に関する検討会の初会合を開いた。スマートフォンの「スクリーンショット」(画面保存)に他人の著作物が写り込むことなど、軽微なダウンロードを違法としないことを改正案に盛り込む方針を決めた。」(日本経済新聞2019年11月27日付夕刊・第14面、強調筆者、以下同じ)
最初この記事を見た時に、「著作権分科会の小委員会の中でやったのかな?」と一瞬思ってしまったのだが、よくよく確認してみると、この論点に関しては、別立ての有識者検討会でやる、ということになったようだ*2。
一度は頓挫した改正。先日行われたパブコメでも引き続き様々な懸念の声が示されているだろうことが予想される中、どうやってそういった声を和らげて改正案を軟着陸させるか、ということがこの検討会の最大のミッション、ということなのだろう。
今年の春に一気に燃え上がった「スクリーンショット」問題に関しては、
「当初の改正案では、スクリーンショットに一部でも他人の著作物が写り込んだ場合、違法となる可能性があるとして、ネット利用者や有識者、漫画家らでつくる団体などから、情報収集や表現活動の萎縮につながるとの意見が出ていた。同庁はこうした懸念に応え、スクリーンショットへの写り込みのほか、数十ページある漫画の1コマといった一部分のみのダウンロードなど、軽微な行為については容認に転じた。」(同上)
と、検討会の立ち上げ早々、”変わった”ことを前面に出しているし*3、記事中には、「要件を絞ればやっていただきたい」という漫画家の赤松健氏の比較的ポジティブなコメントも掲載されており、立ち上がりとしては順調、という印象を受ける。
平行して行われている「写り込み」権利制限規定の見直しとセットで法改正を実現させることで懸念を緩和する、ということなのか、それとも、「ダウンロード違法化」の条文そのものにさらに手を加えるのか、は分からないが、何とか来年の通常国会では無事成立させたい、という関係省庁の思いは十分伝わってくるだけに、ここは温かく見守るしかないだろうな、というのが、今の自分のスタンスである。
ちなみに、自分は「著作権法30条1項」という条文は日本が誇るべき懐の深いルールだと思っているし、それゆえ、この問題に関して「賛成か反対か」と聞かれた時に、ストレートに「賛成」とは言いたくない、というのが本音のところである。
ただ、春先に「スクリーンショット」まで持ち出されて大騒ぎになっていた様子を遠くから見ていた時に、なんでそこで騒ぐかね・・・と思ったのもまた事実。
そりゃあ、改正条文案を極力広く解釈して、理屈の上で含まれる行為をもれなく列挙すれば、そういった問題も理論的には改正の射程に含まれることになるのかもしれないが、法改正の影響を考える上では、単なる字面の解釈だけでなく、「現実的な執行可能性」まで考慮しないといけない。
刑罰規定・取締規定ならそれが現実にエンフォースされるかどうか、ということを念頭に置く必要があるし、民事上の規定なら、現実に紛争が生じるかどうか、それが事実上の紛争に留まるものか、それとも裁判上の紛争にまで発展する性質のものか、ということまで考えるのが実務家の仕事のはずである。
最近の傾向として、既存の法律に照らしてちょっとでも抵触する可能性があるとすぐに「法改正」や「新規立法」の方向に飛びつく人々が増えているのは確かだから*4、著作権業界の人々だけを責めるわけにもいかないのだけど、本来なら「著作権法30条1項の趣旨」というもっと大きなところでがっぷり四つで議論すべき話が「スクリーンショットはセーフになったからいいでしょ」ということではちょっと困るわけで・・・。
おそらく結論は見えている話、とはいえ、法案成立までの過程において、政策目的との関係でどこまでしっかりとした筋を通せるか、によって、今後の裁判所や当局の判断にも大なり小なり影響が出るように思えるだけに、検討会、という最後のチャンスで、骨太な議論が展開されることを期待している。
*1:あえて詳細なコメントは差し控えるが、前日の夕刊の1面トップ記事は、https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191126&ng=DGKKZO52601700V21C19A1MM0000だった。
*2:先週の文化庁のプレスリリースより。侵害コンテンツのダウンロード違法化の制度設計等に関する検討会(第1回)の開催について | 文化庁
*3:もっとも、当初の改正案に関して「スクショ禁止」というスタンスを文化庁が明確に打ち出していた、という記憶は自分にはないのだけど・・・。
*4:そしてその結果、かえって好ましくない帰結を招くケースもチラホラ見かける。