シリーズ化できるかどうかは分からないけど、せっかく自腹で買っている雑誌が毎月届いているのだから・・・ということで、時間があるうちに、簡単にメモを残しておくことにしたい*1。
ジュリスト1532号(2019年5月号)
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2019/04/25
- メディア: 雑誌
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特集は「マンション管理と法」ということで、多くの企業実務家にとってはマイナーな分野だと思われるのだが、「区分所有権」には不動産共有の究極形態という性格もあるし、多数決原理に基づく団体法的な規律と少数派の権利保護をどう調整するか、という汎用的な思想が根底にあったりもするので、個人的には興味深く読ませていただいた。
特に、一見すると非常に不合理な結論のようにも思える(特に多数派の区分所有者の立場になれば)最三小判平成31年3月5日*2にポジティブな評価を与えている伊藤教授の論文(伊藤栄寿「マンション管理をめぐる判例の現状―最高裁平成31年3月5日判決を中心に」ジュリスト1532号20頁(2019年))*3や、債権法改正(平成29年民法改正)に伴う共用部分の「契約不適合」をめぐる責任追及について論じた藤巻教授の論文(藤巻梓「マンションの共用部分の契約不適合」ジュリスト1532号34頁(2019年))*4をここでは挙げておきたい。
■ 連載「新時代の弁護士倫理」
さて、特集以外の記事の中で気になったのが、いつの間にか始まっていたこの連載であった*5。
座談会形式になったのは今回からのようだが、早大の石田准教授を除けば、メンバーはすべて弁護士、それも業際、隣接士業、非弁提携系の対応をされている先生方だから、今回のテーマになっている広告、非弁提携、ワンストップ・サービス、依頼者紹介対価、といった事柄についても、保守的な見解になるのは容易に想像がつくところ。
もちろん、悪質(かつ悲劇的)な非弁提携事案が現に存在していて、それに巻き込まれないように、という啓発を若手弁護士に行う必要性があることまで否定するつもりはないし、何でもかんでも自由化してしまえ、というのは、一種の暴論だと自分も思っている。
ただ、広告や、依頼者紹介対価の問題のように、弁護士会の中でも様々な意見が出ていて、すんなり一枚岩でまとまっているわけではない論点に関して、一方向からの見解をこの手の媒体に載せるのはどうなのかな・・・と思っていたら、座談会の後に「研究者の視点から」というタイトルで掲載されていた論稿がなかなか強烈だった。
「そうした観点から本座談会を読み込んでみて最も気になるのは、他士業との提携についての消極姿勢である。『異業種との協働化・総合事務所化』すなわちワンストップサービスについて、司法アクセスの観点からは好ましいとされながら、周旋禁止や、報酬の他士業との合理的な分配基準の不存在を理由として、実現が難しいと語られている。他方で現状では、新人弁護士が他士業法人に雇用されることが増えており、非弁提携になりかねないなどともされている。後者が事実ならば、弁護士人口増を背景になし崩しにワンストップサービス化が進んでいるのであり、問題視するばかりでなく、むしろ早急に関係規定を整備すべきであろう。」
(中略)
「他士業を窓口にして何が悪いのか、一般市民からは理解され難いであろう。同じことは他士業法人による弁護士の雇用についてもいえる。仮にこうした業務形態が弁護士法72条違反になりうるとして、それが依頼者にとって何に問題があるのか、やはり一般市民からしてみれば全く不明だからである。『他士業に雇われるなどプロフェッションとしてあるべからざる卑しい行為で、依頼者のためにも社会のためにもならない』ということだろうか。このあたりはむしろ、そうしたことは弁護士の沽券に関わるというのが本音ではと穿ちたくなる。」
「隣接士業の権限拡大やマーケットの縮小に伴って非弁活動が活発化しているとの議論や、倫理意識の低さについての語りなど、他士業に対するそうした『上から目線』は他にも散見され、司法改革から20年、弁護士人口も4万人超となりながら、『市民に身近なリーガルサービス』への道のりはまだ遠いことよと慨嘆せざるをえない。」
(馬場健一「依頼者保護か弁護士のプライドか」ジュリスト1532号72頁)
ちょっと長めの引用となってしまったが、長く「依頼する側」にいた者として、修辞的な表現はともかく、指摘されているポイントには共感できる点も多かったので紹介させていただいた次第である。
ここで「職務基本規程」という「ルール」を変える方を優先するのか、それとも、志ある者が合理的な解釈の幅の中で信頼に値する実績を積み重ねて、社会的にも業界的にも有益であることを証明する努力を先行させるべきなのか、なかなか悩ましいところではあるのだが、今はとりあえず問題提起だけしておくことにする。
法律時報91巻5号(2019年5月号)
- 出版社/メーカー: 日本評論社
- 発売日: 2019/04/27
- メディア: 雑誌
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5月号、ということで例年どおり憲法関係の特集(「判例に現れている違憲審査の思考法」)、小特集(「調査官解説と憲法学」)が組まれているのだが、ここで取り上げたいのは以下の2本の論文である。
■ 伊永大輔「プライバシー侵害は競争法違反となるか-EUにおけるデータ保護法制(GDPR)と競争法の交錯」*6
これはもう、数日前に上げたエントリー(「プラットフォーマー規制」と「個人情報保護」の交錯。 - 企業法務戦士の雑感)等でも書いていた自分の問題意識にドンピシャな論文で、自分自身EUでの事例や議論状況等を気にしつつも、自ら調べる気力はとてもなかっただけに、EU域内の企業結合での審査事案から2019年のドイツ連邦カルテル庁によるFacebook事件決定までコンパクトに概要をまとめていただいているところ等、参考にさせていただくところは非常に多かった。
また、伊永教授が「考察」の章で書かれている以下のくだりは、自分の感覚にも合致するだけに、「市場における競争を確保するために、競争法はどのような原理で自制しつつその規制機能を発動させることができるのか」(111頁)という本質的な問いかけとともに、我が国の法制度と法執行環境の冷静な分析を踏まえた上で、今後の利害関係者の議論の中でも大いに参照されるべきではないか、と思った次第である。
「競争法の規制とデータ保護法制の規制は重なりを持っており、この点を最大限考慮したのがFacebook事件決定といってよいだろう。」
「一方で、データ保護法制を加味しつつ、プライバシー保護を一定程度考慮して競争評価を行うことは可能だとしても、問題は、前記2で見たように、データ保護法制との役割分担にあるように思われる。仮に、データ保護法制を運用することで十分なプライバシー保護が可能であれば、これを直接の法目的とする以上、データ保護法制を優先的に適用し、競争法はこれを阻害しないように差し控えるというのも一つの考え方であろう。」
(中略)
「この点、ドイツのデータ保護法制は私法に基づき執行される制限的な内容となっており、競争法による効果的な執行に頼らざるを得ない側面もあったように思われる。こうした法環境の違いから、ドイツでは、GDPRと整合的な解釈を採りつつ、競争法を行政的手段として適用するとの判断に至った可能性がある。」
(以上、前掲論文110頁、強調筆者)
■ 野川忍「不合理な格差とは何か-最近の高裁判決にみる最高裁への問いかけ」*7
この論文も、昨年の2件の最高裁判決*8以降の、下級審レベルでの労働契約法20条の解釈、あてはめをめぐる判断*9について考える上で、非常に興味深いものとなっている。
いずれ、ここで取り上げられている事件が最高裁に上がって判断が示されるタイミングもあるだろうし、ここでこれ以上深く論じるだけの能力も気力も自分にはないのだが、「労契法20条をめぐって展開されてきた裁判例、学説等の議論の後に示された最高裁判決は、不合理判断の意義や具体的中身についても、また不合理と判断された場合の救済方法等についても、必ずしも先例として確固たる地位を確立し得たとは言い難い」(105頁)という評価と、これから加速するであろう時代の変化が、さらに解釈の変容をもたらす可能性は十分にあるのだろうな、というのが、素朴な感想であった。
以上、長々と先生方の論稿を引用した割には、筆者自身のコメントがプアなのが大変申し訳ないところではあるが、ひとまず再開第1回は、こんな感じで。
*1:かなり昔に同じようなことをやっていた時期があったかもしれないが、あまりに昔過ぎて思い出せない・・・。
*2:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/462/088462_hanrei.pdf
*3:伊藤教授は、「この判決は、団体法的な処理を押し進める傾向を正面から否定したものではないが、実質的には、団体法的な処理を拡大することに歯止めをかけたものと評価しうる。その意味では、事例判決ではあるものの、非常に重要かつ有意義な判決といえる。」(26頁)と総括されている。
*4:なお、本稿では深く掘り下げられてはいないものの、個人的には、これまでの「瑕疵」に基づく契約責任の範囲が、29年改正によって変わるのかどうか、という点も、今後の最大の注目ポイントだと思っている(少なくとも法律の文言上のハードルは感覚的に下がるように思われるので、いわゆる「主観的瑕疵」も含めてチャレンジしてくる代理人は決して少なくないだろうし)。
*5:高中正彦[司会]=石田京子=井上英昭=柴垣明彦「第5回 座談会 事件受任における弁護士倫理」ジュリスト1532号56頁(2019年)。
*8:「非正規格差」訴訟がもたらす日本の雇用の未来 - 企業法務戦士の雑感参照。
*9:本稿で取り上げられているのは、日本郵便(大阪)事件、大阪医科薬科大学事件、メトロコマース事件の3件の高裁判決である。