こんな時になんで? なのか、それともこんな時だからこそ、なのか。

昨日の緊急事態宣言の全都道府県への拡大、そして「一律10万円」の発表を受けた夕方の安倍総理の会見で終わった一週間だった。

今朝の日経紙などを見ると、政府の一連の施策に対してはかなり厳しい指摘がなされているのだが、自分は少なくとも”節目節目の判断”に関しては、この政権下では珍しくヒットが続いていると思っていて、2月下旬の「学校一斉休校」に始まり、先日の適用地域を限定した「緊急事態宣言」、そして今般の対象拡大、と、崩壊を食い止めるギリギリの線で最善手を打っている、といって良いのではないかなぁ・・・というのが素朴な感想だったりする。

ただ、問題があるとしたら、せっかくいい手を打ってるのに、その後世論を気にしすぎて、いろんなものがブレブレになっているところで、まだこれから、という3月の半ばに警戒を緩めるようなコメントをしてみたり、特定の業界に忖度するような及び腰の「営業自粛要請」をしてみたり、余計な動画投稿をしてみたり、そして極めつけは「補償」の声に流されて迷走した結果辿り着いた今回の「一律10万円」だったり・・・。

環境の急激な変化によって、生活基盤が根底から崩れてしまった一定層を救済するために、緊急の給付策を講じなければならない、というのは本当にその通りだと思うのだけれど、それはあくまで「個人の生活保障」の観点から行うべき話であって、産業政策で行うべきものではないし、ましてや景気下支え策のような観点から行うべきものでは全くない*1

そして、誰が本当に困っている人なのか支給する側に判断する術がないがゆえに、制度設計としては「全員」を対象としなければならない、という理屈は理解するとしても、その打ち出し方として「全員一律」というフレーズを前面に出すのは、ちょっと違うだろう、と思う*2

とはいえ、都心の中心部に関しては、今日の時点で平時との比較では7割以上人出が減っている。

少なくとも今週に関しては、「自宅で仕事をして近所の住宅街のスーパーやドラッグストアに買い出しに行く」よりも、「都心の中心部のオフィス街で仕事をして、ビルの中の定食屋でご飯を食べる」方が、よほど不特定多数人との接触機会は減らせた、という状況もあったわけで、このペースで行けば「都心発」の感染拡大はかなり減らせるかな、と。

もちろん、その分、東京の外側の報のエリアだったり、隣接県の状況が日に日に厳しくなっていたりもするのだけれど、ここは絶対に勝負どころ。

最近では、必要以上に「長期化」を憂いる声が増えてきているような気もするのだが、個人的には、一人ひとりが目の前の状況を咀嚼して、最低あと1か月くらいは徹底したリスク回避行動を取り続ければ、5月が終わる頃には光明が見え出すのではないか、とひそかに思っているところではある*3

試される「経産省Q&A」

さて、そんな今日、「新型コロナウイルス感染症拡大」の声に振り回され続けている株主総会の世界に、また一つ衝撃が走るような出来事が起きた。

既に前会長らが取締役選任の株主提案を出し、今月最大の「対決型総会」として注目を集めていた積水ハウス㈱の定時株主総会をめぐる仮処分の申立て、である。

※会社側のリリース
https://www.sekisuihouse.co.jp/company/topics/datail/__icsFiles/afieldfile/2020/04/17/20200417.pdf

元々、4月総会は、緊急事態宣言の発令等を受けて、既に10社以上が当初予定していた会場からの開催場所変更を強いられている状況なのだが*4積水ハウス㈱も例外ではなく、当初予定していたウェスティンホテル大阪から、同じ新梅田シティの敷地内(だがどういうスペースなのかは分からない)「梅田スカイビルタワーウエスト35階」への会場変更が発表されたのが一昨日のこと*5

そしてこれだけなら、今年はよくある話、ということで終わっていたのかもしれない。

だが、そこで提案株主の一人であり、かつ株主提案で取締役候補者にも挙げられている現取締役が仮処分の申立てを行ったことで、状況は俄然変わってきた。

会社から出されたリリースでは、会場変更の合理性に関して、以下のような説明がなされている。

「本変更等は、本定時株主総会の開催場所として「ウェスティンホテル大阪 ローズルーム」(以下「当初会場」といいます。)を予定していましたが、ウェスティンホテル大阪が、大阪府による、特別措置法に基づく使用制限等の要請が行われた施設として当初会場等の営業を休止(4月 14 日~5 月 6 日の間)することに伴い決定したものであり、本変更等は適法かつ適正に行われております。」
「なお、本変更等後の会場については、当初会場よりご用意できる席数がかなり限られる等の制約がございますが新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるためやむを得ないものであり、当社は、経済産業省及び法務省より示された新型コロナウイルス感染症拡大下における株主総会運営に係る Q&A」の考え方に則り、適法かつ適正に本変更等を実施しております。したがって、当社は、本定時株主総会の招集手続には何らの法令違反も不当な点もないと確信しております。」(強調筆者、以下同じ)

確かに、あのQ&A*6には、には、「会場に入場できる株主の人数を制限することや会場に株主が出席していない状態で株主総会を開催することは可能ですか。」という問いがあり、「可能です。Q1のように株主に来場を控えるよう呼びかけることに加えて、新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、やむを得ないと判断される場合には、合理的な範囲内において、自社会議室を活用するなど、例年より会場の規模を縮小することや、会場に入場できる株主の人数を制限することも、可能と考えます。」という回答まで明記されていた。

だからホテル側の事情もあったとはいえ、時世を鑑みて「席数がかなり限られる」スペースで総会を開催することは、この経産省(with法務省)のQ&A的には一種の模範解答、といえるものでもあるはずだった。

しかしそれでも起こされてしまった仮処分申立て・・・。


当然のことではあるが、いかにQ&Aに「法務省」が名を連ねていたところで、役所の出した解釈が適法性を担保してくれるわけでは全くなく株主総会の招集手続の適法性を判断するのはあくまで裁判所である。

そして、「Q&A」自体、外部の環境はともかく内容的には「平時」のまま総会が行われる*7ことを想定して作られたものと思われるだけに、今回の当事会社の総会のように、会社を追われた前会長が現体制に真っ向から勝負を挑む、しかもそこで問われているのは現役員体制下での会社のガバナンスの問題であり、情報開示に対する姿勢である、という状況の下で、「株主の健康保護と感染拡大の回避を優先させる」という今の「Q&A」の思想がどこまで肯定されるのか、読めない部分は残る。

会社側のリリースに記された、

「本定時株主総会の目的事項である株主の皆様への期末配当金の支払(剰余金の処分)や取締役・監査役の任期満了に伴う選任等は、法令に基づき本定時株主総会での決議が必要とされております。万一勝呂文康氏が求めるように本定時株主総会を予定どおり開催しないこととした場合、基準日が変更となり、本年 1 月 31 日を基準日とした株主様に対する期末配当金の支払いが不可能になる等、株主の皆様及び当社の経営に重大な影響が生じるおそれがあります

という「日程変更せずに総会を実施する理由」と、

「本申立ては、これらの当社が回避しようとした株主様及び当社の重大な不利益を生じさせるものであり、当社及び株主共同の利益に著しく反するものです。」

という主張が、株主側が守ろうとしている利益の重大性や日程を変えなければならない必要性との兼ね合いでどこまで認められるのか、ということは当然気になるわけで、これで株主側の主張が認められることになれば、「Q&Aをどこまで信用するか?」という実務サイドの感覚もかなり変わってくるような気がする。

既に裁判所すら「自粛」モードに突入している中、いかに仮処分事件だからといっても、審尋手続きを行って合議して、というプロセスを進めようと思うと、当事者も裁判所も、相当大変な思いをすることになるだろうと思うのだが、それでも万難を排して白黒を明示してほしいな、と思わずにはいられない話。

後世で振り返った時に、波乱続きの「株主総会2020」の中でも三本の指に入るような重要な局面だと思うだけに、この結果だけはきちんと見届けたい、という思いで今はいる。

*1:そもそもこの手の現金給付が景気対策として機能した例がこれまでどれだけあったのか、自分は寡聞にして知らない。

*2:仮に景気対策的側面を許容するとしても、正直、今給付を受けてポジティブな使い方ができるとも到底思えないので、ほとんどの人は口座の中に寝かせてそれで終わり、である。

*3:そして、今回の新型ウイルスが一貫して世の多数派の「予測」を裏切るような悪戯を続けていることを考えると、皆が「長期化」と言い出した頃にスッと波が引くように消えていく可能性だってあるんじゃないか、と非科学的に夢想したりもしているのである。

*4:その概況については、4月8日付のエントリーを参照されたい。k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

*5:リリースはhttps://www.sekisuihouse.co.jp/company/financial/holders/shotsu/data/__icsFiles/afieldfile/2020/04/15/20200415.pdfを参照のこと。

*6:紹介エントリーは、今日のCOVID-19あれこれ~2020年4月2日版 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~をご参照のこと。

*7:要は、事業報告、監査報告、会社提案の議案の説明、質疑、採決が淡々と進む「儀式」としての株主総会が行われる状況。

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