週末、時折降った雨のせいもあるが、外の空気がやたら冷たく感じられた。
これから向かっていくのは、自分が一年のうちで一番嫌いな季節。
ただ、競馬だけは別だ。
春先、他のメジャースポーツが軒並み沈黙する中、歩みを止めることなく「無観客」で黙々と開催し続けた、それがここからの3か月で実を結ぶ。
これまでと同じように日々を過ごし、楽しみを味わうことが難しかったこの2020年という年に、毎週末のプログラムを「当たり前」のように届けてくださった関係者の方々のご尽力を思うと、本当に頭が下がる思いなのだが、天はそんなシーズンに二度とめぐってくることのないような絶好の配剤を与えた。しかも二頭。
一頭目は、目下4戦4勝、既に牝馬2冠のタイトルを持つデアリングタクト。
そしてもう一頭が、先の週末に休養明け初戦を迎えたコントレイルである。
いずれも単に戦績が美しい、というだけでなく、ここまでの勝ちっぷりも破格、という点で、文句なしに「今年の主役」にふさわしい存在なのだが、特にコントレイルに関しては、デビュー戦から昨日の神戸新聞杯までの6戦、全て1番人気、と、同世代の中で全く格の違う存在になっている。
この週末、中京で迎えた神戸新聞杯での馬券の売れ方も別次元だった。
続く「19.9倍」という数字が大きすぎて、こちらも無敗だったグランデマーレが2番人気の支持を集めていることに気づかなかったし、ダービー3着のヴェルトライゼンデの単勝オッズも20倍を超えていた。
こういう状況になってくると、ターフの上でも馬券売り場でも、「一発かましたれ!」とばかりに逆張り戦術を取ろうとする者は必ず出てくるのだが、自分の長年の経験では、それはただ一言、”無駄”である、としか言えない。
ゲートを出てすんなり好位に付けた大本命馬を出し抜くように、坂井瑠星騎手が操るパンサラッサはペースを握るべく先頭に立ったし、同じ勝負服のダービー5着・ディープボンドも戦前の予想通り前でレースを進めていたのだが、決して長くはない直線、進路が開けた瞬間、鞍上がさほどアクションを起こすこともなく一瞬で他の馬を置き去りにしてしまったコントレイルの前では、見せ場を作るもへったくれもなかった。
結果、後に続いたのは自分の競馬を貫いたヴェルトライゼンデとロバートソンキー、ということになったのだが、中京の決して長くない直線、道中の位置取りからすると、これらの馬には”どんぐりの背比べ”に勝つだけの力はあっても、本命馬の寝首を賭けるような力も勢いもなかった、というべきで、レース後に「これで三冠当確」と言わんばかりの記事があちこちで踊ったのも、決して誇大表現ではなかったような気がする。
もちろん、これだけの人気にパフォーマンスを備えた馬でも、過去に遡れば「上には上」がいる。
本馬の父であるディープインパクト*1も、神戸新聞杯までの6戦、全て1番人気で1着、という実績を残しているし、「1番人気」といっても、皐月賞まで単勝2倍台の支持率だったコントレイルとは異なり、ディープはデビュー戦から「1.1倍」。生涯を通じて国内のレースでは単勝1.3倍以下に落ちたことがなかったような馬だったから、現時点では、コントレイルといえどもまだ父を抜けていない、という評価もあり得るだろう。
それでも、次の菊花賞、さらには3歳時に父が成し遂げられなかった有馬記念制覇、というところまでたどり着ければ、名実ともにコントレイルが「史上最強」の名を欲しいままにすることができるはず。そして、それは今や、決して手の届かない話、ということでもなくなりつつある。
興味深いことに、コントレイルが出走した神戸新聞杯には、「利息10%」の高利回り商品に消費者が殺到したのか!?と叫びたくなるくらい、巨額の資金が流れ込んだ。
GⅡとしては異例の約84億円の売上は前年同レースの約2倍(対前年比∔90.5%)、それが牽引して東西の売上合計額も約304億円に。
一部のメディアでは、「9頭立てだった東のメイン、オールカマーが馬券妙味を欠いていたために、中京メインに回る資金が増えたのではないか」という仮説が開陳されていたし、実際の馬券の売上を見てもそれは多少うかがえるところなのだが*2、それだけでは説明できない”社会現象の兆し”もここには眠っているような気がして・・・*3。
「コントレイル」の語源は飛行機雲。そしてこれからの季節は、そんな飛行機雲が澄んだ空に一番映える季節。
今年のフィナーレを迎える頃には、父を超え、名実ともにこの馬が「史上最強馬」のポジションを手に入れていると信じつつ、これからのドラマを見届けたいと思っている。