たった一つの勝利が遠い夏。

日増しに気温が上がり、不快指数も増していく。そんな季節になってきた。

そして週末のターフに目を移せば、今はまさにピカピカの2歳馬と、泥沼の3歳馬が交じり合う、そんな時期でもある。

この時期は、毎週、各競馬場で3歳未勝利戦が4~5レースくらいは組まれていて、どのレースもほぼフルゲートだから、連日200頭くらいがひしめき合って砂の上、芝の上を駆けていく。だが当然ながら、そこから抜け出せる馬は、各レース1頭ずつしかいない。

勝ったところでようやく「スタートライン」に立つだけで、さほど注目もされない。一方で負けると再び同じ舞台、より苦しい状況で次のレースに臨まなければならない。ここ数年のルール変更*1により、負け方によっては事実上早々と引退ないし地方行きに追い込まれてしまう可能性すらある。

時計の針を遡って、1年ほど前までは、ここに出てくるどの馬の馬主も、(大小はあれど)期待に胸を高鳴らせていたはずなのだ。

特に「プロ馬主」ではなく、なけなしの金をはたいて何百分の一、何千分の一の出資持分を持っている一口馬主のクラブ会員たちにとっては、2歳戦が始まる直前が一番ワクワクする瞬間、と言っても過言ではない。

特に、価格高い競争率を潜り抜けて抽選で良血馬の一口権利を勝ち取ったような人であれば、新馬戦がとにかく楽しみで仕方ないはずだし、持ち馬がそこまでの良血ではなく、POGでも名前が上がらないような馬だった場合でも「走ってみなけりゃわからない」と自分に言い聞かせて、クラブのウェブサイトで更新される調教コメントの中に少しでもポジティブな言葉があればそれに浮かれることになる。

夢を見るのは自由。でも、現実は甘くない。

ルメール騎手が乗って1番人気を背負ったような馬でも、負けるときは負ける。

気を取り直して2戦目、3戦目できっちり勝ち上がれればまだよいが、なぜか変なサイクルにハマってなかなか勝てない馬も多いし、ある日突然、骨折や歩様異常が判明して長期休養に追い込まれる馬だって決して少なくない。

そうこうしているうちに年が替わり、夢見ていたクラシックロードに乗ることはもちろん、「未勝利」の看板を外すことさえできないまま、春が過ぎ、そしてこの季節になる・・・。

自分の場合、一口出資を始めてからもう10年以上経っているから、最初の何走かの走りを見れば、無理な馬は無理だな(相変わらず見る目がなかったな・・・)ということが分かってしまうし、過剰に夢を追うこともない。

ただ、抱えているのが、自分としては購入時にそれなりに勝負をかけたつもりで、デビュー戦も上々、2戦目には早くも勝ち馬とクビの差2着、というくらいのところまで来た、という馬や、価格は安いけど丈夫そうだな、と思って買って、何度もレースを繰り返すたびにちょっとずつ前進してここまで頑張っている馬だったりすると、この時期はさすがに祈らずにはいられなくなる・・・。


この週末、自分の未勝利の出資馬が2頭もレースに出た。

一頭は昨年の秋の時点で、未勝利脱出あと一歩、のところまで行っていた馬。もう一頭はデビュー当初こそ苦しいレースが続いたものの、走るたびに力を付け、いつのまにか未勝利戦で勝ち負けになるようなレベルにまで成長してきた馬。

いずれも前走2着。当然レースでも人気になる。

だが、運命は残酷だ。

前者はスタート良くレースを引っ張ったものの、久々の出走だったこともあって最後の直線、息が持たず、あえなく掲示板外の着順にまで落ちてしまう*2

さらにもう一頭は、数多いレース経験で培われた勝負根性を見せて馬群から一歩抜け出し、勝利を十中八九確信したところで外から差されて再びの2着。

「2着」に入るだけの実力があるなら、あと2カ月もあれば勝ち上がれるだろう、と傍目には思えてしまうかもしれないが、そこから「たった1つ」着順を上げることの難しさと言ったら・・・。

過去には、未勝利戦で2着、3着と善戦を繰り返しながらも結局最後まで勝てなくて、泣く泣く地方転出や引退を見守るしかなかった、という馬も一頭や二頭でなく持っていたものだから、「たった一つ」がいかに面倒な壁か、ということも当然理解はしている。そして、そこで勝つか負けるかで、その後の馬生にも大きな影響が生じることになる。

だからこそ、今日負けた2頭が、最後の最後まであきらめずに走り続けてくれることを自分は信じたいし、その結果「未勝利戦脱出」という朗報を聞けるようになることこそが、今の自分の心からの願いだったりもする。

手に入れることが大変なものだからこそ、手に入れたときの喜びもまた大きい。

それが分かっているからこそ、あと2カ月ちょっとの間、祈りを届け続けなくては・・・と思った次第である。

*1:2019年度から3戦連続で8着以内に入れない3歳以上の未勝利馬には2カ月間の出走停止、という制裁が科されることになってしまった。

*2:5着以内であれば、負けてもその次のレースの優先出走権を得られるからよいのだが、6着以下になってしまうと、ひしめき合う今の未勝利戦で狙った時期に出走枠を確保することさえ難しくなってしまう。

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