「甲子園」に見る「人材育成」の光と影。

しばらくバタバタしていて、家に届いたまま放置してしまっていたのだが、ようやく読んだ直近のNumber誌。
特集は季節を反映して、ここ数年この雑誌が看板にしている「夏の甲子園」絡みの内容で、特に高校野球の「教育」的観点を強調した構成になっていたのだが、先日の大船渡の一件*1との関連で、ちょうどいい具合にタイムリーな記事が多いな、と思いながら眺めていた。

何といっても、最初に出てくるのが、大谷翔平選手と菊池雄星選手、そしてあの岩手県が誇る甲子園常連校・花巻東のチームメイトたちが、そろって「佐々木洋監督の教え」の素晴らしさを語る企画で、監督ご本人こそ登場しないものの、「『楽しい』より『正しい』を。」(大谷選手の記事タイトル)とか、「監督を男にしたかった。」(菊池選手の記事タイトル)といった美しい感じの記事が続く。

確かに、菊池選手も大谷選手も、高校時代からの注目そのままにプロでも活躍し、遂にはメジャーリーグに進出する、という夢(目標)まで叶えているし、その原点になっているのは、既に「先進的な指導者」という評価が定着しつつある佐々木監督の、高校時代の教えがある、ということはあちこちで言われていることだから、”真剣勝負を経ながら良質の素材を開花させるために育てる場”という高校野球の「光」の部分を語るには、まさにうってつけだったのだろう*2

で、そこまでは理想的な展開だったのだが、だんだん時代が遡り、伝統校、強豪校の話になってくると様相が変わってくる。

山の中で疲労骨折するまで全力疾走させられたエピソードが出てくる大阪桐蔭高校、春の選抜で1回戦で負けたことを理由に主将交代を言い渡されたエピソードが出てくる横浜高校。いずれも出てくる選手は、今プロで活躍できている選手たち(中田翔選手、近藤健介選手)なので、振り返って「良い話」にできるのだろうけど、読む側には、そういう厳しさの中で表に出ることができないまま人生を歩んでいる野球部員たちへの想像力を働かせることも多分必要になる。

そして極めつけは、PL学園研志寮 理不尽の先の光と清原和博。」というタイトルの記事*3

副題に「昭和の象徴」とあるとおり、まさに一時代前、今では野球部すら消滅してしまった学園の話とはいえ、”ホラー小説か!”と突っ込みたくなるようなおどろおどろしい話がこれだけ生々しく書かれていると、子供の頃、テレビの中のキラキラした「PL」しか眺めてこなかった者としては、何とも言葉が出てこない・・・。

勝者に当てられるスポットライトがあまりに神々しく、(ある程度のところまで行けば)敗者にすら注目が向けられる、という点で、「高校野球」という舞台は今に至るまで特別な存在になっている。そして、それゆえに、そこでの指導者のやり方や言動が一種の「組織論」「人材育成論」の文脈の中で使われることは多いし、本誌もまさにそういった企画になっている。

好き嫌いはあれど、本誌に出てくる”名将”たちの振る舞いや言葉には、なるほどと感じさせられるものが多いのも間違いない。

ただ、人生表裏いろいろ見てきた世代の人間としては、様々な”称賛”も”批判”も多くは”後付け”の話のように思えてならないところもあって、「甲子園で活躍して、その後も安定した人生を送っている元球児」とか「甲子園には出られなかったけど、その後、プロやアマチュアの世界で野球人として生きていけている元球児」の回顧だけで「誰かのやり方」のイメージを肯定的に膨らませるのは、ちょっと危険なところもあるのではないかと思っている。

そのやり方が肌に合って、未だに恩を感じている人もいれば、いろんな事情でそれが合わなくて、未だに「あの頃」がトラウマになっている人もいる・・・

そういう光と影があるのが「組織」の宿命だし、「人材育成」の限界だと思うので*4

なお、Numberの特集は次号も続くようなので、おそらく大船渡高校の「登板回避」問題もその中で取り上げられるのだろうけど、今号で興味深かったのは、「高校時代の東海大相模での3年間は辛く、苦しい思い出しかなかった。」と語り、自ら夏の神奈川県大会で連投を強いられた菅野智之投手*5が以下のように語っているくだり。

「県大会で優勝して甲子園に出て、そこでまた優勝することだけが高校野球じゃない。指導者や周囲がそう考えれば、もっともっと戦い方も変わってくる。一番手っとり早いのはルールとして、球数制限を作ること。試合のスケジュールもそうですし、燃え尽きないための普段からの導き方、コーチングが指導者の大人たちに求められるところなのかなと思いますね」(65頁)*6

そして、「エンジョイ・ベースボール」を掲げる慶応義塾高校の森林貴彦監督が、

「どうして丸刈りなんですか?と子どもに聞かれた時に『高校野球は昔からそうだったから』と大人が答えるのは悲しすぎませんか。因習がそうさせているに過ぎないんです。」
「今までの社会は、監督、先輩の言うことを素直に聞くという意味で、高校野球で育った人材が高く評価されてきました。高度成長期だったら、それでよかったのかもしれない。しかし、これからは違います。」
(メディアに対して)「甲子園を感動的に報道する『文法』が存在していると感じます。」(以上75頁)*7

と、自校のリベラルな視点から現状に異議を唱えた上で、自分たちのスタイルを主流にするためには「勝つこと」しかない、と言い切り、

「このスタイルで甲子園で優勝したらどうなるか?日本のスポーツ界に大きな影響を与えられるはずです。」(同上)

と断言されているところはカッコいいな、と思うと同時に、アプロ―チが菅野選手が語るそれとあまりに対照的で、これまた考えさせられることになった*8

戦術や指導法の良しあしを示す指標として、目に見える「結果」というものがあるのが競技スポーツの良いところなので、好みのスタイルの監督なりチームなりには、勝ち負けにこだわって「勝って」ほしい、という思いはある一方で、そこを突き詰めすぎると元のスタイルまで変容しかねないのでは? という疑問もわいてくるわけで・・・。

これから始まる夏の全国大会で飛び出すのが「美談」なのか「罵声」なのかは蓋を開けてみないと分からないけど、自分は、その両者の影にあるあれこれを想像しながら眺めてみたいと思っている。

*1:エントリーは「非常識」でも「英断」でもない、冷静な判断。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~を参照のこと。

*2:菊池選手と同期で明豊戦で決勝タイムリーを打った川村悠真主将が、岩手大を経て母校のコーチを務めている、というエピソードも実に美しいストーリーである。

*3:鈴木忠平「PL学園研志寮 理不尽の先の光と清原和博。」Number983号47頁(2019年)。

*4:誰にも嫌われず、誰にも苦痛を与えなくなければ、「存在感のない」指導者であり続けるのが一番の方法だと思う。もちろん、自分はそれを勧めるわけでもそれを目指しているわけでもないのだけれど、昨今の世相からして、そう遠くないうちに「何もしない」ことが指導者、管理者が生き残る最善の道、という方向に行ってしまいそうな気もして心中は複雑である。「高校野球」と違って、実際のマネジメントの世界では、分かりやすい「結果」で方向性が間違っていないことを示すのが難しいだけに、なおさら・・・。

*5:結局、チームは決勝で桐光学園に敗れ3年間で一度も甲子園に出場できないまま高校生活を終えた。

*6:鷲田康「遠回りは、意外と近道。」Number983号62頁(2019年)より。

*7:生島淳「Enjoy Baseballの正体。」Number983号72頁(2019年)より。

*8:奇しくもこの夏の予選では、4回戦で東海大相模慶応義塾高校が対戦し、慶応が3-16で5回コールド負け、という結果となっている。

サプライズなき資本の論理~それでも明日は来る。

アスクルの定時株主総会が行われ、以下のような結果となった。

筆頭株主のヤフーと社長らの再任を巡って対立しているアスクルが2日、東京都内で株主総会を開いた。約45%を出資するヤフーが業績低迷を理由に岩田彰一郎社長と独立社外取締役3人の再任に反対し、4人の再任議案は否決された。」(日本経済新聞2019年8月2日付夕刊・第3面、強調筆者、以下同じ。)

昨日のセブンペイ同様、こちらも先月からかなり話題になっていた件だったが、この話の”サプライズ”的要素は、「社長再任拒否」という話が最初に出てきた時点と、その後の「社外取締役も再任拒否」という話が出てきた時点で尽きており、第1位株主と第2位株主が同じ意見で議決権を行使することを表明していた以上、今日こういう結果になった、ということに意外な要素は何一つない。

もし、これが池井戸潤氏の小説だったら、主人公(前社長?)が総会の会場で大演説をぶって大株主が賛否の態度をひっくり返す、とか、いや、そこまで行く前に凄腕の弁護士が現れて大株主の議決権行使を無効にしてしまう、とか、スカッとするような大逆転ストーリーが展開されたかもしれないが、現実はそんなに甘くない。

会場の雰囲気は再任を拒まれた岩田前社長の支持ムード一色だった、とか、大株主出身の取締役に対しては誰も拍手を送らなかった、とか、いろいろと情報は飛び交っているが、それでも株主総会の場では、議決権行使の結果が全て。

かくして、午後の取締役会では、独立社外取締役不在、という異常事態の中、新社長が選任され、以下のような「人事異動」のリリースも淡々と発表された*1

(8月2日)社長兼CEO(取締役BtoCカンパニーCOO)吉岡晃▽BtoCカンパニーCOO、取締役兼執行役員CMOライフクリエイション本部長兼バリュー・クリエーション・センター本部長木村美代子▽退任(社長)岩田彰一郎▽同(取締役)戸田一雄▽同(同)宮田秀明▽同(同)斉藤惇

今週も、月曜日からヤフー、アスクル両者のプレスリリースを追いかけていく中で、「最後の最後で叡智を絞った協議の末、何らかの落としどころが見つかるんじゃないか?」とか、「せめて独立社外取締役の不再任だけは回避できるのではないか?」といった微かな期待を抱かなかったかと言えば嘘になるし、あちこちから憂慮の声が発せられながらも、決して拳を振り下ろすことなく最初の勢いのまま押し切る形になったヤフーの対応に関しては、「本当にこんなやり方でよかったのか?」等々言いたいことはいろいろあるのだけど、今の法制度の下では多数の議決権を有している株主が最後は勝つ、という現実を曲げることは残念ながらできない。

ということで、少々虚しさはあるが、改めて今週の動きを振り返ってみることにする。

7月28日
アスクルアスクル株式会社 独立役員会による 「ヤフーによるアスクル企業統治を蹂躙した議決権行使を深く憂慮する声明」提出について
https://pdf.irpocket.com/C0032/GDpy/BOJ5/AgB0.pdf
7月29日
ヤフー:アスクルの第56回定時株主総会における 取締役選任議案(第2号議案)の議決権行使について
https://about.yahoo.co.jp/pr/release/2019/07/29a/
アスクル:ヤフー株式会社の 7 月 29 日付プレスリリース「アスクルの第 56 回定時株主総会における取締役選任議案(第 2 号議案)の議決権行使について」について、および本件に関する当社から経済産業省東京証券取引所へのご報告について
https://pdf.irpocket.com/C0032/GDpy/BW8i/nBtl.pdf
7月30日
アスクル:当社からヤフー株式会社、プラス株式会社に対する「株主総会に係る質問書」、および両社からの回答について
https://pdf.irpocket.com/C0032/GDpy/MIkr/u2Z8.pdf
7月31日
ヤフー:アスクルにおける第56回定時株主総会および 「ヤフー株式会社に対する当社株式の売渡請求の件」を目的とする取締役会について
https://about.yahoo.co.jp/pr/release/2019/07/31a/
アスクル:8 月 1 日取締役会における当社株式の売渡請求審議の延期について
https://pdf.irpocket.com/C0032/GDpy/JLrB/UITi.pdf
アスクル:日本取締役協会による「緊急意見 日本の上場子会社のコーポレートガバナンスの在り方」発表について
https://pdf.irpocket.com/C0032/GDpy/LBpf/Icf1.pdf
8月1日
アスクル:日本コーポレート・ガバナンス・ネットワークによる「支配株主を有する上場会社のコーポレート・ガバナンスに関する意見」公表について
https://pdf.irpocket.com/C0032/GDpy/LBpf/Icf1.pdf

先手を打ったのはアスクルの独立役員会だったが、ヤフーが間髪入れずにビジュアル資料を使って議決権行使の正当性を説明、これに対しアスクルが正面から反論するとともに、ヤフーの主張の矛盾を突く。
翌日、アスクル株主総会の運営に係る「質問状」と「回答」を公開し、ヤフー側代理人弁護士の存在も世に出ていよいよ対決ムード全開か?という雰囲気が漂っていたのだが、翌31日、株式売渡請求権行使について審議する予定だった臨時取締役会の開催延期をアスクルが発表したところで潮目は変わった。

このプレスリリースの中で、アスクルが、

「当社のこれまでの主張は、ガバナンスプロセスを無視した退陣要求がなされた点についてのものであり、岩田社長の保身は全く目的としておりません。議決権行使の結果として岩田社長再任がされないことについて、当社は一切異論ありません。」

と書いてきたのを見て、自分は、アスクルも既に「総会後」を見据えたモードに入ってきたな」という印象を受けた*2

そして、本日公表された「本日の取締役記者会見について」というアスクルのリリース。
https://pdf.irpocket.com/C0032/GDpy/KIxq/NThS.pdf

「今回、2000 年 10 月以降前代未聞となる独立社外取締役が一人もいないという異例な状況になったことは、当社として大変遺憾であり、速やかに新たな独立社外取締役を選任するための手続を進めていきたいと考えております。」

というくだりまでは、これまでと同様のトーンで書かれているが、最後の「4.ヤフーとのこれからの関係について」の箇所で書かれている内容は、これまでとはだいぶ異なる。

(1) 現時点において、資本関係を解消したいという基本スタンスは変わっておりませんが、提携を解消するということについて、直ちにゼロか百かということではなく、両社にとってよりよい関係の模索のための協議を速やかに開始したいと考えております。拙速な判断をすることなく、あらゆるステークホルダーにとって最適な解を模索してまいります。
(2) 8 月 1 日付の株式売渡請求権行使の取締役会審議を延期した理由は、プレスリリースで公表したとおりでありますが、もともと当社は訴訟が最適な道であるとは考えておりませんでした。今後の売渡請求権行使について、今後のヤフーとの協議を注視しつつ引き続き慎重に検討してまいります。

戦い終わって垣間見える”ノーサイド”の精神、というべきか、最後も「当社は、すべての株主の利益*3のため、企業価値を最大化する経営に今後も最大の努力をしてまいります。」という、美しい言葉で締めくくられている。

思えば、約半月にわたって双方がプレスリリースで「会社のガバナンス」の在り方に関する応酬を繰り広げ、アスクル側には上村達男名誉教授、久保利英明弁護士といった大御所から日本取締役協会まで、ヤフーの側でもなぜかレオス・キャピタルワークスといったように、強いキャラクターの脇役も数多く登場して盛り上がった(?)このバトルだが、結局のところ、これから関係者が本当に考えないといけないのは、「LOHACO事業のこれからをどうするか?」とか、そもそも「立て直し途上のアスクルの経営をどうやって回復軌道に乗せるか?」といった経営の本筋の話であろう。

「独立役員の存在が企業経営に有効かどうか」といった問いに対する「答え」を定量化することは困難だが*4、「経営実績」は明確な数字として出てくるわけで、今回、岩田前社長を経営トップの地位から引きずり下ろしてまでやりたかったことが実現できたのかどうか、半年後、1年後に、ヤフーに対してもその結果は容赦なく突きつけられることになる。

より悪い方に流れが行った時に、「当社は一株主に過ぎません。遺憾ではありますが、アスクルの自主経営を尊重した結果なので、責任は現経営陣で負っていただきます」といったようなリアクションが出てくることはよもやないだろうから、外野の人間としては、最後の一週間、沈黙を貫いたプラス株式会社*5の動きとともに、これからの、親会社としての、リアルな経営手腕を見届けたいと思っている。

なお、日本経済新聞社から昨年末に出版された以下の一冊。岩田前社長が流通業界の旗手として「対談」にも登場されている。

物流革命 (日経ムック)

物流革命 (日経ムック)

”名経営者”と崇められた人が、一夜にして貶められる、というのは、カルロス・ゴーン氏の例を見るまでもなく世の中にいくらでもある話なのだが、一種の社内ベンチャーから会社を興し、この苦しい状況下でも記者会見等で気骨ある姿を見せ続けてきたこの経営者の今後にも、個人的には注目していきたいところである。

*1:正式なリリースのリンク先はhttps://pdf.irpocket.com/C0032/GDpy/syzj/JgtH.pdf

*2:一方で、独立社外取締役の再任拒否に対しては、関連する他団体のリリースも載せる等、引き続き強い反対姿勢を示していたので、ここが折れシロなのかな?と思っていたのだが、その予想は残念ながら見事に外れた。

*3:これまでは「少数株主の利益」を強調する形のリリースが多かったが、ヤフー、プラスも含む「すべての株主」というワードに、「戦後」モードの全てが集約されているような気がする。

*4:時々、それを試みようとしている例を見かけるが、それぞれの会社で経営の前提条件が全く異なる以上、「定量化」の作業にはほとんど意味がないと自分は思っている。

*5:その代わり、というわけではないのだろうが、対決が佳境に差し掛かっていた7月30日に、明日8月3日を「文具はさみの日」に制定する、という洒落たリリースを出していた(プラス、8月3日を「文具はさみの日」に制定 記念日登録証授与式を開催|PLUS プラス株式会社/PLUSグループ)。

月が替わって最初のニュースが・・・

梅雨が明けてからまだ数日、というタイミングなのに、さすがは日本の夏、容赦なく熱波が襲ってくる。
それでも、新しい月になって何となく気持ちが上向いていたところに、とんでもないニュースが出て来た・・・。

www.nikkei.com

まぁ確かに、先月のサービス開始数日での不正利用騒動のインパクトが大きかったのは確かだが、あの天下のセブン&アイが、開始の翌月に「翌々月末でのサービス中止」を打ち出さざるを得なくなることまでは、おそらく先月の騒動後ですら、誰も想像してはいなかっただろう。

スマホ決済がなくても、IC決済インフラが十分整っている会社だからこそできた話、という見方もあるだろうけど、このご時世、批判が世の中に拡散するのも一瞬だし、それを受けて当局が動き出すタイミングも、「表」「裏」の双方で会社が追いつめられるスピードも速い、ということで、いろいろ考えさせられることが多い1か月のスタートの日だった。

ありふれた言葉で恐縮だが、「これを以て他山の石とせよ」。それに尽きる。

2019年7月のまとめ

月末になって、ようやく長い長い梅雨が明け、かろうじて本格的な夏が到来した今年の7月。
でも、梅雨明けからわずか数日しか経っていないのに、既に昨年よりはるかに長く夏の陽射しを感じられたような気がして、今こうやって幸福な時間を過ごせることに心から感謝している。

ブログのアクセスもおかげさまで、先月をさらに上回る36,000超のPVを記録。
7月月間の数字で言うと、7年ぶり、開設以来2番目の数字、ということで、本当にありがたいな、と。

そして、一発のBuzzった記事でPVを伸ばした先月とは異なり、今月はリピーター読者の方々がじっくり読んでいただいているのかな、というのも何となく分かるデータになっているので(セッションは19,000弱、ユーザーは10,100強だから、先月より少し減っているが、その分リピーター率増、直帰率減、という数字も出ている)、それも嬉しいところではある。

来月は休暇シーズンで例年アクセス数が減りがちな月だし*1、これ以上欲張ると、何が本業だかわからなくなってしまうので、ほどほどにしておくつもりだが、自分自身もより一層心を落ち着かせることができる時期だと思っているので、そんな中で表現できる何か、をまた探していきたいな、と。

<ユーザー市区町村(7月)>
1.→  新宿区 1,290
2.↑ 千代田区 1,174
3.↓ 大阪市 1,109
4.→ 港区 1,049
5.→ 横浜市 789
6.↑ 名古屋市 357
7.↓ シカゴ 298
8.→ 渋谷区 283
9.→ 世田谷区 229
10.圏外京都市 197

今月はあまり大きな変動はなかったのだが、来月は読者の皆様の動きに合わせて、アクセス元がいろんなところに(国外も含め(笑))分散することを今から期待している。

続いて検索ワードより。

<検索アナリティクス(7月分)合計クリック数2,960回 > ※2019年8月3日追記
1.→ 企業法務戦士 195
2.↑ 企業法務戦士の雑感 34
3.↑ 企業法務 24
4.圏外取扱説明書 著作権 23
5.圏外三村量一 22
6.↓ 矢井田瞳 椎名林檎 21
7.圏外説明書 著作権 16
8.↓ 企業法務 ブログ 15
9.圏外 ワタシから始めるオープンイノベーション 13
10.圏外 古地図 著作権 13

圏外から、裁判例を調べたんだろうな、という組み合わせがちょくちょく浮上しているが、元知財高裁判事のお名前が出てきている理由は、現時点では不明・・・。

最後に、書籍の売り上げは、今月も右肩上がり。
特に、「法律時報」とか「年報知的財産法」といったあたりをクリック購入してくださった方が多かったのは、勧めた側としても嬉しかった。
硬派な雑誌、硬派な企画書は、きちんと人に読まれてこそ、だと思うので。

<書籍売上ランキング(7月分)>
1 法律時報 2019年 07 月号 [雑誌]

法律時報 2019年 07 月号 [雑誌]

法律時報 2019年 07 月号 [雑誌]

2 年報知的財産法2018-2019

年報知的財産法2018-2019

年報知的財産法2018-2019

3 ハローキティに見る グローバルなブランド拡張戦略 DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文

4 ジュリスト2019年 08 月号 [雑誌]

ジュリスト 2019年 08 月号 [雑誌]

ジュリスト 2019年 08 月号 [雑誌]

あと、筆者に付き合って(?)サザコーヒーをリクエストしてくださった方もいらっしゃって、それはそれで感謝である。
もし初めて購入した方がいらっしゃったのであれば、是非、飲んだ感想をお伺いしてみたいものである(ちなみに我が家では既に3巡目のオーダーに突入している・・・)。

*1:ただし、夏休みのレポートに追われる学生のニーズなのか、一部の判例解説記事に関してはアクセスが伸びる傾向がある(笑)。

どこまでも、完璧過ぎたから・・・。

ディープインパクトが、逝った。

自分は「強すぎる馬」は決して好きではない。
大きいレースになればなるほど、”絶対的本命”視された馬に、何かとケチを付けて買わない口実を探し、結果的には順当に収まっているのに、「今日は運がなかっただけ」と呟くしょうもない人間である。

だから、「無敗の三冠馬」、「4歳で国内GI4連勝」、「引退レースでも完璧なまでの勝利」、「種牡馬としてもGI馬続々輩出」、「7年連続リーディングサイヤーと、まぁ普通に眺めれば非の打ちどころがないこのタイプの馬に熱狂する要素は本来何一つない。

それでも、なぜか現役時代から、この馬だけはあまり嫌いにはなれなかった。いや、むしろ、なぜか大レースの時はこの馬を応援していた*1

当時、先々の見通しがあまり立っておらず、迷走していた自分にとって、「無敗のまま全ての中長距離GⅠレースを制覇してくれるんじゃないか」とか*2「日本馬初の凱旋門賞に手が届くんじゃないか」*3といった、途方もないことを実現する一歩手前まで突き抜けてくれるこの馬の存在は、一種の希望だったのか・・・。

種牡馬になってからは、高額な種付け料や、「親のブランド」に起因する高評価の割に、産駒が大舞台では今一つ力を発揮できていなかったことなどから、ディープインパクトに対してはシニカルな目を向けていたことが多かったし、実際、自分が好きなキングカメハメハハーツクライに比べると種牡馬としての力は一枚落ちるのではないかな、と思いながら見ていたところはある。

だけど、まだ産駒が第一線で活躍しているさなかに訃報に接し、金子真人オーナーから池江泰郎調教師、市川昭彦厩務員に武豊騎手まで、現役時代に関わった方々のコメントを見聞きすると、一気に記憶は遡り「やっぱり偉大な馬だったんだよなぁ」という思いと、「もう少し長生きして「余生」まで楽しんでほしかったな」という思いが、どうしても湧いてきてしまう。

17歳、と聞くと早いようだけど、先日亡くなったウォッカディープインパクトより何年か下の世代だし、種牡馬組では同世代のカネヒキリも既にこの世を去っている。
そもそも、父・サンデーサイレンスも、長く種牡馬として活躍していたような気がしたけど、亡くなったのは16歳の時のこと*4

ゆえに、早逝を惜しむより、「デビューしてから亡くなるまで、最後まで優等生として、衰えた姿を見せることなく生き切った」ことを称えるべきなのかもしれないが、あと数年も経てばデビューする馬の父馬の欄から「ディープインパクト」が消えるかと思うと、やっぱり寂しく感じるところはある。

果たしてこの先、ディープインパクトのサイヤーラインが順当に継承されるのか、それとも「母父」という形でしか生き残ることができないのか、そういったところは運に委ねるほかないのだけれど、最後は、13年前の有馬記念を見て自分が感じたことをありのまま書いた当時のエントリーをアップすることで、最大の哀悼の意を表することとしたい。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

*1:さすがに単独で馬券を買ったのは、「三冠」がかかった3歳の菊花賞単勝一度きりで、あとは応援しつつワイドの2‐3着の組み合わせを探すか、3連単、3連複の軸馬として活用する程度だったと思うが、熱狂的に応援していたナリタブライアンが絡む馬券ですら、クラシック三冠の時までは一切買っていなかった人間としては、かなり珍しいケースである。

*2:残念ながら3歳最後の有馬記念で、刺客ハーツクライに足元を掬われてこの夢は途絶えた。皮肉なことに、種牡馬になってからはハーツクライ産駒の方が自分の好みだったりもする。

*3:これも残念ながら・・・というか、かなり悲劇的な結末となってしまった。

*4:ちなみに、サンデーサイレンスがこの世を去った2002年に生まれたのがディープインパクト。こういう歴史は繰り返すものだけに、今年セレクトセールで落札された当歳馬の中にいた2019年生まれのディープインパクト産駒9頭のどれかが「最高傑作」となっても不思議ではないかな、と思っている(最高額は近藤利一氏が4億7000万円で落札したタイタンクイーンの2019だが、一見すると見栄えはよくないビーコンターンの2019あたりで血が爆発すると、日本の競馬も面白くなるんだけどな、と何となく思ったり。

最近の法律雑誌より~2019年8月号(法律時報、ジュリスト)

昨日、ジュリストのHOT issueの紹介だけで一エントリーを立ててしまったところでもあるので、恒例のこちらの企画の方は、2誌まとめる形にさせていただいた。
とはいえ、今月も興味深い記事が多く(特に法律時報)、本格的な夏が始まり、仕事も少し落ち着いた頃にじっくり読んでみるにはちょうど良いのではないか、と思った次第である。

法律時報91巻9号(2019年8月号)

■特集 平成の法学

何といっても迫力満点なのは、基本六法を中心に「平成」30年間の学会動向を回顧したこの特集だろう。
憲法に関しては、そもそも”元号”というくくりで学会を回顧することが忌避された感はあるが、それでも蟻川教授が平成の世に顕在化した「天皇」の位置づけについて興味深い論文を書かれているし(蟻川恒正「天皇憲法解釈」法律時報91巻9号9頁(2019年))、その他の法領域に関しては、平成初期から最近に至るまでの大きな流れがコンパクトにまとめられていて*1、いろいろ考えさせられるところも多い。

議論の主流が、理念的・体系的見地からの議論から個別の場面における解釈論、利益衡量論に移っていった、と評価されている分野(行政法刑事訴訟法)もあれば、逆の傾向が指摘されている分野(民事訴訟法)もある。そして、そういった動きに「法科大学院」と「新司法試験」いう新しいインパクトが大なり小なり影響を与えている、というのは、少なくとも後半20年くらいの各分野の「教科書」の”変貌”を身に染みて感じている世代としては、いろいろと腑に落ちる中身であった。

個人的に一番面白かったのは、この30年の間に、急激に「立法論」への進出が試みられた民法会社法の見事なまでのコントラストだろうか。

「『第三の法制改革期』の当初においては、民法学者の任務の中心が解釈論から立法論に移るのではないかという見通しも示されており、実際、特に債権法改正に際しては、民法学者が立法論に注力することとなった。しかし結局のところ、『学問的理由による改正』は拒絶され、『革新よりも現状維持を』という結果に終わった、というのが、法制審議会で債権法改正に関与した民法学者の評価となっている。」(阿部裕介「『第三の法制改革期』の民法学」25頁、強調筆者、以下同じ。)*2

「政策的提言への需要が高い中で、統計的手法による数値化やモデルを用いた行動予測などのインパクトが強い分析は立法論的主張と捉えやすいものの、制度や環境と法規定との間の矛盾や相補関係を指摘するこうした作業は、実際には非常に慎重な解釈論と位置付けるべきものであろう。こうした作業を通じて、会社法社会学的傾向を帯びることとなり、基幹科目としての講学上の難しさを生むとともに、会社法の解釈に含まれる価値判断の質については、隣接分野であるはずの『民法学』とのスタンスの差が開いているとも評されるようになってきた。」(松井智予「平成年間の会社法33~34頁)*3

「実務」との距離感とか、「学者の本分は何か」という話とかと絡んで、どちらの方向性が良いか悪いか、という評価をできるるような事柄ではないと思うのだけれど、法改正のたびに実務サイドの利害関係者の対立が先鋭化するような分野も多いだけに、比較法的観点も含めて「学問的見地からはどうなのか」ということを中立的に語ることができる(はずの)法学者の存在意義はこれからより高まっていく(べきだ)と自分は思っていて、その意味で、まだまだこれからですよ、というのが、民法の世界の先生方に向けたコメントになるだろうか*4

なお、メンバー的に民法にフォーカスされた中身とはなるが、学部教育からロースクールでの教育、さらに研究者養成に向けた思いまで、「変化の過程」を振り返る座談会(中田裕康=松岡久和=小粥太郎=鎌田薫[司会]「平成の法学教育-民法分野を中心として」法律時報91巻9号76頁(2019年))も、実に読み応えのある内容なので、ここでお勧めしておきたい。

■その他の記事より

その他の記事の中で、読み物として一番面白かったのは、米国の公設刑事弁護人事務所で常勤スタッフとして働いている時に、「海外でも国民審査を!」と違憲訴訟を提起した弁護士さんの話(谷口太規「在外国民審査権違憲判決の来歴-東京地裁2019年5月28日判決」法律時報91巻9号4頁(2019年))。

フェイスブックの書き込みから原告団弁護団が結成される、というのがいかにも現代的ではあるのだが、「人々が暮らしの中で違和感を感じた時、何か不正義に出会った時、それについて声を上げる際の方法論として、司法の場はもっと使われるべきだと思う。」(6頁)というフレーズは自分にもよく響く。

続いて、最高裁調査官解説を読むときの興味深さが増すのが、千葉勝美=上田健介=片桐直人=木下昌彦=堀口悟郎「[座談会]千葉勝美・元最高裁判事との対話」法律時報91巻9号96頁(2019年)。座談会ではもっぱら憲法判例を中心に話が展開されているが、これに続いて千葉元最高裁判事自身が調査官解説の役割を簡潔にまとめた論稿も書かれている(千葉勝美「憲法判例と学説との実りある対話のために-調査官解説の役割等」法律時報91巻9号116頁(2019年))ので、合わせて読むと理解が深まると思われる。

また、最近ホットイシューになっている「競争法の『個人情報保護』分野への進出」に関連して、ドイツ連邦カルテル庁が本年2月6日にフェイスブックに対して行った決定の内容を、舟田正之「ドイツ・フェイスブック競争法違反事件-濫用規制と憲法民法法律時報91巻9号156頁(2019年)が詳細に解説している。

元々、競争法の規制類型も、データ保護法の位置づけも日本とは大きく異なる状況で出された決定だけに、舟田名誉教授ご自身も「直接参考となるものではないという見方もあり得よう」(161頁)と最後に書かれているように、これをそのまま持ってくる、という話にはならないだろうと思う一方で、「しかし、独禁法における優越的地位の濫用は、ドイツGWB上の搾取濫用と共通する性格を有する。優越的地位の濫用の要件である、「不当に」、「取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し・・・」の解釈において、個人情報保護法民法憲法の法目的ないし保護法益の共通性・関連性を考慮する可能性もあるように思われる。」(161頁)といったコメントの当たりが昨今の当局の動きにもつながっているような気がして、まだまだ目が離せない分野だな、と感じたところである。

ジュリスト1535号(2019年8月号)

さて、一方のジュリスト。

ジュリスト 2019年 08 月号 [雑誌]

ジュリスト 2019年 08 月号 [雑誌]

特集は「国際商事仲裁・調停の展望」ということで、道垣内正人・早大教授が冒頭の言を書かれ、法務省の松井信憲国際課長から古田啓昌弁護士まで、これまで仲裁・調停にかかわってこられた方々が、それぞれの立場で論稿を載せられている。

この話題自体は、去年の暮れくらいからあちこちで接していたし、1月のオードリー・シェパードLCIA議長の基調講演まで聞きに行ったりもしたので、全く関心がないわけではないのだが、やっぱりこの話、何度目にしても「そもそも何で『日本で』(国際)仲裁を活発化させないといけないのか?」という感想しか出てこない。

手続言語が英語、仲裁人も海外から連れてくる形にして「国際標準」を強調するのであれば、それを日本以外の国でやったところで当事者の負担は大差ないわけで、それなら既に成熟した仲裁法廷が存在するシンガポールや香港を使った方がはるかに安心感がある。あるいは、日本企業間の紛争解決を仲裁に誘導したい*5、という意図もあるのかもしれないが、日本の裁判所が今そこまでパンクしかかっているのか?といえば、そうでもないように思うわけで、あえてここで「仲裁」をフィーチャーする意味がますます分からなくなる。

そもそも、裁判だろうが仲裁だろうが、企業同士のビジネス紛争の解決を自分たちではコントロールできない「第三者」に委ねざるを得なくなった時点で、ビジネスの現場の人間としては「負け」なわけで*6、それがこの分野の話にどうも力が入らない最大の原因のような気もしている*7

まぁ、「日本でオリンピックが開かれるのは良いことだ」と信じて疑わない人と、「競技会はそれぞれの競技にとってベストの場所でやるのが一番いいんじゃない?」と引いてしまう自分のような人間が、どこまで行ってもお互い分かり合えないのと同じなのかもしれないけれど・・・。

また、毎回興味深いテーマが多い「連載・新時代の弁護士倫理」も、今回は「共同事務所」に関する規律の検討、ということで、そこまで興味が惹かれるものではなかった*8

知財関係の論稿

ということで、ネガティブなところから始まってしまったが、「連載 知的財産法とビジネスの種」は今月も期待にたがわずで、平林弁護士の論稿が非常に面白かった(林健吾「これだけはやっておきたい、スタートアップに必須の知財対応5つ」ジュリスト1535号62頁)。

「どんなスタートアップにも必ず役立つ知財対応」として要領よくまとめられた説明の内容が非常に有益、というのもさることながら、例えば「商標権とドメイン」の話の中で、

「費用対効果の面から考えると『楽天』のように、覚えやすい造語が最適だ。『メルカリ』といった馴染みのない古語や外国語もよいかもしれない。『LINE』のような身近な単語を名称にすると、商標権やドメインの取得で難儀するのでやめておいたほうがよい。」(62頁)

といった、知っている人が読めば思わず笑みがこぼれる(?)ような小ネタを仕込むサービス精神が素晴らしい。

個人的には、アプリを開発した創業者の権利を全て会社に帰属させる、という試みは相応のリスクをはらむよなぁ…と思ったりもするのだが、将来のリスクを未然に防ぐ、という観点からはここに書かれていることを実践するにこしたことはないのであって、ジュリストを日頃読まない読者の方にこそ読んでもらいたい論稿だな、と思った次第である。

また、全く毛色は変わるが、三井大有「新たに始まる知財調停手続について」ジュリスト1535号90頁(2019年)は、本年10月1日運用開始にもかかわらず、自分がこの話を全く知らなかった、ということもあって、真剣に読まざるを得なかった(この手続きをどういう場面で使うことが想定されているのかが、今一つイメージしにくいところではあるのだが・・・)。

なお、「時の判例」では、昨年末の日産元社員による営業秘密不正使用事件の最高裁決定の解説が掲載されている(久禮博一「不正競争防止法(平成27年法律第54号による改正前のもの)21条1項3号にいう『不正の利益を得る目的』があるとされた事例ー最高裁平成30年12月3日第二小法廷決定」ジュリスト1535号96頁(2019年))。
最高裁決定の判旨を眺めているだけだと淡々と読み流してしまう類の事件なのだが、ちょっと下級審判決から読み直してみたい雰囲気もあるので、これはまた後ほど。

■気になる判例

最後に判例解説つながり、ということで、本号に掲載されている他の判例研究の中から気になったものを上げると、「労働判例研究」の野川忍「退職時の特約に基づく守秘義務の意義と義務違反の判断基準-エイシン・フーズ事件(東京地裁平成29年10月25日判決)」ジュリスト1535号120頁(2019年)。

これもちゃんと判決文を読まないと軽々にはコメントできないのだが、野川教授の「契約上の秘密保持義務の対象となる企業秘密に対して不競法上の営業秘密の要件を援用することに対し、上記のとおり知財法研究者には違和感はないようである。」(123頁)の一言に少々ドキリとしたところもあって(そんな知財研究者の先生方の教えを受けた者にも当然違和感はないので・・・)、もう少し自覚的に検討しないとな、と思ったところ*9

また、純粋に事案として興味をひかれたのは、「渉外判例研究」に出てくる楽天野球団の外国人選手との契約交渉破棄をめぐる仙台地裁の判決(岩本学「プロ野球選手契約交渉の破棄に基づく損害賠償請求権の準拠法(仙台地裁平成30年9月26日判決)」ジュリスト1535号128頁(2019年))。当該選手に米国で起こされた訴訟に対応する形で楽天側が地元の裁判所で債務不存在確認を求めた、という事件で、解説によると、そもそも国際裁判管轄について判断しないまま準拠法の判断を「付言」で行って請求認容、というなかなかすごい話になっているのだが、これもまだ判決そのものには接していないので、「この選手誰だろうと思って調べたら、ザック・ラッツ内野手という、とってもマイナーな選手だった」*10ということだけ、ここには書き残しておくことにしたい。

*1:なお、平成の前後を知るちょうど真ん中くらいの世代、ということもあって、自分に近い世代の研究者が執筆陣に多く名を連ねているのも目を引き付けられた理由の一つ、である。

*2:法律時報91巻9号23頁(2019年)

*3:法律時報91巻9号30頁(2019年)

*4:大事なのは、いかなる法改正でもあくまでベースとなるべきは立法事実であって、それを「多面的に」把握した上で学問的な文脈に乗せていくのがあるべき姿だということ。学者の議論が先行しすぎると「債権法改正」の二の舞になるし、一方向からしか立法事実や現実の社会実態を把握していない(ように見える)状況で発言したのでは、ただの”(悪い)ロビイスト”になってしまい、結局存在感を発揮できない、ということになってしまうのではないかと思う。

*5:本号でも垣内教授が紹介されているのだが(垣内秀介「日本商事仲裁協会仲裁規則の改正とその意義」ジュリスト1535号22頁(2019年))、2019年1月施行のJCAA仲裁規則の改正に伴って、日本の裁判所の運用に親和性がある「インタラクティヴ仲裁規則」が制定されており、関係者による説明の際には日本企業間の紛争処理にも活用してほしい、といった趣旨のコメントもあったと記憶している。

*6:中には「仲裁での紛争解決こそ『法務の出番』だ!と勘違いしている人もいるかもしれないが、ビジネスの前線の人間の感情を理解せずに本気でそう思っている人がいるとしたら、法務担当者としては失格だと思う。紛争解決を糧とする弁護士ですら、取引法務の世界で実績を残している方であればあるほど、訴訟提起や仲裁申立を積極的に示唆するようなことはしない。

*7:もちろん、インフラ案件で発注元の外国政府とか公営企業から理不尽な扱いを受けたような場合であれば、法的解決を求める大義も十分にあるのだが、そういう案件のほとんどは「日本」を仲裁管轄地にする余地のないような契約によって縛られている。

*8:厳格に解釈すると、共同事務所内での利益相反を回避するのはかなり大変なわけで、それでもなお「共同」でやる意味、事務所をどんどん巨大化させていってしまう意味、というのが自分にはわかりかねていて、むしろ「複数の独立した事務所(弁護士)同士の連携」というのが自分が目指している方向だったりもするので。

*9:ただし、野川教授が指摘されているような「使用者の利益の保護」という観点から守秘義務の対象を拡張することについては賛同しかねるところもあり、結局は不競法の要件を用いる方がバランスはとりやすいようにも思うところなのだが。

*10:日本での試合出場は僅か15試合。ただ、打率は3割1分4厘、ホームランも5本、と片鱗は見せていて、それがギリギリまで契約更新か破棄か、で球団を躊躇させる一因になったのかもしれない。

「法務」という名の船に乗って、我らはどこへ向かうのか?

先月号の予告の時点から気になっていた企画ではあったのだが*1、やっぱり読んでみたら迫力満点、そして考えさせられることも山のように出てきた、ということで、月例の法律雑誌シリーズとは別立てで、ジュリスト2019年8月号の「HOT issue」を取り上げてみることにしたい。

ジュリスト 2019年 08 月号 [雑誌]

ジュリスト 2019年 08 月号 [雑誌]

奥邨弘司=片岡詳子=北島敬之「鼎談 企業内法務の展望と戦略」*2

今回のメンバーは、日商岩井の法務からJohnson & Johnsonを経てユニリーバ・ジャパンのジェネラル・カウンセルに転じられ、遂にはユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社の代表取締役にまで上り詰められた北島氏と、パナソニックを振り出しにファーストリテイリングUSJ、そして現在のコーチ・エイに至るまで企業内弁護士として活躍されている片岡氏、そして第一線の知的財産法研究者であると同時に、企業法務部出身というバックグラウンドを活かして企業内法務の在り方について様々な提言等も行っておられる奥邨教授の3名。

生粋の企業育ちで経営の中枢にまで入り込まれ、NBLやBLJ等、他の媒体等でも「企業法務の顔」として登場されている北島氏と、真の意味での「企業内弁護士」のパイオニア(だと自分は思っている)、片岡氏を組み合わせる、という人選はBest of Bestだし、このお二人の研ぎ澄まされたコメントを引き出しているコーディネーター役の奥邨教授の進行もお見事で、これまで数々の名企画を輩出してきたジュリスト「鼎談」の中でも一、二を争う充実したコンテンツになっているから、ここであれこれ論評するより、

「とにかく買って、手に取って読んでみてください」

というのが正しい勧め方だと思うのだけど*3、それでもあえて”気になった”ところに触れつつ、以下、コメントを試みることにしたい。

「企業内法務」に一番求められているものは何なのか?

冒頭から、

「昨今の急激なビジネス環境の変化の中、企業内法務に求められる役割とは。令和時代の法務にとっての戦略とは。」

という振りかぶったリードで始まっていることもあり、本鼎談も、自己紹介からの流れで「法務の役割」の話にスッと入っていく。
前提となっているのは「かつては少し軽んじられていた」法務が「今は非常に重視されるような形に変わってきた」というトレンドで(v頁、奥邨発言参照)、この点については、北島氏と片岡氏の間にも大きなギャップはない*4

その上で、「戦略法務」や「攻めの法務・守りの法務」といったマジックワードも交えながら、これからの法務の在り方、そして、「企業内法務パーソンに必要なスキル」も含めたより踏み込んだ話に入っていくのだが、ここで出てくるのが珠玉のコメントの数々である。

「戦略というのは企業における事業戦略で、事業戦略を実現するための法務の在り方が強いて言えば戦略法務だというように、そこで(筆者注:法務のミッションはGuardianであり、Business Partnerである、という話を聞いたときに)はっきり意識しました。」
「この機能(筆者注:臨床、予防、戦略)を3つに分けて整理してしまう一番の弊害は、それでは私は臨床をやります、私は予防が好きですというように得意分野、好きな分野に特化してしまいがちなところです。企業内法務の人間は、もちろん得意分野とか専門性を持つことは大事なのですけれども、基本的にはオールラウンドでなければいけません。」
「法律家というのは分類したがるのですけれども、分類しないでありのままのビジネスの状況を受け止めて、何が役割かと考えたほうがいいのではないか。」
(以上50頁、北島発言。強調筆者、以下同じ。)

「私は、法務も『戦略的であるべき』とは思います。訴訟にしても契約書チェックにしても、あらゆる仕事において、戦略的であるべきです。」
「私は、企業内法務パーソンに必要なスキルを3つに分類していまして、①法律、②組織、③その会社、です。」
「①②③のバランスは所属する会社・組織や、各人のポジションによっても異なりますが、企業内法務パーソンには必ず3つとも必要です。法律事務所からインハウスに転向した弁護士は、私もそうでしたが、②に課題がある場合が多いと思います。」(以上51頁、片岡発言)

「我々は、何でもかんでも『リスクがあるね』と言いたがりなのです。でも、それはほとんどが心配事、ハザードなのです。その心配事(ハザード)から、実際にそれが現実的なリスクになる可能性、蓋然性をきちんと見積もり、更にそこからリスク低減のためのアクションをどのようにとっていくか、について具体的なアドバイスをすることが求められると考えています。また、リスクのインパクトを見積もる際に、実際にどのようなコントロール・メジャメントが存在しているのかを考慮して、正味のリスクを出していく。この一連のプロセスを迅速に、シャープにやらないといけない。そのためには、やはりビジネスをよく理解する必要がある。深いビジネスへの理解なしに、分析し、理論的にこの契約の条文は不利だからやめましょうというようなアドバイスだけでは、ビジネスの現場の人たちには全く響かないのではないかと思います。」(51頁、北島発言)

「リスクを取るか取らないかの判断は経営判断だと思うのです。法務部門の仕事は、できるだけリスクをあぶり出す一方で、そのリスクが秘めている潜在的な価値を見極め、従来のやり方にとらわれない革新的な解決策やリスクインパクトの具体的な低減策を、経営陣やビジネスの現場に伝え、正しい価値判断へと導くことであり、それが企業内法務としてのプロフェッショナリティーだろうと思います。」(52頁、北島発言)
多分、法務の人間が『リスクがあるからできません』と言ったら、それでビジネスの現場の人たちは従うとは思うのですが、法務部門の存在意義やサービスのクオリティについては疑念を抱くだろうと思います。かつて、ユニリーバ・グローバルの人事のトップが、法務マネージャーとは、ビジネスリーダーで法務のことをよく知っている人(”Business Leader who knows a lots of legal) という定義をしていました。法律の専門家でビジネスをよく理解している人ではないのです。」(以上52頁、北島発言)

「事業部門や経営トップが法務部門の働きや機能を十分に理解していないという点については、確かに、これは法律問題であるとか、これは法務に相談したほうが良い案件であるとかいう『切り分け』が事業部門や経営層からなされてしまい、本来は法務部門として関与すべき案件に関われていない、というのがあると思います。ただ、法務が信頼を勝ち得ていないということでもあるので人のせいにはしていられません。」(52頁、片岡発言)

かなり引用が多くなってしまい恐縮だが、それなりに長く、真摯に「法務」という仕事に向き合ってきたものであれば、ここで取り上げた一つ一つのコメントに共感できるものがあるはずだし、自らの置かれた環境を振り返って考えさせられることも多々湧いてくるはずだ。特に、北島、片岡両氏に共通する「企業内法務の人間はオールラウンドでなければならない」「組織の動かし方やビジネスに通じていなければならない」という点は、自分が一番意識し、上にも下にも口を酸っぱくして言い続けてきたことだけに、改めてこういう形で活字になっているのを見ると、非常に勇気づけられる。

そんな中、あえて突っ込みを入れるなら、片岡氏が挙げられている「必要なスキル」の3つの要素のうち「①法律」に関しては、ここで説明されている内容(「法律についての知識や実務経験」)以上に、奥邨教授が挙げられている「リーガル・マインド」の方が大事だと思うし*5、それゆえに「法務リテラシーに関しては、有資格者に一定の優位性がある」という片岡氏のコメント(48頁)にも少々首をかしげたくなる、といったところだろうか。

また、各発言者が口をそろえて、「戦略法務」とか「攻め・守り」といった切り分け方に懐疑的なコメントを述べられていることに関しては、「法務の内側」にいる者として非常に気持ちはよく理解できるのだけれど、こういったフレーズはあくまで「法務の外にいる人々」に向けて発信するために作られた言葉でもあるわけで*6、「法務の中にいる当事者がこれらのマジックワードに騙されて思考停止しないように」というところまではよいとしても、それを否定するのであれば、それに代わる何かを用意するところまで考えないと、議論を発展させることはできないような気がする*7

北島氏は、「Guardian とPartnerということになると、そのために何をするか、例えば法務部員の能力をどのように開発するか、あるいは組織としてどういう体制にするかという、とるべき施策が非常に分かりやすくなってくるのです。」(50頁)とコメントされているが、「Guardian」にしても「Partner」にしてもマジックワードであることに変わりはなく、「オールラウンドであるべき」という思想までは一応伝えられるものの、具体的に何をどこまですればよいのか、という答えは、ハイネマン氏の本を読んでも簡単には出てこないということには留意しておくべきだと思っている。

あと、(これは以前別の機会でも聞いたことがあった話だったが)北島氏のレベルまで行っても「我々は結構いろいろな意味で頼られていると思うのです。でも、本当の意味で信用されているかというところは、なかなか我々自身もよく分からないところがあります。」(53頁)と悩んでいる現実がある、ということも、しっかり受け止めておくべきなのだろう。

自分が企業内で仕事をしていた中で、最後の数年は、事業戦略、経営戦略にかなり深いところまでコミットできたつもりではあったのだけれど、それが北島氏のいうところの「信用」のレベルにまで達していたのか、達していなかったのだとしたら次は何をどう変えていけばよいのか、ということは、これからも自問自答していくことになるのだろうと思っている。

企業における「法務」のポジションと組織論

鼎談の54ページ以降は、「組織論について」という話になるのだが、ここでも興味深い話はいろいろと出てくる。

片岡氏のGCとCLOというのは違いますか、一緒ですか」というストレートな質問に、北島氏が答えているやり取りもなかなか見ものではあるが(54頁)、やはりここでも、一番ささったのは、「法務の役割」とも関連する以下のようなコメントだった。

「なぜいまだに法務責任者が経営陣の一角を占めるケースが少ないのか。これは、全くの私見ですが、(中略)法務部門の仕事は何か、ということについて、これまで、法務部門はあまり積極的に可視化を高めることをしてこなかったのではないでしょうか。」
「基本的にはボードメンバーと言いますか、あるいはそれに近いぐらいのポジションになることは、誰かからなってくださいと頼まれるのを待つのではなく、そのポジションに就いて一体何をするのかというところを、きちんと示していかないといけないのではないかと。」(以上54頁、北島発言)

「例えば契約の交渉とか、何でもいいのですけれども、お客さんと話をする、きちんとお客さんから信頼されるような法務の人間になるというのが目指すところだと思うのです。例えば、このビジネスの成立のために契約書を早く締結すべきなのであれば、メールで延々とやりとりをしているのではなく、取引先に赴いて話をしながら、どんどん決めてくるスタイルに変えるということは考えられます。このような変革を積極的にやるというマインドが出てこないと、多分、その上のポジションに上る機会が少なくなるのではないかと思います。」(55頁、北島発言)

後者に関しては、自分も非常に意識していたところで、「契約交渉がこじれたら自分たちが出ていく」というスタイルは駆け出しのころから徹底していたのだが、それをやったからといってボードメンバーに近づくチャンスが簡単に生まれるほど世の中甘いものではない*8。ただ、これからの時代、「上」を望むかどうかにかかわらず、法務だからと言って会社の中にこもって一日を終えられるような優雅な環境はもはや与えられないと考えた方が良いだろうし、その意味で「営業」的な役割までカバーできるようなポリバレントさを兼ね備えることが、「法務」が生き残る条件ともいえるわけで、この後に出てくる「自分たちの目的」の定義と合わせて、参考にすべきところは多かったように思う。

これからの「法務」の姿

この後も「鼎談」は続き、法務におけるキャリア像*9や、「司法修習後に企業に行くべきか、それとも法律事務所に行くべきか」*10、さらにこれからの企業内法務の行方に影響を与えそうな「人権」と「デジタル(AI)」の話まで行って終幕を迎える。

巻頭のカラーページを合わせて18ページ。

これだけストレートに「企業内法務」を正面から取り上げた記事が、BLJやNBLのような企業内法務に馴染みの深い媒体ではなく、「ジュリスト」という雑誌に掲載されたことは、何度読み返しても実に感慨深いことである。

ただ、大事なのは、(筆者自身も含め)こういった企画記事を「法務」に関わっている人間だけで回し読みして、「そうだよね~」と共感しあっていても埒が明かない、ということで、これから求められるのは、そこに描かれている課題や目標を、”門外漢”の人々に分かりやすくストレートに「言語化」「ビジュアル化」して伝えることだと思っている*11

どこの会社でも少数民族、かつ、おおむね非主流派。それゆえ、会社や業界が異なっても、「法務」というキーワードだけで、喜びも悲しみもそれぞれの事情も何となく分かりあえる、いわば「同じ船」に乗っているかのような感覚を味わえる良さを否定するつもりはないのだけれど、いつまでたっても古い小さいままの船に「自分が漕ぎたいように漕ぐことにしか興味ない」人がたくさん押し寄せても前には進めないし、いつか沈んでしまうだろう・・・。

それゆえ、「新しい船」を作り、それぞれの船で明快な進路を示せる「船頭」を少しでも多く育てていくことがこれからのミッションだ、と自分は信じてやまないのである。

*1:最近の法律雑誌より~ジュリスト2019年7月号 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~の最後の「なお」以下参照。

*2:ジュリスト1535号ⅱ頁、48頁以下(2019年)。

*3:特に、今まさに企業内であれこれ悩んでいる法務部門のマネージャー層と、これから企業内法務の道に進もうかどうか悩んでいる学部生、法科大学院生、司法修習生にとっては必読だろう。

*4:なお、お立場的にはJILA的なポジショントークに走っても不思議ではない片岡氏が「インハウスの増加により企業内法務に変化が起きたかというとそれはちょっと違うと思っています。」(48頁)とズバッと言い切られているところが素晴らしいな、と個人的には思った。

*5:端的に言ってしまえば、「知識」が備わっていなくても、「この説明の理屈はおかしい」とか、「正義衡平の観点からバランスが悪い」という点にビビッドに反応できさえすれば、最低限法務の仕事は務まる(逆にいくら法律知識があっても、そこで反応できないようなら法務担当者としての存在意義はない)ということである。もちろん、5年、10年やって「私は法律は分かりません」だと困るが、ベースとなるマインドやセンスがしっかりしていれば、全く法律の前提知識がない状態で着任しても、短期間のうちに必要な知識は吸収できるし、そうやって企業内で育てられてきた足腰の強い法務担当者を自分はたくさん見てきただけに、「有資格者だから重宝する」という文化には全く賛同できない

*6:分かりやすい例として、「法務の人員を増やしてください」と何度人事部門に要請しても相手にしてもらえなかったのが、「攻めの法務、戦略法務を実現するために〇人要員が必要なんです」というと、一気に2~3人要員増になった、という実話もある。目くらまし、と言われようが、そういう術を駆使しないと組織を守り育てることはできない、という現実があることは忘れるべきではない。

*7:ちょっとした言葉の「定義」等にやたらこだわった結果、何ら生産的な結論を生み出せずに時間を浪費する、という法務の人間だけで議論するとよく陥りがちな話になってしまう。

*8:そもそも、外で営業をやっている人間より、社外の人間とはほとんど接点を持たない他の管理部門の人間の方が上に行きやすい会社でもあったから。

*9:その中で北島氏の十八番、「Wordがよくない」のネタも登場(58頁)。あと、片岡氏の「仕事の報酬は仕事である」の一言も決まっている(57頁)。その後に続く「法務職人として50歳、60歳まで活躍するというのは今のところなかなか難しい」というのは厳しい言葉ではあるけど、容赦なく襲ってくる現実でもある。

*10:この点に関しては、片岡氏、北島氏ともに「縁があればさっさと企業に行った方が良い」と口を揃えておっしゃっていて素晴らしいな、と思った(59~60頁)。奥邨教授は「事務所から企業は行きやすいが、企業から事務所は難しい」という趣旨の発言をされているのだが、事務所経験がほとんどない状況で入社した社員が数年後に名門法律事務所に転職する、というパターンは結構いろんなところで目にするし、きちんと会社の中で経験を積んでいれば引く手はあまたある(もっとも企業内で経験を積んだ人間に、わざわざ既存の法律事務所に行くようなモチベーションが生まれるかどうかは別の話)、というのが実態だと思うので、そこはあまりバイアスをかけた情報にしない方が良いのかな、と思うところではある。

*11:こういうことを言うと、「そもそも、お前の書いている紹介記事がダラダラと長いじゃねーか!」と厳しいお叱りを受けることは避けられないのだが、そこはTPOに応じた(?)使い分け、ということでご容赦いただければ幸いである。

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